紀文食品 Research Memo(7):2024年3月期下期も第2四半期の好調を維持・拡大
3. 2024年3月期の業績見通し
2024年3月期業績について紀文食品<2933>は、売上高106,963百万円(前期比1.2%増)、営業利益3,707百万円(同83.3%増)、経常利益3,159百万円(同79.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益1,903百万円(同330.1%増)と見込んでいる。同社は、経営理念である「革新と挑戦と夢」を企業行動の軸とし、「創造と改革により成長性と収益性のある企業グループ」となるよう、2021年4月に策定した3ヶ年の中期経営計画に沿って、「成長の加速」「経営効率の改善」「経営基盤の整備」の3点を活動の基軸に、引き続き着実に企業価値を向上させていく方針である。下期は、国内食品事業と食品関連事業では秋冬期の需要の高まりを捉えて収益の拡大に取り組み、海外食品事業ではマクロ経済の動向や地政学リスクによる影響度を注視しつつ業績の回復に努める考えである。
セグメント別の取り組みとしては、国内食品事業では、市場ニーズとトレンドに合致した製品展開と、新しい生活様式における需要創出や販路拡大を通じて、国内市場での更なるシェア拡大と安定した成長を実現する考えである。また、健康志向、簡便性、たのしさといった顧客ニーズに合った水産練り製品や惣菜類の商品ラインナップを充実させるとともに、店頭演出の強化などによって顧客への訴求力向上につなげる方針である。さらに、SNSや動画サイトなどを活用した秋冬物プロモーションを実施し、次世代の顧客である若年層に対して認知と消費の拡大を図る。
さらに、片手で食べられるさつま揚やご当地おでんなどの拡販に努める一方、正月商戦向けに、2024年の干支である辰をモチーフにキャラクター蒲鉾の商品開発を進める。また、「家族でつくろう!お正月プロジェクト」を発足し、日本の伝統行事で文化でもある正月とおせち料理の大切さや慣習を次世代に伝え継ぐプロモーションを展開する(2030年までを目標に継続の予定)。利益面では、原材料の安定調達や自働化・省人化による生産効率向上に取り組み、高付加価値商品の生産能力を増強しつつ、「食の安全・安心」を最優先とした製造管理と品質衛生管理を強化する。一方、繁忙期である第3四半期の需要を確実に捉え、原材料価格沈静化の効果をフルに享受することで、第2四半期までの好調を維持・拡大する考えである。なお、中長期的視点では、新規原材料の開発や製造技術の革新によって、原材料相場に左右されない強固な経営体質の構築も図っていく。
海外食品事業は同社の成長ドライバーとして、グローバル戦略商品である、カニカマと「Healthy Noodle(糖質0g麺)」を中心に、北米・中国・東南アジアの各エリアの食トレンドに合わせた商品展開をする方針である。注力する商品とエリアを定め、業容拡大に向けた取り組みを実施することで、海外食品市場での存在感を高め、継続的な成長を実現する考えである。
食品関連事業では、同社の強みであるチルド物流事業において、人流回復に伴う物流増を取り込む一方、環境負荷低減の観点から共同配送事業の運営に一層注力し、既存取引の深耕と新規取引の拡大につなげる考えである。さらに2024年問題に先んじて、物流と情報システムを連動させた配送網の拡充に取り組み、配送効率と業務効率を両立したサービスを安定的に提供していく方針である。このように物流サービスの多様な選択肢をバランスよく提案することで市場のポジションを高め、物流が増える12月を中心に収益を上げていく計画である。
ESG経営の推進では、新たに設置したサステナビリティ委員会を中心に、社会課題解決に向けた活動の基本方針と行動規範に基づいて重点的に取り組むべき5項目(「温室効果ガス排出量の削減」「食品ロスの削減」「持続可能な調達」「プラスチック削減」「人材育成」)を設定し、それぞれ2030年までの達成目標を提げて活動している。また気候変動への対応としては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明し、TCFD提言に基づく情報開示にも取り組んでいる。気候変動による事業的なリスクと機会を認識しつつ対応策を検討していくことで、持続可能な社会の実現とともに、中長期的に安定した成長と企業価値の向上に取り組む計画である。
なお、同社の売上高及び営業利益は、主力商品である水産練り製品が冬季におでんや鍋物などに向けての需要が高まること、おせち料理関連商品の売上げが12月に集中することから、第3四半期に偏重する傾向にある。2024年3月期については、通期業績が第3四半期に大きく依存するとの見通しから、第2四半期は業績好調だったがは通期業績を上方修正しなかった。一方で、水産練り製品は冬季の鍋物以上に秋~初冬におでん種として多く使われる。当期はおでんの利用は9~10月の気温の高さから厳しいスタートとなったものの、11月の気温低下で一気に回復傾向となり、12月も堅調に動いている模様である。同社によると、通常最繁忙期の12月の食卓はおでんから鍋にシフトするものだが、今年の12月は気温と葉物が高いため、おでんが引き続き好まれているようだ。おでんシーズンが12月まで伸びたことで、9~10月の売上げを十分取り返せる見込みである。また、年末年始の帰省も人流回復とともに増えることが予想され、取引先や市場に、行動変化に対応する提案をすることで需要を取り込んでいく考えである。上期の実績に加え、下期も現時点で引き続き好調に推移していること考慮すると、通期の業績が同社予想を上回る好決算となることが期待され、2025年3月期以降の再成長へ向けて弾みとなるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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