アンジェス Research Memo(3):HGF遺伝子治療用製品の売上ポテンシャルは米国だけで1千億円を上回る(1)
同社の主要開発パイプラインには、HGF遺伝子治療用製品、NF-κBデコイオリゴDNAや、提携先のVasomuneと共同開発中のTie2受容体アゴニストがある。
1. HGF遺伝子治療用製品
HGF遺伝子治療用製品は、血管新生作用を活用して、症状が進行した慢性動脈閉塞症患者向け治療薬として開発が進められてきた。慢性動脈閉塞症は、血管が閉塞し血流が滞ることで組織が潰瘍・壊疽を起こし、最終的に下肢切断を余儀なくされることもある重篤な疾患である。現在の治療法としてはカテーテル治療や血管バイパス手術などが行われているが、手術ができないケースも多く、新たな治療法の開発が求められている。
HGF遺伝子治療用製品は、血管が詰まっている部位周辺に複数回注射投与することによって新たな血管を作り出し、血流を回復させることで潰瘍の改善を図るものである。国内では2019年3月に「標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善」を効能、効果または性能として、条件及び期限付き承認を取得し、同年9月より「コラテジェン(R)筋注用4mg」※として提携先の田辺三菱製薬を通じて販売を開始した。製造販売後承認条件評価を実施して2023年5月に本承認の申請を行ったが、国内第3相臨床試験の成績を再現できなかったことや、米国の後期第2相臨床試験の結果が良好であったことを踏まえて、戦略的観点から2024年6月に申請を一旦取り下げ、国内での販売を終了した。
※ 用法は、虚血部位に対して筋肉内投与を4週間間隔で2回行い(4mg/回)、症状が残存する場合には4週間後に3回目の投与もできる(薬価は約61万円/1瓶(4mg))。
国内で重度の患者を対象に開発を進めたのに対して、米国では2019年6月に改定された包括的高度慢性下肢虚血に関するグローバル治療指針※や治験担当医師の提案を踏まえて、下肢切断リスクの低いステージ1または2の患者を対象に臨床試験を実施した。治験担当医師の、重症下肢虚血の患者はがんと同様に早期に治療を開始することが重要である、との仮説による試験デザインとした。
※ グローバル治療指針(Global Vascular Guideline:GVG):包括的高度慢性下肢虚血(CLTI:Chronic Limb-Threatening Ischemia)の初期段階から適切な治療マネジメントを提供することで患者のQOLの向上を図ることを推奨している。当ガイドラインでは臨床ステージを4段階(clinical stage1~4)に分け、それぞれのステージにおける治療方針が示されており、米国での後期第2相臨床試験は下肢切断リスクの低いclinical stage1と2を対象とした。このステージの患者には、まず潰瘍の治療を考慮することがガイドラインで推奨されている。
米国の後期第2相臨床試験では、主要評価項目として「治癒までの期間」と「投与後6ヶ月時点で完全治癒した潰瘍の割合」を設定し、HGF遺伝子治療用製品またはプラセボを4週間間隔で4回投与するプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験を実施した。被験者を4mg/回、8mg/回、プラセボの3群に分類し、12ヶ月の観察期間を設けてデータ収集を行った(被験者数は途中脱落者も想定して全75例を組み入れ)。2024年11月に開催された米国心臓病学会(以下、AHA)にて治験指導医師からトップラインデータが発表されており、「治癒までの期間」がプラセボ群に対して、本剤は大幅に短縮できることが確認された。また、「投与後6ヶ月時点で完全治癒した潰瘍の割合」のほか、「同12ヶ月時点で治癒した潰瘍の割合」及び「同12ヶ月時点の潰瘍再発率」においてもプラセボ群に対する本剤の有効性が確認された。
なお、治験結果の内容については治験担当医師によって作成された論文が、2025年11月にAHAが発行する有力学術誌の「Circulation: Cardiovascular Interventions」※に掲載された。具体的な内容として、治癒までの期間が本剤で84日だったのに対して、プラセボ群では280日であったこと(p=0.007)、6ヶ月時点で完全治癒した割合は本剤が63.3%だったのに対して、プラセボ群は38.5%であったこと(p=0.053)、12ヶ月時点で治癒した潰瘍の割合は本剤が77.6%であったのに対して、プラセボ群は46.2%であったこと(p=0.010)が試験結果で確認された。以上から、HGF遺伝子治療用製品は中等度のCTLI患者の潰瘍完治までの期間を優位に短縮し、有望な非外科的治療法となる可能性があると結論付けている。
※ 心臓や血管の病気に対して、カテーテルなどを用いて行う低侵襲な治療法を研究・実践する分野である心血管インターベンション分野に特化した査読付きの学術誌であり、ほかの学術誌に掲載される論文にも参照論文として引用される機会が多く、影響力の大きい一流学術誌として評価されている。
米国での今後の開発方針については、臨床試験を完了とし、BLA申請に向けた準備を進めることを2025年8月に決定した。また、この決定に伴い、HGF遺伝子治療用製品の製造委託先であるベーリンガーと、承認取得及び上市に向けた原薬の製造体制を構築するための受託開発・製造契約を締結した。従来は、臨床試験用に小規模設備で原薬を製造・供給してきたが、上市するとなれば4,000リットル規模の大型培養設備を構築する必要があるため、それまでに一定の時間と投資資金を要することになる。ベーリンガーでは、2026年内に予定されるBLA申請に向けて、製剤、製造方法及び品質管理に関するCMC(Chemistry, Manufacturing and Controls)を構築する計画である。同製品はFDAよりブレイクスルーセラピーに指定※されているため、BLA申請書類は準備ができた領域から順次提出することが可能である。同社では2026年第2四半期に最初の申請書類をFDAに提出し、ベーリンガーの原薬製造に関わるCMC情報を最終申請書類として2027年第1四半期に提出することを想定している。このため、順調に進めば2027年の第3四半期に販売承認を取得し、2027年内に上市できる可能性がある。
※ ブレイクスルーセラピー指定制度とは、重篤な疾患や生命を脅かす疾患に対する新規治療薬の開発と審査を迅速化することを目的にFDAが導入した制度で、臨床試験の結果などを基に既存の治療法よりも顕著な改善を示す可能性のある開発品が指定を受ける。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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