リケンNPR Research Memo(2):リケンと日本ピストンリングが経営統合した持株会社
リケンNPRは2023年10月2日に、ピストンリング製造のリケンと日本ピストンリング(NPR)の経営統合により設立された持株会社です。この統合は、両社のブランド力を生かしながら、統合的なガバナンスの下でのシナジーを追求し、持続的な成長と企業価値向上を目指すものです。統合後、リケンNPRの主要事業は自動車用エンジン部品となり、特に高品質のピストンリング製造に力を入れています。世界の主要自動車メーカーとの取引を強化し、事業ポートフォリオ改革を推進しています。特に、EV化の進展に対応しつつ、次世代エンジン技術の開発を進める方針です。また、新たな市場環境に応じた展開も進めています。リスクとして、環境規制やEV化の流れが影響する一方で、その変化に対応するための技術開発に注力しています。
1. 会社概要
リケンNPR<6209>は、ピストンリング大手メーカーのリケンとNPRが2023年10月2日付で経営統合して設立した持株会社(共同株式移転の方法により設立)である。長年培った両社のブランド力を生かしながら、統合的なガバナンスの下でシナジーを追求し、持続的成長とさらなる企業価値向上を目指す。
2025年3月期中間期末時点の本店所在地は東京都千代田区、本社機能所在地は東京本社(東京都千代田区)、さいたま本社(さいたま市中央区)である。総資産は215,659百万円、純資産は150,840百万円、自己資本比率は65.8%、発行済株式数は28,247,910株(自己株式1,377,169株を含む)である。同社グループは持株会社である同社、連結子会社37社(リケン、NPRなど)及び持分法適用関連会社5社で構成され、グローバルに生産・営業拠点を展開している。
2. 沿革
リケンは、理化学研究所大河内研究室の海老原啓吉博士が1926年にピストンリングの製造法を発明(各国の特許を取得)し、この発明を企業化する目的で1927年に理化学興業(株)を設立、日本で初めて実用ピストンリングの製造を開始した。その後の改称、分割、合併などを経て1941年に理研工業(株)を設立、さらに戦後の再編などを経て1949年に理研熊谷鋳鉄(株)(1951年に理研鋳鉄(株)に改称)として再出発(リケンの設立)した。そして1952年に東京証券取引所に株式上場、1979年に商号をリケンに変更した。1960年代からは海外展開を進め、世界の主要自動車メーカーに幅広く製品を供給している。
NPRは、独力で舶用機関の技術を学んだ鈴木友訓氏が1912年に鈴木製作所を開業し、焼玉式船舶エンジンや精米機などの設計製作を開始した。その後ピストンリングの国産化の必要性を痛感した鈴木氏は製作に尽力し、1931年にピストンリングの試作品を完成させ、日本ピストンリング製作所に改称した。1934年に株式会社化し、埼玉県川口市に工場を開設した。1945年には空爆で本社社屋を焼失し、終戦で工場を一時閉鎖したが、1949年に東証に株式上場した。1970年代からは海外展開を強化し、世界の主要自動車メーカーに幅広く製品を供給している。
両社はそれぞれピストンリング製造会社として設立されて以降、長年にわたり世界の自動車産業分野の発展に貢献してきたが、100年に一度と言われる自動車業界の変革の中で、両社に求められる様々な課題に取り組んでいくにあたり、長年培った両社のブランドを生かしながら、統合的なガバナンスの下でシナジーを追求していくことが、両社の持続的成長及び企業価値向上を実現する最適な選択であると判断し、2023年10月2日付で経営統合して持株会社を設立し、東証プライム市場に株式上場(完全子会社となったリケンとNPRは2023年9月28日付で上場廃止)した。
■事業概要
自動車用エンジン部品関連が主力
1. 事業概要
経営統合後のセグメント区分は自動車・産業機械部品事業、配管・建設機材事業、その他(熱エンジニアリング事業、EMC事業、商品などの販売)としている。
自動車・産業機械部品事業は、エンジン部品であるピストンリング、バルブシートを主力として、自動車エンジン・トランスミッション・駆動・足回り関連の焼結部品・樹脂部品・素形材部品、産業機械部品、船舶用エンジン部品なども展開している。
配管・建設機材事業の主力製品は管継手などの配管用機材である。2023年5月にはリケンが配管用継手大手の日本継手を子会社化し、国内配管継手業界トップとなった。
その他は、独自開発の金属発熱体「パイロマックス(R)」やセラミックス系発熱体「パイロマックススーパー(R)」の開発・製造・販売及びそれら活用したヒータユニット・工業炉などの加熱処理まで手掛ける熱エンジニアリング事業、電波暗室の開発・販売を手掛けるEMC事業などを展開している。2024年2月にはリケンが、半導体製造装置向け熱エンジニアリング事業拡大に向けて、低温領域の中小型ヒータユニットに強みを持つシンワバネスを子会社化した。
2025年3月期中間期の売上高構成比(セグメント間取引消去前合計に対する割合)は、自動車・産業機械部品事業が77%、配管・建設機材事業が11%、その他が13%だった。なおリケン及びNPRの経営統合以前のセグメント別推移を見ると、両社ともピストンリングなどの自動車用エンジン部品関連を主力としていることが窺える。
高度な精密加工・表面処理・材料・粉末冶金技術などに強み
2. 特徴・強み
主要製品であるピストンリングの主な役割には、エンジン燃焼室で燃焼ガスの漏れを封じるシール機能、潤滑油(エンジンオイル)のコントロール機能、燃焼熱を逃がす伝熱機能、ピストンの摩耗を抑えるサポート機能などがある。300℃という過酷な条件の燃焼室内で使用され、エンジン性能に直接関わる重要機能部品である。高品質のピストンリングを供給できるメーカーは、世界でもリケンとNPRを含む5社(米国1社、独1社、日本3社)に実質的に限定されている。低フリクション化や耐摩耗性向上、高性能・高品質の材料と表面処理などの高い技術力が求められるが、両社とも高度な精密加工・表面処理・材料技術などに強みを持っている。また、粉末冶金技術、エンジニアリングプラスティック技術においても独自の強みを有している。主要得意先はトヨタ自動車<7203>や本田技研工業<7267>をはじめとする世界の主要な自動車メーカーで、幅広い製品を供給している。
事業環境変化に対応して事業ポートフォリオ改革を推進
3. リスク要因と対策
リスク要因としては、景気変動・感染症・災害・その他の影響による自動車生産台数の減少がある。ただし、グローバル自動車市場は新興国における自動車普及の進展などで緩やかに拡大基調であり、同社にとっては自動車生産台数の増減よりも、世界的な脱炭素社会の流れを背景とする中長期的な環境規制の影響(エンジンの低燃費化、ガソリンエンジンの減少、エンジンのクリーン化への対応、自動車のEV化など)がリスク要因となる。同社は、ガソリンエンジンのさらなる低燃費化、水素や代替燃料などを使用する次世代エンジンへの対応など、エンジンの進化に向けた技術開発を推進するとともに、EV化の流れも踏まえて非ICE領域での事業の拡大にも注力し、事業ポートフォリオの改革を進める方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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