ファーマF Research Memo(11):卵殻膜を高度利用する新市場創造
3. 新市場創造
新市場創造では、拡大基調にある健康市場において、ブランド強化、海外市場開拓(米国市場開拓、越境ECによる中国市場開拓、ハラール認証による東南アジア市場開拓)、国内市場における通販ビジネスの深耕化(100万人超のD2Cプラットフォームを活用した新製品・サービスの展開)、BtoBからBtoCへのビジネスモデル転換(ファーマフーズ<2929>ブランド製品の大手ドラッグストアやコンビニエンスストア流通網への展開)、SDGsへの取り組み(未利用資源のアップサイクル市場創造)、健康サポート機器や医療機器分野への進出(健康器具、美顔器、測定機器、補聴器)などを推進する。
このうち米国市場開拓については「ファーマギャバ(R)」のFDA(米国食品医薬品局)によるGARS(Generally Recognizes As Safe)認証取得を目指す。FDA GARS取得によって現在のサプリメント対象から一般食品や飲料にも対象が広がるため、米国の大手食品・飲料メーカーでの採用につながり、米国市場が急拡大する見込みだ。東南アジア市場の開拓についてはベトナムに合弁会社を設立する覚書を締結し、健康食品製造工場を建設する予定である。将来的にはベトナム以外の東南アジアへの展開も視野に入れているようだ。
未利用資源のアップサイクル市場創造については、未利用の天然由来原料を活用するほか、天然物からの新価値創造技術を農業に活用することも目指す。具体的には、2021年9月に三洋化成工業と、世界の農業危機の解決に向けて両社の開発・技術力を融合させた「アグリ・ニュートリション基本計画」を策定し、2022年には宮崎県新富町で新たな農業システムの構築を目指す実証実験を開始した。今後のスケジュールとしては、2024年に両社の技術を融合したバイオスティミュラント※による多収性、耐性、機能性を高めた高付加価値作物の開発、2025年に高付加価値作物の未利用部位由来の高機能健康食品及び化粧品を同社通販チャネルで販売、2026年にターゲット作物の拡大及び6次産業化、ブランド化の推進、2030年に持続可能な農業システムの開発を目指す計画だ。
※Biostimulant。植物に対する非生物的ストレスを制御することにより、気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、健全な植物を提供する新しい技術のこと(日本バイオスティミュラント協議会のHPより引用)。
また2021年12月には未利用資源の新たなアップサイクル事業として、卵殻膜を高度利用した「繊維」及び「植物活力剤」市場へ参入することを発表した。国内で年間26万トン廃棄されている卵の殻を高付加価値製品に転換し、持続可能な社会の実現を目指す。卵殻膜繊維「ovoveil(オボベール)」については、大手メーカーと商談中である。このほか2022年7月には、卵由来の液体肥料の製造を行うENEGGOにENEOSホールディングスと共同出資し、(株)グリーテクノ21及びその子会社ENEGGOとの業務提携契約を締結した。国内最大規模の卵殻及び卵殻膜を調達し、卵殻膜繊維や液体肥料など化成品分野の強化を目指す。
2023年6月には、信州大学先鋭領域融合研究群国際ファイバー工学研究拠点(以下、IFES)との共同研究により、世界初の卵殻膜を用いたナノファイバーのメンブレン(膜)の作製に成功した。今後はIFESと産学間の業務提携を締結し、卵殻膜ナノファイバーを用いた生体膜創傷被覆材をはじめとするメディカル分野や、スーパーキャパシタなどのエネルギー材料分野への応用を目指して研究を進める。
2023年9月には、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が公募する「バイオものづくり革命推進事業」プロジェクトに、卵殻膜のアップサイクルプラットフォームによる3つの領域(ハイブリッド繊維、新規蓄電素子材料、農業用バイオスティミュラントペプチド)の事業化が委託及び助成事業として採択された。新規蓄電素子材料については、卵殻膜加水分解物をナノファイバー化することで電気的特性に優れた蓄電素子の材料開発が可能であることを見出している。今後は繊維や農業の分野にとどまらず、ナノファイバーを原料とした電子材料など幅広い産業利用に適した特性を持つ「卵殻膜素材」の開発・量産化を目指す。NEDOの補助を受けながら今後5~8年で総額50億円超(明治薬品の新工場建設を含めると150億円程度)の研究開発投資及び設備投資を行う計画である。
M&A・アライアンスを積極推進
4. 新組織創造
新組織創造では、安心して働ける給与水準や成長するためのインセンティブなど組織・人事・採用面の改革、海外製造・営業拠点構築などGlobal Solution Teamの育成・強化、M&A・アライアンスの実施などを積極推進する。このうちM&A・アライアンスについては、手元現金と融資枠を活用して、新製品・新市場に関連する売上高100億円規模の企業も視野に入れている。2023年1月には、PF Visionary Fund投資事業有限責任組合を設立し、運営開始した。スタートアップ企業への投資により、抗体創薬及びヘルスケア事業でイノベーションを加速する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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