ファンペップ Research Memo(8):皮膚潰瘍向け治療薬は2025年には第3相臨床試験への再挑戦を検討
4. SR-0379(皮膚潰瘍)
現在の皮膚潰瘍(褥瘡(床ずれ)及び糖尿病性潰瘍)の治療法では、皮膚組織が欠損した場合、感染の疑いがある場合にはまず細菌の付着・増殖を抑えるための治療(消毒剤や抗生物質などを使用)を一定期間施してから、組織再生のための治療(細胞増殖因子の投与)を行う必要があり、長い治療期間を要することが課題となっていた。「SR-0379」は、創傷治癒促進効果に加えて抗菌作用もあることから、従来よりも治療期間を短縮できる効果が見込まれ、患者のQOL向上につながる治療薬として開発が進められてきた。
2022年11月に発表された第3相臨床試験※の速報結果では、主要評価項目である「簡単な外科的措置に至るまでの日数」において、プラセボ群と比較して日数を短縮する傾向が見られたものの、統計学的な有意差は得られなかった。ただ、試験データから特定の症例では効果のあることが確認されたため、対象患者を絞って再度、第3相臨床試験を実施すべく、ライセンス契約先の塩野義製薬とも開発方針を確認し、近々PMDAと協議を進める意向であることを明らかにした。対象患者を絞り込むことで当初の想定よりも市場規模が小さくなるが、ビジネスとして成立すると判断したようだ。症例数についてはPMDAと協議のうえ確定することになるが、少なくとも前回と同規模水準になると予想される。治験薬は症例数が決まってから発注するため、臨床試験の開始は2025年に入ってからとなりそうだ。
※外科的措置(縫合、植皮、有茎皮弁)が必要な重度な患者(入院患者)120例を対象に、プラセボ対照二重盲検比較試験を2021年6月より実施した。
皮膚潰瘍は患者や医療現場からも治療期間の短縮に対するニーズが強く、高齢化社会の進展に伴い「寝たきり患者」や糖尿病性皮膚潰瘍患者が増加傾向にあることからも社会ニーズにマッチした製品と言える。「SR-0379」は誰にでも使えるスプレー式でベッドサイドに置けるため、安定性や利便性の面でもメリットがある。同社では各種統計データから、皮膚潰瘍患者数を国内で約100万人(褥瘡約20万人、糖尿病性潰瘍約80万人)、米国で約230万人(褥瘡約50万人、糖尿病性潰瘍約180万人)と試算しており、糖尿病性潰瘍患者の何割程度が対象に含まれるかで、売上のポテンシャルも変わってくることとなる。
現在、皮膚潰瘍治療薬としては軟膏タイプのものから湿布、スプレータイプのものまで様々なものがあるが、スプレータイプの治療薬となる「フィブラストスプレー(科研製薬<4521>)」は薬価が約7千円/瓶で、国内売上は約27億円(2023年3月期実績)である。すべての皮膚潰瘍患者で利用されることになれば、国内だけで潜在市場は約100億円程度となるが、対象範囲をやや絞り込むため市場規模も数十億円規模になると予想される。ただ、開発が続行されれば、海外での開発にも今後進む可能性が高くなったと弊社では見ている。塩野義製薬と締結した全世界を対象としたライセンス契約では、契約総額(契約一時金、開発及び販売マイルストーンの合計)が100億円となっている。
研究テーマから1品目、2024年内に前臨床試験開始を目指す
5. その他の開発状況
その他、2024年は研究テーマ(片頭痛、脂質異常症など)のなかから1品目、新規開発化合物を決定して前臨床試験の開始を目指す。2022年4月より熊本大学と共同研究を開始した脂質異常症を対象とする開発プロジェクトは、脂質異常症治療薬候補となる抗ANGPTL3抗体誘導ペプチドの開発において、有望な開発化合物の絞り込みが進んでおり、2025年春頃には前臨床試験を開始するか否かの判断ができる見通しだ。血中LDLコレステロールに加えて中性脂肪も低下させる作用を持つANGPTL3阻害薬※が、2021年に欧米で家族性高コレステロール血症を適応症とした製造販売承認を取得しているが、抗体誘導ペプチドで抗体医薬品を超える適応症の取得を目指す。
※Regeneron Pharmaceuticals,Incの抗体医薬品「Evkeeza(R)」(evinacumab)が承認された。2023年の米国での売上高は77百万米ドル。
乾癬を適応疾患として開発を進めていた抗IL-23抗体誘導ペプチド「FPP005」については、投与間隔などの利便性や投与量減少も含めた開発品プロファイルのさらなる向上を目指し、メドレックスと共同研究中のマイクロニードル技術をはじめとする新規製剤技術の研究を進めているため、2024年については大きな進捗はないものと思われる。また、AMEDの補助金を使って大阪大学大学院医学系研究科と共同研究を行っていた新型コロナウイルス感染症ペプチドワクチン「FPP006」については、研究期限が2024年3月に到来したため、今後の研究方針を検討中である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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