75歳まで可能となった年金の繰り下げ請求について、2023年4月にある法改正を控えています。
繰り下げすることで1か月あたり0.7%の増額があり、銀行の利息と比較するとそのメリットの大きさは明らかです。
今回は2023年4月に控えている法改正の内容にフォーカスし、解説します。
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特例的な「繰下げみなし増額制度」とは
まず、2022年4月から老齢年金の繰り下げ受給開始の上限年齢が、旧来の70歳から75歳に引き上げられました。
増額率は一律に0.7%とされ、仮に75歳まで繰り下げると84%もの増額となります。
他方、繰り下げは繰り上げと違って実際に受給し始めているわけではありませんので、繰り下げ請求をしないで過去にさかのぼって年金を受け取るという選択も可能です。
ただし、75歳まで繰り下げが可能となったことで、たとえば72歳で繰り下げ請求せずに過去にさかのぼって受給したいと申し出た場合、年金の時効は5年であることから、5年を経過した分である、67歳~65歳の部分は時効消滅していることになります。
これでは75歳までの繰り下げ請求はリスクが伴うものと言えます。
このような法律上の背景を踏まえ、「70歳到達後」に、繰下げ申出をせずにさかのぼって年金を受給したいという場合、「請求の5年前の日」に「繰下げ請求の申出しをしたもの」とみなして、「増額された年金の5年間分」を一括して受給できるようになります。
この制度が「特例的な繰下げみなし増額制度」ということです。
なお、実際の手続きは2023年4月以降可能となります。
対象者
1952年4月2日以降生まれの方(2023年3月31日時点で71歳未満の方)が対象となります。
また、老齢基礎年金、老齢厚生年金の受給権を取得した日が2017年4月1日以降の方(2023年3月31日時点で老齢基礎年金、老齢厚生年金の受給権を取得した日から起算して6年を経過していない方)です。
また、80歳以降に請求する場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合は、特例的な繰下げみなし増額制度は適用されませんので注意が必要です。
本制度の注意点
過去分の年金を一括して受給するということは、その時に受けるべき年金を今受けることを意味します。
これ自体は至極当然の話ではありますが、受給できるものがあるということは控除されるものもあるということですので、過去にさかのぼり、介護保険料の再計算、確定申告の修正が必要となる可能性があります。
繰り下げ制度の前提条件
繰り下げについては
- 国民年金(老齢基礎年金)のみ、
- あるいは厚生年金(老齢厚生年金)のみ、
- あるいは両方
も可能です。
ただし、65歳前から支給される特別支給の老齢厚生年金は繰り上げという概念がありませんので、受給開始年齢到達後は速やかに請求手続きをしましょう。
ただし、加給年金対象者(例えば年の差婚で年下の専業主婦である配偶者がいる)がいる場合、厚生年金の繰り下げをしてしまうと加給年金は支給されません。
加給年金は原則として配偶者が65歳到達をもって終了となります。
また、繰り下げ「待機中」に亡くなった場合、65歳時点の年金額で決定され、一括して未支給年金という形で遺族に支給されますが、時効により消滅する分もあるので、万が一病気を患った場合は家族と年金の請求について話し合いの場を設けておくのが有用です。
健康状態を勘案し判断しよう
繰り下げは最低でも1年(65~66歳)は繰り下げる必要があり、以後は1か月ごと繰り下げ請求することは可能です(例えば66歳1か月での請求も可能)。
他方、他の年金の受給権が発生(例えば遺族年金)した場合、その時点で繰り下げの申し出があったものとみなされ、増額率が固定されることとなります。
繰り下げについては、遅らせれば遅らせるほど損益分岐点が後ろに下がる(長生きしなければ、65歳から受給の方が多くを受給できたということにつながる)こととなりますので、健康状態等も勘案し判断していくことが有用です。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)
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