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“買い物弱者”を救います—たまちゃんのおつかい便【Book】


都会に住んでいるなら、買い物に困ることはないだろう。
私は生まれてからずっと東京で暮らしており、家から少し歩けばショッピングセンターやスーパーやコンビニがあるので、買い物にはまったく困らない。生活に必要な食材や日用品は近所ですぐに揃う。でもそれは都会に住んでいることの特権であって、そういった環境で暮らせることは恵まれていて、感謝すべきことだろうと思う。

そんな私は、とある事情により、ほんの数ヵ月だけ軽井沢の森の中にある別荘で生活していたことがある。そのときは都会とは違う、ゆったりとした空気と緑あふれる自然に癒される一方で、田舎に住む不自由さを感じたものだ。何しろ森の中なので店がない。食材も日用品も車で移動しなければ手に入らないので、ここに住んでいる人は大変だろうなと思わずにはいられなかった。

買い物に困っている人々、すなわち“買い物弱者”を救うため、立ち上がったのが、小説『かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便』のたまちゃんである。

田舎の秘境の地で、車で遠くまで移動しなければ買い物ができない人々。若者ならまだしも、足腰の悪い高齢者は車で移動することすらできないのだ。たまちゃんは愛する祖母・静子おばあちゃんのそうした姿を見て、救いたいと思ったことをきっかけに、起業のため大学を中退し、移動販売を始める。

“買い物弱者”にとっては、家の近くまで販売に来てくれるのはすごく助かることだし、高齢化が進む町にとっては、若い女の子が来てくれるだけでも元気をもらえることだろう。たまちゃんは、大学に通う友達を見て不安になったりしていたけれど、私はそんなたまちゃんのこと、大学中退で起業なんて勇気ある人だな、高齢者想いで優しい人だなと思いながら見ていた。(たまちゃんと歳が近いので、つい友達気分に笑)

本書は、移動販売というお仕事ストーリーでありながら、友情や家族、人のつながりも描いている。夢は決してひとりだけで成し遂げられるものではない。たまちゃんの幼馴染の壮介、同級生で引きこもり中のマッキーが、“たまちゃんお助け隊”として関わってくる。それぞれ悩みを抱えつつも、得意分野を活かしておつかい便を支えていく。協力し合える仲間がいることは素敵だなと思う。

そして、家族の存在。優しく包み込んでくれるような静子おばあちゃん、私も大好き。それから、たまちゃんは12歳で母を亡くしており、その後父親と再婚したフィリピン人のシャーリーンを義母にもつ。心の奥には「本当の母ではない」という気持ちもあるし、明るくて自由奔放なシャーリーンの言動にイラついてしまうことも。たまちゃんとシャーリーンの関係性の行方にも注目だ。

本書は実に森沢さんらしく、やさしくて温かい。とにかく読後には「あぁいい話だ~」とお腹いっぱい、満ち足りた気分になれる。会話の随所に散りばめられた名言の数々も見逃せない。最後に、名言を少しだけ紹介したい。

「人生には、みんなが通ったあとにできる轍はあっても、レールはない。だから、あなたは自分の心を羅針盤にして、あなただけの道を歩いていけばいい。そして、それこそが唯一、後悔をしないで死ぬための方法なのだ」

「人生は、たった一度きりの『遊びのチャンス』なんだってさ。だから、未来を自由に楽しんで遊ぶ時間にしようって思えた人から『小さな冒険』の最初の一歩をひょいと踏み出していくんだって」

森沢作品は、つい書き留めたくなるほど胸に響く言葉が多い。森沢さんの言葉の引き出しとセンスは素晴らしい!本書もそのひとつで、登場人物たちの言葉は読者に学びを与え、背中を押してくれることだろう。

友達の壮介とマッキー、師匠の古館さん、優しい静子おばあちゃん、お父さん、義母のシャーリーン…たくさんの人に支えられて、苦難を乗り越えていくヒューマンストーリー。たまちゃんとまつわる人々の姿は、私たちに幸せを届けてくれる。

※本書は、単行本『たまちゃんのおつかい便』を改題し、文庫化したものです。
物語にぴったりな、げみさんの温かくやさしいイラスト装丁とともにお楽しみを♪

(フィスコ 情報配信部 編集 細川 姫花)

『かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便』(実業之日本社文庫)  森沢 明夫 著 本体価格778円+税 実業之日本社




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