不動産投資のロングセラー『1000年使える不動産投資最強成功術 失敗しない人だけが知っている不動産経営の定番』(ごきげんビジネス出版)をはじめ、数多くの著作の執筆者であるアユカワ タカヲ氏。
不動産投資家という肩書きのほかに、脚本家という顔も持っています。その影響もあってか、YouTubeチャンネル『アユカワTV』では解説者となり、とても分かりやすく不動産投資に有用な情報を伝えています。
インタビュー前編ではこれから不動産投資を始めようとしている方、不動産投資について興味はあるもののなにからはじめたらいいのかわからない方など不動産投資を始めるまでの導入編をお届けしました。後編では融資や売却のタイミングなどより深堀した内容でお届けします。現在アユカワ氏が注目しているエリアも見逃せません。
アユカワ氏が感じる融資傾向の変化とは?
−− 不動産投資を成功させるポイントは融資とよく言われますね。アユカワさんの融資についての知見を伺いたいと思います。不動産投資の融資に関して、最近の傾向を何か感じられていますか。
アユカワ氏 不動産投資に対するスタンスを変えてきている信用組合、信用金庫、地銀が出てきているように感じています。これらの金融機関は物件の所在地が営業エリアだったり、申込者が対象エリアに在住だったりなどの制約があるケースが目立ちました。
しかし最近では、「融資対象が全国可」など、営業エリア外の物件にも融資を行う信金・信組・地銀なども出てきているようです。
−− 投資家側から見ると、金融機関の選択肢が広がることはメリットともいえますね。
アユカワ氏 このように金融機関の傾向が変化している背景には、金融機関の経営環境が厳しくなっていること、保証会社などと連携して融資を行っていることなどがあると僕は考えています。
最近では、投資家から「アパートや一棟物件の融資が承認されにくい」との声も聞かれます。しかし、先ほど申し上げた金融機関の変化をうまく捉えれば、融資を受けることは可能ではないでしょうか。ただし、こういった動きは信組・信金・地銀の一部に限定されていますので情報収集は必須でしょう。
経験から学んだ金融機関との接点の作り方
−− 「金融機関をどう開拓するか」で悩まれている投資家は多いと思います。開拓のポイントはありますか。
アユカワ氏 理想でいうと飛び込みではなく、担当者と会うきっかけが欲しいですね。分かりやすいのは知人や懇意にしている大家さんの紹介ですが、それ以外にも些細なことがきっかけになるケースもあります。
例えば、住宅ローンの借り換え案内のチラシがご自宅にポスティングされたことはないでしょうか。一見すると不動産投資と関係なさそうですが、住宅ローンの相談をする際、「不動産投資の融資先を探しているけれど相談は可能か」とまとめて打診してみる手もあります。
−− 今おっしゃったことは一例だと思いますが、金融機関とのちょっとした接点を広げていくという発想が大切ということですね。
アユカワ氏 その通りです。他の例では、ご自身が口座を持っている金融機関にまずは相談してみようという考え方もできます。大切なことは、金融機関とつながりたい、きっかけをつくりたいと常に意識していることです。
−− 金融機関との接点がどうしても見つからないというケースもあるかもしれません。その場合はどのように考えるとよいでしょうか。
アユカワ氏 金融機関に飛び込みで融資の相談するのも一案です。とはいえ、いきなり窓口を訪ねて「不動産投資をしたい、融資をお願いしたい」と言っても、よい結果は得られないでしょう。
まずは、電話で用件を伝え、その上で担当者につないでもらってアポイントメントを取ってから伺うのが礼儀です
融資先開拓の電話アポは5件に1行!?
−− アユカワさんご自身が、飛び込みで融資先を開拓されてきた経験があるということですね。金融機関に電話をしてみて、実際にアポイントメントが取れる確率はどれくらいですか。
アユカワ氏 そうですね。僕の経験則で言うと5件電話をして1行アポイントメントがとれるかどうかでしょうか。ただし、この確率はタイミングで変わります。分かりやすく言うと、今日はダメでも1年後に電話をしたらアポイントメントが取れることはありえますね。
あくまでも私見ですが、 以前よりも最近のほうがアポイントメントは取れやすくなっているように感じます。これは、先ほどお話した通り、保証会社と連携して融資を行っている金融機関が増えていることも影響しているのかもしれません。
- 知人や懇意にしている大家さんから金融機関の担当者を紹介してもらう
- 住宅ローンの相談をする際にまとめて不動産投資の融資を打診してみる
- ご自身が口座を持っている金融機関にまずは相談してみよう
金融機関の信頼を勝ち得る定性評価の高め方
−− アユカワさんは著書の中で、数値に現れない定性評価の重要性についても言及されています。この部分について解説をお願いしたいのですが。
アユカワ氏 定性評価を高めるためには、いくつかのポイントがあります。1つ目は、経営者としての自覚を持つことです。便宜上、不動産投資と言われていますが、実際には賃貸業です。賃貸業を始めるということは経営者になることですので、経営や不動産の知識を習得しなければなりません。
また細かいことですが、金融機関との交渉では不動産投資ではなく「賃貸業」という言葉を使うようにしましょう。
−− 定性評価を高めるための2つ目のポイントは何でしょうか。
アユカワ氏融資を受けたいと考えている金融機関に口座を持つことです。口座を開設するだけでなく、少額でも構いませんから長期的に積み立てていきましょう。この行動が融資審査にどれくらい影響するのかは金融機関によって異なると思います。しかし、少なくともマイナスにはならないでしょう。
僕の場合は小銭や千円札が財布に貯まってきたら、その金融機関のATMに行って預金をします。そして、そのお金を引き出さず、例えば1年以上など継続的に預金し続けています。この行動を見て金融機関に「アユカワさんはお金に細かいんだな、しっかり管理しているんだな」と感じていただければ儲けものです。
−− 定性評価を高めるためのポイントはほかにありますか。
アユカワ氏 もし、直近で親御さんから相続をされたり、あるいは、これから相続を予定されていたりするなら、その辺の情報をさりげなく金融機関の担当者との会話に挟み込むとよいかもしれませんね。もちろん、相続関係の情報がどれだけ定性評価にプラスになるかは金融機関によると思いますが。
−− アユカワさんのお話を伺っていると、定性評価は投資家のやる気次第で大きく変わってきそうですね。
アユカワ氏 仮にこれを読まれている方が高年収でも、それ以外のことでも評価されるようさまざまな材料を用意しておくことが大事です。
- 【Point】金融機関の信頼を勝ち得る定性評価の高め方
- 融資を受けたいと考えている金融機関の口座を開設する
- 相続が近い場合はさりげなく担当者との会話に挟み込む
関東圏で注目しているエリアは、大田区と川崎市
−− 不動産投資の中級者以上だと、売却のタイミングで悩まれている人も多いのではないでしょうか。物件の所有期間についてはどのようにお考えですか。
アユカワ氏 セオリーで考えると、長期譲渡所得の5年に加えて、デッドクロスが目安になります。デッドクロスについては背景が違うと目安となる期間も変わってきますが……おおむね8年くらいでデッドクロスがやってきて税引き後キャッシュフローがきつくなるイメージです。この時点をゴールと考えて売却するのも一案ですが、全体の資産状況を見て所有期間を延ばすという判断もあるでしょう。
周辺工場の撤退の噂は売却のタイミング
−− デッドクロスの他にも判断材料はありますか。
アユカワ氏 不動産市況を見ることも欠かせません。国内や首都圏など全体の市況を見ることに加えて、エリアごとの市況を把握することも大事です。例えば、あるエリアで大規模な工場があることで、賃貸需要と供給のバランスをとっていたとしましょう。この場合、工場が撤退すると需要と供給のバランスが崩れますので、撤退の噂が出てきたら売却するというような判断もあり得ます。
−− アユカワさん独自の売却タイミングの判断基準はありますか。
アユカワ氏 一般論というよりも僕自身の考え方としては、エレベーターありの一棟物件は、エレベーターの耐用年数である17年程度を目処に売却する、それ以上所有すると出口戦略が難しくなるからです。
逆に言うと、エレベーターなしの一棟物件の場合、超長期で所有し続けても費用負担が急増する可能性が少ないので、所有し続けてもよいと判断することが多いですね。
- おおむね8年くらいでデッドクロスになり税引き後キャッシュフローがきつくなるとき
- 周辺の工場撤退の噂が出てきたとき
- エレベーターの耐用年数である17年程度を過ぎたとき
−− 先ほど、エリアごとの不動産市況を把握することが大事というお話がありました。この点について補足をしていただけますか。
アユカワ氏 エリアごとの市況分析については、より細かくなる傾向が強まると予想しています。だからこそミクロの視点で、エリアごとの市況分析をすることの重要性が今後強まっていくと思っています。
一例を挙げますと、東京23区は不動産需要が強いと言われますね。しかし、区ごと、さらには同じ区でも、街ごとに市況がよいエリア、そうでないエリアに分かれてくると予想しています。そしてこの傾向はすでに始まっていると感じています。
東京都大田区、神奈川県川崎市の中でもさらに絞り込んだ注目エリアとは?
−− エリアごとの市況分析が大事だというお話を踏まえて、アユカワさんが今注目されているエリアはありますか。
アユカワ氏 先ほど大阪を中心とする関西圏について触れましたので(参照:インタビュー前編)、首都圏で言いますと東京都大田区と神奈川県川崎市がこれから面白くなるのではと思っています。理由はインバウンドに伴う羽田空港の需要増大です。具体的には、空港関係の会社が社宅で借りるようなイメージです。
ミクロの視点で見ると、大田区では京急空港線の沿線(京急蒲田駅-羽田空港駅間)、川崎市では殿町地区と羽田空港をつなぐ多摩川スカイブリッジ周辺、国家戦略特別区域周辺です。
- 大田区では京急空港線の沿線(京急蒲田駅-羽田空港駅間)
- 川崎市では殿町地区と羽田空港をつなぐ多摩川スカイブリッジ周辺、国家戦略特別区域周辺
物件情報サイトから得る情報は?
−− ここまでミクロでのエリア分析が重要とのお話でした。となると、収集する物件情報の確度が求められますね。アユカワさんご自身はどのように物件情報を収集されていますか。
アユカワ氏 現在は各地の大家さんや不動産会社とのつながりがありますので、そこから物件情報を得ることが多いですね。つながりをつくった上で、こちら側から「よい物件情報はないですか」とお声がけしておくことがポイントです。
−− 物件情報サイトから情報を得ることは少ないですか。
アユカワ氏 いえ、こまめにチェックをしていますよ。ただ以前と比べて、閲覧する頻度はだいぶ少なくなりました。以前は毎日チェックしていましたが、現在はおおむね週1くらいのペースで見ていますね。
といっても、僕が不動産投資を始めた頃と比べてプレイヤーが増えたので、掘り出し物、お宝物件を見つけられることはほぼありません。
−− それにも関わらず、物件情報サイトをチェックしている理由は何ですか。
アユカワ氏不動産会社を開拓するのが主な目的です。お宝物件とまではいかなくても、求める条件の70〜80%程度の物件でも問い合わせをするようにしています。実際に購入に至らなくても、不動産会社との接点をつくっておくことで、物件情報サイトに掲載される前の情報をいただけるケースもあります。
−− 不動産会社から有益情報をもらうためのコツはありますか。
アユカワ氏 有益情報が欲しければ、自分の情報を開示するのが大切です。例えば、勤務先、年収、金融資産などの情報を公開した上で「こういう物件が欲しい」と不動産会社にしっかり伝えておけば、相手が提案しやすくなりますよ。
区分マンションから一棟物件への転換のコツとは?
−− 不動産投資の中級者だと、区分所有から一棟物件に転換したい人もいらっしゃると思います。この部分についてアドバイスを伺えますか。
アユカワ氏 まず僕自身の区分物件に対するスタンスを明確にしたいのですが、現在でもワンルームマンションを複数所有していますし、区分の魅力的な情報があれば購入を検討しています。
−− つまり、不動産投資の初心者=区分、中級者以上=一棟物件というような考え方ではないということですね。
アユカワ氏 そうですね。ただし、区分と一棟物件は商品の性格が異なります。僕の主観でいえば、投資目的の区分マンションは金融商品の性格に近い感覚です。所有することでインカムゲインとキャピタルゲインを得られる可能性があり、また、運用する手間がほぼかからない。一方、一棟物件は賃貸経営です。経営者としての手腕が求められます。
−− 不動産投資と大雑把にくくるのではなく、性格の違う投資商品を所有している感覚ですね。
アユカワ氏 もし、区分=初心者の側面があるとしたら、賃貸経営の入口になる、不動産投資の流れを確認できるということではないでしょうか。
これらのことを踏まえた上で、先ほどのご質問である「区分から一棟物件へ」の転換についてお話しますと、例えば数多くの区分マンションを所有しているケースで考えると、与信枠に余裕がないなら一定割合の売却が必要でしょう。さらに、この売却と同時並行でいくつものタスクを進めていく必要があります。具体的には「一棟物件を探す」「法人化する」「金融機関を探す」などのタスクです。
- 区分マンションは金融商品に近い、一棟物件は経営者としての手腕が求められる
- 区分を多く所有しているケースでは与信枠確保のため一定割合の売却が必要
- 「一棟物件を探す」「法人化する」「金融機関を探す」を並行して進める
今は海外不動産より国内不動産を注視したい
−−海外不動産にご興味のある人もいらっしゃると思います。アユカワさんは海外の不動産も所有されているということでしたが、なぜ海外の物件を購入しようと思われたのですか。
アユカワ氏 僕が海外不動産を初めて購入したタイミングは、区分マンションを買い増していたあたりです。与信枠を使い切っているため、次のステップとして国内の一棟物件を視野に入れていましたが、金融機関の情報を収集している際、海外不動産なら(当時は)融資をしてもらいやすいということがわかったんですね。このことが海外不動産を購入するきっかけとなりました。
−− 融資をしてくれる金融機関を探していたら、海外不動産に行き当たったということですね。どちらの国の物件を購入されたんですか。
アユカワ氏 融資先の金融機関は世界有数の金融グループで、物件概要はマレーシアのジョホール・バルのタワーマンション2物件です。当地はシンガポールに近く、今から10年以上前、イスカンダル計画という大規模開発が進んでいるということで、日本国内でもメディアに取り上げられましたね。
−− ジョホール・バルというエリアがアユカワさんの心に刺さった理由は何でしょうか。
アユカワ氏 子どもの頃に見た大規模開発の光景がジョホール・バルと重なったことも購入した要因の一つです。僕が生まれたのは1966年。幼少期から大坂府の豊中市にある千里ニュータウンで育ちました。1977年に開催された大阪万博の影響で、街が一気に開拓され発展する様子を成長期にリアルタイムで体感しました。
ジョホール・バルでも、当時のような街が出来上がっていく勢いを感じたんですね。街の発展を第三者として見るだけでなく、ささやかでもいいからプレイヤーとして参画したいと感じました。
−− 今後、海外不動産の物件数を増やして行く予定ですか。
アユカワ氏 ジョホール・バルの他にフィリピンの物件も所有していますが、現時点では海外よりも国内の不動産を注視しています。為替リスクを考えると、海外不動産の物件数を増やすのもありかもしれません。しかし、海外のファンドが日本の不動産を買いに来ている今、我々日本人が国内の不動産を買わない手はありません。
−− 最後に、不動産投資を検討している読者にメッセージをいただきたいのですが。
アユカワ氏 今、不動産投資のプレイヤーが急増して「物件を買えない」というお悩みを持つ人も多いでしょう。
でも結局、この世界で勝ち残れるのは長く知識を積み上げた人です。不動産投資はより多く学ぶほどライバルよりも先に行ける。優良物件を手にできる確率が高まる。このことを信じて、不動産投資を楽しく学び続けることが大事です。
皆さんと一緒に共有できる情報をYouTubeやセミナーなどで楽しく発信していますので、どこかでご縁があればと思います。
−− 貴重なお話、ありがとうございました。
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