脱税事件をネットニュース等で目にする機会も多いですが、国税組織がどのくらい税務調査を行っているかはあまり知られていません。
本記事では国税庁が公表している資料から、現在の税務調査の状況や税務署が重要課題にしているポイント、そして今後想定される税務調査の取り組みついて解説します。
確定申告をしていなくても税務署から電話がかかってくる可能性あり 3つのケースを紹介
1件当たりの追徴課税の金額は増加している
令和2事務年度の所得税の実地調査件数は5万9,683件、前年比39.9%と大幅に減少しています。
※令和2事務年度は、令和2年7月から令和3年6月までの1年間です。
調査件数が少なくなっているのは、新型コロナウィルスの影響により税務調査が実施できない期間があったのが大きな要因です。
しかし1件当たりの申告漏れの所得金額で前事務年度と比較してみますと、令和元事務年度の945万円から1,257万円に増加しており、追徴課税額は224万円と前年比134.9%です。
※追徴税額とは、税務調査を受けたことにより納めることになった税金で、本税・加算税の合計金額をいいます。
また富裕層に対する調査状況に絞ってみても、1件当たりの申告漏れ所得⾦額は2,259万円と、前事務年度の1,767万円より492万円増加しています。
そのため令和2事務年度は税務調査件数が大幅に減少した一方で、悪質・高額な申告漏れの事案を中心に調査したことで追徴課税額が増えた結果となりました。
海外投資への課税強化は国税組織の重点課題
グローバル社会になり、国税組織はここ数年国際課税の強化を重点課題として取り組んでいます。
海外投資等を行っている個人投資家への令和2事務年度の調査件数は、前年比55.1%と減少していますが、全体の実地調査件数が前年比39.9%なのを踏まえると、国際課税を優先的に調査しているのがわかります。
国際課税調査の内訳としては、海外投資が43.6%と最も多く、輸出入(6.4%)、役務提供(6.2%)が続いています。
インターネット上で海外投資を行えば履歴が残りますので、税務署は申告の有無は簡単に把握できますので、申告漏れにはご注意ください。
今後はインターネット事業への調査が増える可能性大
税務署は今後、シェアリングエコノミー等での経済活動に対する税務調査を積極的に実施する可能性が高いことが想定されます。
国税庁が定義する「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動」とは、シェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販、ネットオークションなどの経済活動です。
税務調査の実施件数が増加する理由としては、シェアリングエコノミーによる経済規模が大きくなっている点と、新分野で活動する事業者の納税意識は既存の業界の方々よりも低く、申告漏れや脱税が多い点が挙げられます。
実際、事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な業種の第1位は「プログラマー」であり、経営コンサルタントや商工業デザイナーが上位10業種に含まれているのは、今までになかった傾向です。
シェアリングエコノミーへの調査状況としては、ネットトレードに対するものが40.3%と最も多いですが、メルカリで収益を上げている人やYouTuberへ調査が及ぶことも十分考えられます。
給与所得者も税務調査の対象になる可能性がある
税務調査は事業者に対して行うイメージがありますが、サラリーマンなどの給与所得者も仮想通貨取引により所得を得れば申告手続きが必要です。
税務署が自宅に訪れて調べるのだけが調査ではなく、電話や手紙などにより申告誤りや申告漏れを指摘する税務調査もあります。
参照:国税庁(pdf)
「申告しなくてもバレないだろう」との認識は一番危険ですので、申告が必要となった際は、確定申告期間中に手続きを済ませてください。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)
【確定申告】納税者が誤解しやすい5つの注意点 元税務署職員が解説