第12話、第13話では、「接道」といっても権利上の議論と建築基準法上の議論とは別問題であることについて解説しました。
基準法上の道路であるか否かは、単に現地を見ても判断できません。登記簿謄本や公図を取得すればいいのかというと、それはもちろん権利関係調査のために必要ではありますが、基準法の道路であるか否かはわかりません。基準法の道路については、役所に行って調べるものです。最近では、ウェブで基準法道路の地図などを公開している自治体もあるので、昔より便利になってきています。
改めて、この2つの観点で「接道」については確認する必要があります。
建築が可能か否かの観点⇒基準法上の道路に接道しているか調査
仮に現存建物を取り壊す予定が無く使い続けるとしても、再建築可能か否かが、不動産価値の評価を算出するうえで、極めて大きな要素になります。
通行(掘削)が可能か否かの観点⇒接面する道路との権利関係を調査
公道の場合、および私道でも共有持分を持っている場合や、共有持分は無いが地権者から通行掘削承諾を得ている場合などは、通行できると考えて良いでしょう。
では、今回のテーマである、「誰もが通行できる公道か?」「そうとは限らない私道か?」の区別の観点と、「建築可能な基準法上の道路か?」「そうではない道(通路)か?」の区別の観点は、必ずしも一致はしていないことについて、いくつかの事例を基に解説していきましょう。
この分野は、不動産業務に携わる者でも難しくややこしいのですが、とても重要なポイントです。
融資対象として取り扱いを判断する際に混乱しやすい事例4選
事例1.<通行を妨害された私道でも、基準法上の道路とされていれば通行を認めた判例>
例えば、私道でも共有持分があれば通行可能ですが、そうでない場合は、通行掘削承諾等を得ていないことを理由に通行を拒絶されることがあります。
極端な例では、通行しようとしても妨害されるようなことまで起こります。仮に、昔から慣例的に通行していた既得権(からの承継等)のような事情があったとしても、地権者があらためて通行の妨害行為を始めることも起こります。
接道について、通行権利の有無や、通行掘削承諾の有無などを確認することは、不動産を見極めるうえでとても重要です。
ここで判例上、通行者側に有益な話として、「建築基準法上の道路」であれば通行権が認められる、という事例があります。
「建築基準法上の道路とされている(42条1項5号や42条2項)私道の場合などで、現実に開設されている道路部分を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、土地所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなど特段の事情のない限り、妨害行為の排除や将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する」とされています。(1997(平成9)年12月8日最高裁)
この表現はとてもわかりにくいのですが、基準法上の道路であれば通行者には人格権に基づく通行権が存在し通行できるため、妨害されても妨害排除の権利がある、というニュアンスだと考えられます。
これまで散々、権利上の議論と建築基準法上の議論は別問題と述べてきましたが、まったく関係ないわけではなく、基準法上の道路であると認められていることを調査すれば、結果的に通行の権利も有すると解釈もでき、それで十分という可能性を与えてくれる好事例と捉えることもできます。
しかし、現実の状況次第では、個別事情も加味されるため、通行者と土地所有者との利益・不利益を衡量して結論を出すことになるでしょう。そのため、どのような場合にも当てはまるとは言い切れません。実際に先の判例の後(2000(平成12)年)には、今まで自動車の通行がなされてない狭い2項道路(基準法上の道路だが、その時点では幅員2~3m程度)で、私道の地権者がポールを立てて自動車の通行を妨害していた事例があります。徒歩の通行は可能ゆえ日常生活上不可欠の要件を欠くとして、人格権に基づく通行権は認められませんでした。
事例2.<通行地役権の生じている事例>
通行地役権とは、他人の土地を自己の土地の便益に供することができる権利のことをいいます。
土地の所有者と通行する者の当事者間の合意に基づき設定され、また、所有権などほかの権利と同様に登記することもできます。
では、実際に事例を用いて確認してみましょう。
上記のような土地があったとしましょう。
A宅地は旗竿地で、敷地延長の通路で基準法上の道路に接道しています。またB宅地は、本来は南側で基準法の道路に接道しているものの、そこは高低差など何らかの要因により塀で閉じられ、A宅地の「私有地である通路」部分に門扉や玄関が向けられています。実は、このような敷地になっているケースは意外と多く、特にA宅地の側にアパート等が建てられて投資家に販売されているケースを実際に何例も見てきました。
この場合、B宅地の人にとっては、A宅地の私有地内を通行させてもらっており、文書上の約定が無くても通行地役権が生じているといえます。A宅地にとっては、他人の権利が付着している土地、ということになり、一般的にいえば不動産の価値や流通性に多少の影響が及ぶものとなります。
現地で実際に調査すればすぐにわかることでも、投資用の販売業者の中には重要事項説明書に記載していないケースもあるので、注意が必要です。
この図の事例においては重大な権利の欠陥というほどではありません。B宅地は南側で基準法の道路に接道しるため、A宅地を通らざるを得ない状況にはなっていないからです。
他人の敷地を通らざるを得ない土地(袋地などという)の場合には、絶対的権利である「通行権」が生じますが、この場合は別に通行できる箇所がありながらA宅地を通っているので、任意で合意された「通行地役権」ということができます。過去の合意が明確か否かにかかわらず、長期間その使われ方をしていたということは、既得権として通行地役権が生じている、といえます。
購入の際に説明を受けていないことを除いて、A宅地の新オーナーが承知のうえであれば、近所づきあいの観点からも許容せざるを得ないという判断になるでしょう。しかし、どうしても解消させたいのであれば、要望を受け入れてもらえるかは別としてB宅地の地権者に対して南側を出入口に変更するように申し入れること、金銭解決を申し出ること、などが必要になると思います。
事例3.<建築確認の取り方に問題があった事例>
(図3-1)
先ほどの事例とは少々異なり、上図のようにB宅地は基準法上の道路に接道していない場合の事例があります。
これは前述した事例とは異なり、「通行地役権」ではなく「通行権」である可能性もあります。法的解釈はどちらの場合でも、要点は「建築確認と現況の違い」の問題です。
この事例の各関係者の建物の建築確認を取得した当時の方法を調査してみると、驚くことが判明しました。A・B・Cそれぞれの建築確認の敷地形状は、下図3-2のようにオレンジ色のラインで区分され、それぞれで建築確認を取っていたのです。
(図3-2)
あくまで書面上の架空のラインで、現地の実際の敷地形状は前出の図3-1のまま(参考:上記写真)なので、建築確認とは一致していません。推測ですが、接道していないB宅地のためにAとCが譲歩してあげたのではないかと考えられます。ある意味古き良き昭和の近所づきあいのような牧歌的対応ですが、禍根を残してしまいました。
C宅地が新たに建築確認を取得しようとするなら、面積減を受け入れざるを得ない(土地を譲るわけではなく計算上の面積減)としても、接道に問題はありません。
しかし、A宅地にいたっては、新たに建築確認を取得することができません。B宅地の出入り部分と重なり「二重敷地」になってしまうからです。二重敷地についての詳細は後述します。おそらく近所づきあいの親切心で書面上貸してもらっただけなので、実際にC宅地から一部分を図面どおりに借りる場合や買う場合は、新たな投資家オーナーのためとか、ましてや競落された後の競落人のためなど、新所有者に対して貸したり一部売却したりしてくれる保証はありません。
このため、A宅地に存在する既存の建物は、建築確認済・竣工検査済があったとしても再建築「困難」であり、結果的に金融機関の担保として取り扱いの可能性が厳しくなり、どうやら市場での流通性を失ってしまったようです。
事例4.<敷地の二重使用>
このケースは、地主が所有している土地を有効活用する案件で時折見かけます。
下図のように、まず「建物A」を建築基準法上合法的に建てた、としましょう。
(図4-1)
しかし、その何年か後に、空いている土地がもったいないので、敷地の一部分(図では緑色線枠)を使って新たな「建物B」を建ててしまうというケースがあります。これは法的にはどう考えるべきでしょうか。
(図4-2)
比較的わかりやすいですが、最初の「建物A」は全体の敷地を使って建ぺい率や容積率を算出し、場合によっては斜線制限や駐車場付置義務などの法的規制もクリアしていても、「建物B」を建てたことによって削られてしまえば、何らか建築基準法に抵触する部分が有るはずで、違反建築物となります。
後から確認申請を出した「建物B」そのものは、その敷地範囲内において合法だが、二重敷地問題を引き起こした元凶となるため、その施主・事業主の姿勢に対して融資するか否かは、金融機関のスタンス次第となります。
このようなケースを俗に「二重敷地」と呼び、原則としては取り扱い不可にする場合が多いです。
そもそも、建築確認が審査機関を通ってしまっていることが問題なのではないか?という意見も出るでしょう。
実は、建築確認制度は、現在でこそ役所や審査機関において図面などシステムで管理されていますが、過去には図面でのチェックは不十分でした。役所で建築確認の受付時に、過去の建物との照合が完璧ではなかったことを要因とした多くの二重敷地事例が存在しています。しかも、その受付時のチェックが完璧ではなかったことについて、行政が訴えられたこともありますが、二重敷地か否かをチェックする義務は行政に無い、という判例(2002(平成14)年9月19日・津地裁)が出ています。そのため、古い物件は、二重敷地で建築確認が通ってしまっている可能性も意識したうえで調査する必要があります。
<おわりに>
さて、今回も融資対象として取り扱いを判断するのに混乱しやすい事例を見てきました。これらを読者の皆さんが自ら調査するのは、よほどの熟練者か、業界に近い方でないと難しい面もあると思います。だからこそ手前味噌になりますが、私どもオリックス銀行に相談すれば、結果的に2次流通性のリスクなどのチェックも兼ねられる付加価値がある、と考えていただければ幸いに思います。
前回記事はこちら 【第13話】事例から見るシリーズ|建築確認のことと権利の話は、別の問題 |
シニアコンサルタント 真保雅人 (大学卒業後、鉄道会社約4年を経て1989年5月オリックス株式会社に入社し、投資用不動産ローン業務を約10年担当。その後、オリックス不動産株式会社にて約10年間の賃貸マンション用地仕入開発業務経験を経て、2010年11月オリックス銀行株式会社に出向。オリックス銀行では投資用不動産ローン業務に責任者として約10年従事し、現在に至る。) |
【特集一覧はこちら:元ローン担当者の少しマニアな独り言】
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