ティアンドエス Research Memo(5):2023年11月期も過去最高業績を継続(1)
1. 2023年11月期の業績概要
ティアンドエス<4055>の2023年11月期の業績は、売上高が前期比5.7%増の3,442百万円、営業利益が同4.2%増の643百万円、経常利益が同3.5%増の648百万円、当期純利益が同7.6%増の473百万円だった。売上高、各段階利益ともに前期に引き続き過去最高業績を継続した。カテゴリー別では、ソリューションカテゴリーと半導体カテゴリーが増収増益と好調だったことが過去最高業績の継続に寄与した。一方で、先進技術ソリューションに関しては、事業環境は良好だったものの、前期にあった大型案件の剥落やエンジニアの不足などの影響を受け、前期比で減収減益となった。ただ、エンジニアリソース増強による受注体制の強化は、足元で順調に進んでおり、トヨタ自動車やJAXAといった新規案件の獲得に結実している。利益面に関しては、営業利益率が同0.3ポイント減の18.7%となった。売上高の伸びに対して販管費の増加率を抑制したものの、外部環境が良好ななか旺盛なニーズに対応するためにビジネスパートナーの活用シーンが増えたことによって売上総利益率が若干低下したことが響いた。ただ、営業利益率18.7%は依然として相対的に高い水準であり、収益性の高いビジネスモデルであることに変わりはないと弊社は見ている。
(1) ソリューションカテゴリー
ソリューションカテゴリーの売上高は、前期比6.4%増(155百万円増)の2,585百万円だった。主要取引先であるキオクシアグループ、東芝グループ、日立グループからの受託開発案件の受注が引き続き堅調に推移した。特に、前期から継続している大型案件のキオクシアグループ工場内の生産管理システムのリプレースが引き続き業績の拡大に寄与した。また、DXなどのトレンドを追い風に、既存顧客からの紹介である新規取引先が急伸したことも増収増益に寄与した(主要取引先以外の取引先である「その他」からの売上は、同19.6%増の958百万円に膨らんだ)。
(2) 半導体カテゴリー
半導体カテゴリーの売上高は、前期比13.2%増(77百万円増)の662百万円だった。在庫調整など半導体市場自体は厳しい環境であったものの、工場の稼働に伴うシステムの保守・運用に対するニーズは堅調であり、主要取引先である東芝グループ、キオクシアグループからの受注が好調に推移した。加えて、増員要請があったことにより、半導体工場における保守・運用サービスに係る派遣エンジニア数が堅調に推移したことも増収増益に寄与した。
(3) 先進技術ソリューションカテゴリー
先端技術ソリューションカテゴリーの売上高は、前期比19.3%減(46百万円減)の195百万円だった。事業環境は良好であったものの、前期にあった大型案件の剥落やエンジニアリソースの不足が響いた。期初の時点では、前期の大型案件剥落の反動を他社案件でカバーする想定だったものの、リソース不足が響き対応できる案件数が想定を下回った。ただ、足元では人員リソースの拡充と受注体制の強化が進捗しており、実際、トヨタ自動車やJAXAといった新規案件の獲得に結実している。同カテゴリーは、付加価値型ビジネスモデルへの転換に向けて鍵となるカテゴリーである。今後は新卒採用を中心にさらなるエンジニアの拡充に注力する方針であり、旺盛な市場のニーズを取り込むことにより、トップラインの拡大と収益性の向上が期待できると弊社は見ている。また、生成AIの業務への導入が市場の1つのトレンドとなるなかで、プロンプトエンジニアリング関連の案件も新規で獲得している。生成AIを活用した新規サービスの創出に各企業が注力している一方で、まだまだ生成AIの活用方法に関しては各社が模索している状況である。そういったなかで、同社のプロンプトエンジニアリングに対するニーズが好調に推移していく可能性も高いと弊社は見ている。
2023年11月期のトピックスとしては、持株会社体制への移行に関して検討を開始したことが挙げられる。約40年に及ぶ長年の事業活動で事業規模の拡大と、それに伴う同社ビジネスモデルの多様化が進んできた。今後、さらなる成長を遂げるためには、ビジネスモデルに応じた損益マネジメント、人材マネジメントを通じ、機動的できめの細かい経営の実現が不可欠であること、また、今後の新規事業創出やM&Aによる事業拡大を柔軟に実現するためにも事業会社の独立性を高めつつ、かつグループとして効率的な資源配分と効果的なコーポレート・ガバナンスを行う必要があること、などの理由から持株会社体制移行への検討を2023年9月に開始した。2023年12月には持株会社移行への第一段階として、「ソリューション事業部」「インフラストラクチャー事業部」「先進技術ソフトウェア事業部」の各事業部を廃止したうえで、「システム開発事業本部」「ITサービス事業本部」「先進技術事業本部」の各事業本部を新たに設立した。システム開発事業本部はあらゆる産業領域のソフトウェア市場における受託開発を担う。ITサービス事業本部は、半導体工場関連、制御系・業務系システム関連の運用・保守を中心にITインフラ設計・構築支援やシステムの監視・運用サービスなどを手掛ける。先進技術事業本部はAI関連のソフトウェア開発及び先進AI半導体関連サービスを手掛ける予定となっている。2024年1月には持株会社体制への移行及び分割準備会社の設立を決定している。今後は2024年6月を目処に持株会社体制への移行を完了し、長期的には事業会社の分社化によりビジネスモデルに応じたマネジメント体制を強化する方針である。同社を取り巻く事業環境は、ニーズが旺盛であるとともに生成AIの誕生など、変化のスピードも早い。意思決定の権限やリソースを各事業会社に積極的に移譲することにより経営スピードのさらなる迅速化を実現していく。
2. KPI(Key Performance Indicator)の達成状況
同社が設定しているKPIの達成率(2023年11月期末時点)は、先進技術ソリューションカテゴリーの「年間受注工数」が70%、半導体カテゴリーの「派遣エンジニア数」が88%、ソリューションカテゴリーの「エンジニア数」が95%となった。人員リソースの拡充が想定どおりに進まなかったことがKPI未達の要因ではあるものの、既述のとおり足元ではエンジニアリソースの拡充とそれによる受注体制の強化は順調に進んでおり、今後も新卒採用を中心にエンジニア採用に注力する。したがって、外部環境が好調のなか、2024年11月期以降は各KPIの達成が期待できると弊社は見ている。なお、事業本部制の導入に伴い事業本部ごとのKPIを新たに定義し直している。システム開発事業本部と先進技術事業本部は受注工数を、ITサービス事業本部はエンジニア数をそれぞれKPIとして設定し、各KPIの進捗状況を適切に管理する方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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