
民泊新法の施行やインバウンド需要の高まりとともに近年注目を集めている民泊事業ですが、法令への適合や地元住民の理解など、開業にはいくつかのハードルがあります。
本コラムでは、民泊を始める際に注意すべきポイントや具体的なステップ、必要な費用などを交えて詳しく解説します。
民泊とは?

民泊とは、所有する住宅の一部または全部を他人に有償で貸し出し、宿泊サービスを提供することをいいます。民泊を始めるには、原則として行政の許可を取ったり、所定の届け出を行ったりする必要があります。許可を取らずに営業を開始してしまうと、違法民泊として刑事罰の対象にもなるため、必ず許可を得てから開始するようにしましょう。
かつては海外からの観光客を中心としたインバウンド需要の受け皿として注目を集めましたが、近年では国内の旅行者やワーケーション利用者からも支持を集めています。民泊は一般的なホテルや旅館とは異なり、より生活感のある空間で宿泊できる点が魅力とされており、コストパフォーマンスや地域とのふれあいを求める宿泊者に好まれる傾向があります。
民泊の定義と種類
民泊には、旅館業法に基づく簡易宿所型の民泊、国家戦略特別区域法に基づく特区民泊、住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)に基づく民泊、の3種類があります。それぞれ根拠法令や管轄省庁が異なり、開業の条件などが異なるため注意が必要です。
種類 | 許認可 | 最低床面積 | 条件 |
---|---|---|---|
簡易宿所型民泊 | 許可 | 33㎡以上 (宿泊者数10人未満の場合1人あたり3.3㎡以上) | ・フロントやスタッフの常駐が必要 ・延べ面積が100㎡超である場合は、用途変更が必要など |
特区民泊 | 認定 | 原則25㎡以上/1室 | ・国家戦略特別区域内として指定された地域のみで開業可能 ・最低滞在日数に縛りがある(1グループあたり、3日間の滞在が必要) |
民泊新法に基づく民泊 | 届出 | 1人あたり3.3㎡以上 | 年間の営業日数が180日以内 |
これまで民泊は、簡易宿所型民泊として開業されることが一般的であったものの、フロントやスタッフの常駐が義務付けられていたり、営業開始まで数ヵ月から半年程度の時間がかかったりと、柔軟な運用が困難でした。一方で特区民泊は、フロントやスタッフの常駐が不要になったものの、国家戦略特区として指定された地域でしか開業できず、地理的な制約が設けられています。
そこで2018年6月に施行された民泊新法では、年間180日以内という営業日数制限が設けられているものの、住宅宿泊事業者として届出を行うだけで全国どこでも開業できることとなり、民泊開業の負担が大幅に軽減されました。
また、民泊を開業するにあたり、簡易宿所型民泊では行政による審査を経た「認可」が、特区民泊では認可とほぼ同様の「認定」が必要ですが、民泊新法に基づく民泊では「届出」で足りることとなりました。これにより、届出後に自治体による書類審査や現地確認が行われることがありますが、要件を満たして必要な書類を提出することで早期に民泊を開業できるようになりました。
インバウンド需要の高まりと民泊市場の動向
民泊は外国人観光客からの人気が高いため、民泊を始める際にはインバウンド需要を把握することが欠かせません。
観光庁の調査によると、2024年の訪日外国人旅行者数は3,687万人で、過去最多を記録しました。これに伴い、民泊利用客も増加しており、2024年12月1日から2025年1月31日までの間で、41万7,662人(前年同期比157.6%)が民泊に宿泊し、そのうち、日本人が15万9,534人(前年同期比118.0%)、外国人が25万8,128人(前年同期比198.9%)でした。
出典:観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数(2025年1月21日)」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shutsunyukokushasu.html)及び観光庁「住宅宿泊事業の宿泊実績について(2025年3月28日)」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/content/001891326.pdf)
また、日本政府は2030年までに年間6,000万人のインバウンド観光客を誘致することを目標に掲げており、観光客の増加に伴う宿泊施設の不足が課題の一つとして掲げられています。
このように、インバウンド観光客の総数や、民泊に対するニーズは今後さらに高まることが予想されており、民泊はインバウンドビジネスとしても注目を集めています。
民泊を始める際の注意点

ここまで紹介したように、民泊新法により開業が容易となったことや、ニーズの高まりを受けて、民泊経営はますます注目されています。しかし、民泊経営には次に紹介するようなリスクも伴うため、慎重な判断が求められます。
管理規約や条例等の規制:将来的な変更も有り得る
民泊を運営する際にまず確認すべきことが、物件の管理規約や地域の条例についてです。
特に分譲マンションでは、管理組合が民泊利用を禁止していることや、自治体によっては条例で独自の制限を設けている場合もあります。例えば、特定エリアでは営業可能日数がさらに制限されていたり、届け出に厳しい条件が課されていたりすることがあります。
また、現在は民泊が禁止されていない場合でも、将来的に管理規約や条例が変更される可能性は十分にあり、常にこれらの規制に対応するのは現実的に困難です。そのため民泊を始める際には、現時点での状況はもちろんのこと、今後の規制強化や禁止リスクも織り込んだ上での非常に難しい意思決定が求められます。
年間の営業日数は180日まで:事業として収支が成り立つか
民泊新法に基づく民泊では、「許可」や「認定」が不要になり「届出」のみで形式的な審査を経て早期の営業が開始できる一方で、営業可能な日数が最大で年間180日までと法律で制限されており、実質的には年間の半分しか営業ができません。
そのため、仮に1泊あたりの宿泊単価が高くても、満室にならなかったりシーズンによる稼働率の変動を考慮したりすると、事業としての採算が合わない可能性もあります。特に、物件取得費や初期投資が高額になる都市部では、180日の制限内で収支を黒字化するには高い稼働率と精緻な運営戦略が求められます。
近隣住民の理解:理解を得られずに事業開始できないリスクがある
民泊の運営が規則上・法令上は問題がない物件であっても、実際の運営には地域社会の理解と協力が欠かせません。
管理会社や清掃業者を手配して運営管理を徹底したとしても、外国人観光客や短期滞在者の頻繁な出入りに対する住民側の不安や不快感を完全に解消することは難しく、苦情や反対運動につながることもあります。
そのため民泊事業を始める際には近隣への丁寧な説明と配慮を行い、信頼関係を築く努力が求められますが、それでも理解が得られない場合には開業を断念せざるを得ない可能性もあります。
民泊を始める場合の11のステップ
以下からは、民泊を始める際の流れを11のステップに分けて解説します。
ステップ① 開業資金を確保する
まずは、民泊を始めるために必要な開業資金を確保しましょう。物件の購入費もしくは賃貸による費用(敷金・礼金・初期費用)などのほか、すでに所有している物件を活用する場合にも、リフォーム費用や家具・家電の新調などの設備投資が必要です。
詳細は後述しますが、初期段階では少なくとも数百万円単位の開業資金が必要となるケースが多いため、自己資金の確保や借入れの計画などを事前に立てておくようにしましょう。
自己資金だけで賄えない場合は、出資や借り入れ、融資、補助金などの利用も検討しましょう。詳細はステップ⑥で解説します。
ステップ② 運営会社の受託条件を確認する
民泊の運営は自分で行うことも可能ですが、清掃手配や予約管理、ゲスト対応などの業務は手間がかかるため、多くのオーナーが専門の運営代行会社に業務を委託しています。
事前に複数の運営会社を比較・検討し、どのようなエリアや物件に対応しているのか、どこまでの業務を担ってくれるのかといった対応範囲に加え、手数料などの受託条件を確認しておくことが大切です。
ステップ③ 民泊可能な物件を選ぶ
民泊を始める際、物件選びは非常に重要です。まずは条例や管理規約などによって民泊として営業できる条件を満たしている物件を探すことが大前提となります。
もっとも、トラブルを避ける意味では、集合住宅ではなく戸建てや一棟物件を選ぶ方が現実的といえるでしょう。
ステップ④ 法規制や管理規約を確認する
ある程度物件の目星がついたら、民泊に関する法律のほか、各自治体の条例や、物件自体の管理規約を確認しましょう。
この際、準拠法令に応じて床面積や営業可能日数、設置すべき設備なども異なるため、状況に応じて弁護士や民泊管理会社など、専門家の力も借りながら法令等を確認することをおすすめします。
ステップ⑤ 事業計画を作成する
次に、事業計画を作成します。事業計画は、事業の内容や収支計画、具体的な活動を時系列化して明確にすることで事業可否判断の基となるほか、金融機関からの資金調達を行う上でも重要な資料となります。どの物件をいくらで購入・改修し、年間の稼働率や宿泊単価をどの程度見込めるか、運営会社への手数料や清掃費用、固定資産税、ローン返済などの支出を含めた詳細なシミュレーションを行いましょう。
この際、収入の見込みが高くても、オフシーズンの稼働率やキャンセル、クレーム対応などの要因で収益が安定しないリスクもあるため、複数のシナリオで損益分岐点を確認しておくことが重要です。
ステップ⑥ 金融機関への融資相談
続いて、金融機関でローンの借入れについて相談します。民泊事業は一般的な不動産投資よりも安定性が低いと判断されやすいため、融資審査が厳しくなる傾向にあります。また、民泊新法は2018年に制定されたばかりなので、民泊専用のローンとして取り扱っている銀行は多くありません。
住宅ローンを民泊用物件に利用することはできないため、事業用ローンや投資用ローンを利用することとなりますが、これらのローン商品は事業計画書などの書類の提出を求められることもあります。「民泊事業ローン」を扱っている金融機関も含め、融資を受けることを検討している場合は早い段階で相談を始めることをおすすめします。
ステップ⑦ 近隣への説明を行う
民泊を運営するためには、行政への許認可だけではなく、物件の周辺住民への説明も大切なステップです。法律上は義務づけられてはいないものの、ほとんどの自治体で周辺住民への周知・説明が条例により義務づけられています。
仮にこのような義務がない場合であっても、民泊を始めるにあたっては、管理体制等についてきちんと近隣住民に説明する機会を設け、地域と良好な関係を築くようにしましょう。
ステップ⑧ 物件を購入する
事業計画が固まり、融資の目処が立ったら、いよいよ物件の購入手続きを進めます。民泊用物件として適しているかどうかを再確認したうえで、契約条件や引き渡し時期などを売主と調整しながら進めていきましょう。
購入後すぐにリフォームや設備投資が必要になることが多いため、施工業者の手配や資金の確保も事前に進めておくことが必要です。
ステップ⑨ 届出・許可申請を行う
物件を確保したら、準拠法令に応じた許認可を取得します。基本的に、簡易宿所型民泊の「許可」を取得するのが最も難しく、特区民泊の「認定」、民泊新法に基づく「届出」と続きます。
旅館業法(簡易宿所)に基づいて民泊を開業する場合は、民泊を行う建物が所在する都道府県の保健所に申請をします。国家戦略特区法(特区民泊)に基づいて民泊を開業する場合は、都道府県知事または市町村長から「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」について「認定」を受け、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づいて民泊を開業する場合は、管轄する都道府県知事に「届出」を行います。
許認可の取得にあたっては、消防法令適合通知書の取得や保健所への確認なども含めた一連の法的手続きが必要となるため、専門業者や行政書士に依頼するのがおすすめです。
ステップ⑩ 内装や設備を整える
民泊運営の準備として、宿泊者が快適に過ごせる空間づくりは欠かせません。宿泊者の満足度を高めることが、リピート利用や高評価レビューにつながり、結果として集客力の向上にも直結します。
内装やレイアウトのほか、Wi-Fiの完備や多言語対応の案内冊子、チェックイン方法の明確化など、ストレスなく利用できる工夫も重要です。また、清掃のしやすさやメンテナンスの手間も考慮した素材選びもポイントとなります。
ステップ⑪ 集客・運営を始める
すべての準備が整ったら、いよいよ民泊運営をスタートさせます。まずは、OTA(Online Travel Agency)と呼ばれる予約サイト、例えばAirbnbやBooking.comなどに物件情報を登録し、写真や説明文を充実させます。特に写真は印象を左右する重要な要素となるため、プロの写真家に依頼することも検討しましょう。
また、料金設定は周辺相場やシーズンを意識し、柔軟に調整していくことがポイントです。運営開始後は、宿泊者からの問い合わせ対応やチェックイン対応、清掃スケジュールの管理など、日々の業務が発生するため、必要に応じて運営代行会社に業務を委託しましょう。
民泊を始める際の費用

次に、民泊を始める際にかかる代表的な費用項目について詳しく解説していきます。
物件購入費用・リノベーション費用
民泊を始める際、もっとも大きな出費となるのが物件の購入費用です。特に都市部や観光地では、立地が集客に直結するため、人気エリアの物件は高額になる傾向があります。
中古物件を購入して民泊用にリノベーションするケースも多いですが、その場合は改装費も別途発生します。内装の美しさや機能性は宿泊者の満足度に影響するため、集客力を意識したリフォームが重要です。
家具・家電・消耗品の購入費用
宿泊者が快適に過ごせるためにも、家具や家電の整備は欠かせません。ベッドやソファ、ダイニングテーブルといった大型家具のほか、冷蔵庫、電子レンジ、エアコン、洗濯機などの家電製品も必要になります。さらに、タオルやシーツ、トイレットペーパー、シャンプーなど、消耗品の初期備品も一式揃えましょう。
設備や備品の質が宿泊者の満足度やレビュー評価に直結するため、安価なものだけでなく、使いやすさやデザイン性も考慮して選ぶことが求められます。
届出・許可にかかる費用や民泊運営代行費用など
民泊の運営には行政による許認可が必要となりますが、そのために必要な図面や書面の作成、消防法令適合通知の取得などには、専門的な知識が必要となります。こうした手続きを行政書士や専門業者に依頼する場合には、その報酬や手数料も費用として計上しましょう。
さらに、日々の運営を専門業者に委託する場合には、月額制または予約数に応じた歩合制の費用が必要となります。
民泊で使えるローン3選
このように民泊を始める際には、初期費用としてまとまった資金が必要になるため、自己資金だけでまかなうのが難しいです。自己資金のみで賄えない場合はローンの活用が必要になります。
以下では、民泊で利用できる代表的なローンについて、それぞれの特徴や注意点を解説していきます。
住宅ローン
住宅ローンは、「自己居住」を目的としたローンなので、一般的に他のローンと比べて金利が低く、返済期間も長く設定できます。そのため、民泊を開業するための物件購入に対して利用することはできません。ただし、建物全体の50%以上を自己居住用として自ら居住し、残りの部分を民泊として活用する場合は融資を利用できる可能性もあります。
また、すでに住宅ローンを利用している物件で新たに民泊を始めようとする際には、金融機関との契約条件に違反してしまい、一括返済を求められるリスクもあります。民泊運用を検討する場合は必ず事前に金融機関と相談し、許可を得たうえで進めるようにしましょう。
自己居住用の住宅を居住用と事業用で所有する場合について、次のコラムで詳しく説明しています。
【関連記事】賃貸併用住宅のメリットとは?「やめとけ・危険」と言われる理由も解説
民泊事業ローン
民泊事業ローンは、民泊運営を明確な目的とした専用のローンで、近年需要の高まりとともに一部の金融機関で取り扱いが進んでいます。物件の購入資金だけでなく、リフォーム費用や家具家電の導入費用、さらには運営に必要なシステムの導入費用などにも使えるため、用途の柔軟性が高いローン商品です。
また、事業用ローンとして扱われるため、物件の居住要件などがなく、純粋な投資物件での民泊運営にも対応できるという利点があります。ただし、審査は比較的厳しく、事業計画書や収支シミュレーション、本人の信用情報などが詳細に確認されます。将来的な返済能力を証明できるよう、しっかりと準備をしておくことが重要です。
事業用ローン
事業用ローンは、民泊に限らず、幅広い業種の事業資金として利用できるローンであり、法人・個人事業主を問わず申請することが可能です。民泊を不動産投資や収益事業の一環として行う場合には、この事業用ローンを活用することで、物件取得から改装、運営資金までを一括してカバーすることができます。
民泊事業ローンと似ていますが、より幅広い目的に対応できる点が特徴で、民泊と他の用途を組み合わせた複合的なビジネスプランにも適しています。金融機関によっては、設備資金や運転資金に応じて融資枠を設定することもあり、柔軟な資金調達が可能です。
ただし、審査においては事業の実現性や収益性、本人の経営経験などが問われることが多いため、事業計画を丁寧に作成し、信頼性を高めることが融資決定のポイントとなります。
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