霞ヶ関キャピタル Research Memo(6):物流事業を拡大、ホテル事業を回復・拡大し、新規事業にも取り組む(2)
3. ヘルスケア事業
霞ヶ関キャピタル<3498>は2021年12月にヘルスケア事業推進部を新設し、ヘルスケア事業に参入した。1号案件として、札幌市でヘルスケア施設(ホスピス住宅)を竣工・運用開始している。ホスピス事業を担う子会社KC-Welfare(株)の設立も行い、迅速な事業展開を推進している。同社では、施設及び開発用地を取得する一方で売却を進めており、売却後もできるだけ運営に関わる方針であるが、看護師の確保・育成などのノウハウが必要であるため、自社で運営するまでには時間を要する。東京・大阪・札幌・福岡を重点エリアとして、人口の多い大都市圏で駅近の物件を取得・開発している。
2024年8月期第2四半期には、ヘルスケア施設開発用地2件を新規に取得、開発用地1件を開発フェーズに移行するなど着実に事業を推進している。その結果、プロジェクトパイプラインは、運用中3件、開発中6件、取得済2件、取得契約済1件で、2024年3月末の事業規模は12件/280億円(前期末比150億円増)であった。なお、2022年8月期は人材やリサーチへの投資が先行したが、2023年8月期からは業績に寄与し始めている。また、2023年8月期には、札幌市案件と東京都板橋区案件についてソーシャルローンによる資金調達をしており、今後もソーシャルローンを積極的に活用する計画だ。
事業展開の背景には、人生の最期を迎える場所の変化がある。高度成長期には自宅から病院・診療所に大きく置き換わったが、近年はヘルスケア施設の割合が急速に拡大しており、ヘルスケア施設は人生の最期を迎える場所として重要な役割を担いつつある。こうした市場分析に基づいて、同社のヘルスケア事業は、社会的課題の解決と景気動向に収益が左右されにくいアセットへの投資機会を提供するもので、高い社会性を持つと言えよう。加えて、優良なオペレーターとの固定・長期の賃貸借契約により、安定した不動産キャッシュ・フローが期待できる。同社は従来の不動産ファンドやJ-REITが主に取り組んできた「介護」という切り口だけではなく、「医療」という切り口でも事業を展開する方針で、ホスピス住宅を全国で開発する計画である。特に、「病院の安心感」と「自宅の快適さ」の両方の特性を持つホスピスは、これからの超高齢社会において大きな社会的役割があることから、ホテル開発などで培ってきたノウハウを生かし、付加価値の高いヘルスケアサービスの提供で他社との差別化を図る方針だ。
2023年11月には、東京都調布市のヘルスケア施設運営会社を取得した。これは、施設開発に留まらず運営面まで一貫して行うことで、既存の他社サービスとの差別化を目指すものだ。すなわち、人生の最後を快適に過ごせる空間を提供する。利便性の高いエリアで快適性の高い施設の供給を目指しており、既存のホスピス住宅に比べ高めの賃料を設定する。利用期間は平均3~6ヶ月程度と短いため、同社では利用者は快適さを優先すると見て、十分に勝算があると考えている。今後は、ヘルスケア施設の自社運営を増加させる計画だ。
4. 海外事業
海外事業ではASEANで最もインフラが整っているタイと、人口が現在の2億7,000万人から3億人に増加すると予想されるインドネシアに現地法人を設立し、ビジネスの機会を探っているが、新たに中東のアラブ首長国連邦ドバイ首長国の首都ドバイにも現地法人を設立し、事業化を開始している。ビジネスモデルは基本的には日本で行っていることと同様になる予定だが、現在は売買実績を積み上げている段階であり、まずは同社が物件を押さえ、その後バリューアップシナリオを策定し、外部または投資家に物件を一旦売却している。将来的には他の事業と同様に管理・運営にまで関わりたい考えで、法規制などの確認を行っている。2024年3月期末の海外事業の事業規模は、7件/160億円(前期末比100億円増)である。
近年、ドバイは投資先として世界的に注目を集めており、特に不動産投資環境は活況を呈している。人口増加に伴う実需が拡大しており、また富裕層の流入が顕著であることから、特に高級レジデンスは強い成長が見込まれている。同社では、ドバイに現地法人を設立し、不動産マーケットに参入して投資機会を創出するとともに、投資プラットフォームを構築すべく活動を開始しており、レジデンスのバリューアップファンドを設立に向けて意欲的に取り組んでいる。将来的にはホテルなどの開発も視野に入れながら事業を拡大していきたい考えであり、長期的には有望な事業分野と見られる。
オルタナ投資として、レジデンスファンド(デジタル証券化事業)に取り組み、2022年1月には、デジタル技術を活用した不動産・インフラを中心とする実物資産のアセットマネジメント事業を行っている三井物産デジタル・アセットマネジメントと都心賃貸マンションを組み込む私募ファンドを組成し、運用を開始した。ただ、2024年8月期第2四半期からは、より収益性の高い他の事業に経営資源をシフトすることとし、レジデンスファンドの売却を行った。その結果、プロジェクトパイプライン及びAUMによる2024年3月末の事業規模は13件/334億円(前期末比449億円減)に縮小している。
5. ESG
2015年9月の国連サミットで採択され掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に基づき、誰一人取り残さない社会を目指して世界中で取り組みが進んでいる。同社も事業活動を通してSDGsの達成に積極的に貢献し、持続可能な社会の実現のため社会問題解決に取り組むためのESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス))経営を行っている。また、資金調達の多様化及び安定化、サステナビリティ経営に継続的に取り組む考えだ。
同社はSDGsに着目した取り組みを行っており、2024年8月期第2四半期累計期間には、同社開発物流施設の環境認証取得状況により金利が変動するサステナビリティ・リンク・ファイナンスフレームワークに基づく資金調達と、FFG本業支援ローン(サステナビリティ・リンク・ローン型)をそれぞれ1件実施した。加えて、ヘルスケア施設の開発に対して、策定したソーシャルローンフレームワークに準じた資金調達を1件行った。これらは同社の環境性や社会性の評価が資金調達の多様化と安定化に結び付いた実例であり、環境性や社会性が事業性の向上に寄与することの証左として、引き続き本取り組みを推進する考えだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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