【マザーズ先物の活用方法2023夏~上半期相場の回顧と下半期の見通し~ vol.3】2023年後半の相場見通し(2)
マザーズ先物の活用メリット、新興市場の上半期相場の回顧と後半の見通しを、フィスコマーケットレポーター高井ひろえが紹介、4回に分けて配信します。
それでは、こうした懸念がある中でも、日経平均がバブル崩壊後33年ぶりの高値を付けるなど、好調が続く日本株はどうなのでしょうか。東証のPBR改善要請やバフェット氏の追加投資、日銀の金融緩和の継続など複数の好材料が重なったことで、たしかに海外投資家からの日本株への注目度はここ数年には見られなかった程にまで高まっています。構造的な変化への期待は簡単には消えないと考えられ、日本株は欧米株と比べて相対的には底堅い展開が続きそうです。
しかし、日本株は「世界の景気敏感株」とも称されます。欧米経済が景気減速に向かうとすればさすがに無傷でいられるとは考えにくいでしょう。また、先ほどお伝えしたように、イールドスプレッドはすでに過去10年において最も割高な水準にまで上昇しています。日経平均のPERもすでに過去10年の平均値水準にまで上昇、PBRにいたっては、黒田前日銀総裁による大規模緩和相場における水準にまで上昇しています。これまで日本株を買う最大の理由となっていた割安感は全体的にすでに大きく解消されているといえます。
また、現在の植田日銀総裁の下では金融緩和が継続されているとはいえ、2012年以降の黒田総裁の大規模緩和に比べれば緩和策の内容は縮小されています。加えて、当時はより緩和的な状況に向かっていた一方、今は緩やかとはいえ、反対に引き締めの方に向かっているため、環境は大きく異なります。日本株についてもさらなるバリュエーションの上昇には追加材料が必要と考えられます。
ほかに、日本株の上昇背景には、企業経営の変化や持続的な賃上げを通じたデフレからの脱却といった構造的な期待もあります。ただ、残念ながら日本の実質賃金は現在、14カ月連続でマイナスが続いています。2023年の春闘の最終集計によると、平均賃上げ率は3.58%と1993年以来の高水準となりましたが、今後も継続的な賃上げが行われ、実質賃金のマイナスが解消されるまでは、本当に構造的な変化が起こったとは言いにくいでしょう。
国内の人々のより身近な景況感を計る景気ウォッチャー調査については、これまで回復基調が続いてきました。ただ、足元では現状を示す指数および先行きを示す指数ともに回復に一服感が見られています。小売企業の月次売上動向では、6月の既存店売上高で客足が前年比でマイナスに落ちる企業も多く見られ、国内にもインフレ進行による景気減速の陰が忍び寄っているようです。海外経済と比べた際の相対的に強い景況感が日本株を買う理由の一つにもなっていましたが、今後これが剥落することが想定される点には注意が必要でしょう。
それでは以上を踏まえて、東京市場の2023年下半期相場の見通しについて考えてみたいと思います。基本的には2つの理由、欧米経済の景気減速、そして株価バリュエーションの割安感がすでに解消済みであることを要因に、東証プライム主力銘柄の上昇は一服するのではないかと思われます。一方、景気や為替の動向が読みにくいなか、これらの要因との連動性が低い内需系セクターが中心の新興株は相対的にパフォーマンスが良好と考えられます。ただ、国内でも個人消費の減速が気がかりとなっているため、小売系ではなく、景況感が影響しにくい情報・通信セクターやサービスセクターなどが良いと思われます。
また、外部環境の不透明感が強いなか、海外投資家は取引に消極的になることが想定されますが、取引主体が個人投資家中心である新興株はこうした影響も受けにくいと予想されます。一方、リスクとしては国内でもインフレが進むなか、日銀の政策修正の可能性には注意が必要です。また、株式市場が大きく崩れた際に影響が出やすい中小型株特有の流動性リスクなどには留意しておくべきでしょう。
さて、ここからはマザーズ先物の活用メリットについてお話していきたいと思います。年後半は相対的に新興株にも注目できると思いますので、マザーズ先物を活用できる場面も多いと考えられます。マザーズ先物を活用するメリットは、このように主に6つの点が挙げられます。
まず、一つ目の「小額から取引可能」から見ていきましょう。マザーズ銘柄には有望なものが多いですが、東証グロース市場指数の時価総額上位250銘柄から構成されるだけに、最低投資金額がそれなりに嵩むものも多くあります。しかし、マザーズ先物であれば少額から取引が可能で、手軽に新興株、グロース株への投資ができます。具体的に説明していきましょう。今年7月4日時点のマザーズ先物の終値は810ptでした。マザーズ先物の最低単位は1枚から、先物価格の1,000倍単位からの売買となりますので、例に挙げたように81万円からの取引ということになります。ただ、実際に取引する際はこの金額の全てを用意する必要はなく、証拠金という小額の金額を用意すれば始めることができます。7月4日時点のマザーズ先物取引の証拠金は58,000円です。時価総額上位のマザーズ銘柄を現物株で取引しようとすると、おおむね数十万円の資金が必要となるのに対し、マザーズ先物であれば10万円未満という少ない金額から取引可能で、この点は大きなメリットでしょう。
そして、これが2点目のメリット「投資効率の高さ」につながってきます。マザーズ先物は58,000円という証拠金を用意するだけで81万円の取引ができるわけですから、計算すると、およそ14倍のレバレッジがかけられることになります。現物株の信用取引でもレバレッジをかけた取引は可能ですが、こちらの場合は預けた担保評価額の最大3.3倍程度までに限定されますので、マザーズ先物取引の方が投資効率は非常に高いと言えます。
次に、「現物株の取引ができない時間帯でも対応可能」という点についてご説明いたします。先物は現物株の取引を行うことができない夕方4時半(16:30)から翌日の早朝6時までの間も取引を行うことが可能です。これにより、現物株の取引終了後に多くある決算などの会社側からのリリースや、夜間の海外市場発のニュースに対応した取引も行うことが可能です。個別企業に関する材料でも、時価総額上位のような指数への影響が大きい銘柄であれば、マザーズ先物の代替性は高く、積極的に活用することができるでしょう。決算発表シーズンでも主要企業の業績動向をいち早く確認し、マザーズ先物取引で対応することなどが選択肢として考えられます。
また、昨年からは、FRBの金融政策を占う経済指標の結果や、FRB高官らの発言によってアメリカの金利やハイテク株が大きく動き、それが翌日の東京市場の新興株にも波及することが多くなっています。このため、海外市場の動向によっては、夜間取引の間にマザーズ先物を買い建て、もしくは売り建てておくことで、早めに対応することも有効でしょう。
ちなみに、7月5日時点のマザーズ指数構成銘柄で、浮動株調整ベースで見た際の時価総額上位10銘柄はこのようになっています。月面開発で民間宇宙ベンチャーのispaceやVTuberのキャラクターIPの開発、VTuberプロダクションの運営を展開するカバーなど、半年以内に新規上場したばかりの企業などもランクインしています。
4つ目に「売りからも入れる柔軟な投資方法」があります。ほかに売りから入れる方法として、代表的なものに信用取引を活用した空売りがあります。ただ、新興市場の銘柄の場合、流動性などの観点から空売りを行うことは意外と難しいです。日本取引所グループが空売りできる条件を満たした銘柄として「貸借銘柄」と呼ばれる銘柄群を定めていますが、今年の7月4日時点で東証グロース市場の全上場銘柄536銘柄のうち貸借銘柄はわずか124銘柄(6/5公表)しかありません。そのため、貸借銘柄でない時価総額上位銘柄を保有している場合、代わりにマザーズ先物を短期的な株価下落に備えたヘッジ手段として活用することができます。例えば長期的には有望な銘柄なのでまだ持っていたいけれど、成長のための先行投資などで目先の決算が心配、そのほか、短期的な株式市場の急変が心配、などといったケースでの活用が挙げられます。
また、マザーズ先物は個別銘柄に組み合わせなくても、単独でも便利な投資ツールだと思っています。これが5つ目のメリットである「グロース株全体へのエクスポージャーを効率よく取得可能」に該当します。新興株に投資したいと思っても、新興企業を巡る経営環境の変化は早く、長期的に将来有望な銘柄を高い確率で見極めることは決して簡単ではありません。マザーズ指数の構成銘柄のうち時価総額上位銘柄の年始からの株価パフォーマンスをみても差は歴然としています。こうした際に、個別銘柄の分析に時間をかけている余裕がなく、どの企業に投資したらよいかは分からないけども、とりあえず新興株には投資してみたいといった考えを持つ人にとっては、マザーズ先物を買い建てれば、どの企業に投資するべきかを考えずとも、グロース株へのエクスポージャーを効率よく取ることができます。
また、個別企業の場合には固有のリスクが付きまといます。例えば、期待したような相場が到来して、グロース株が軒並み上昇しているような場面でも、たまたま自分が投資していた企業が株価にネガティブなリリースを発表してしまえば、多くのグロース株が上昇しているなか、自分だけは利益を取れないといったこともあり得ます。マザーズ先物の買い建てであれば、こうした銘柄固有のリスクを排除することができるでしょう。
最後に6つ目のメリットとして、「祝日取引」が挙げられます。昨年の9月23日、秋分の日から、株価指数先物など一部のデリバティブ取引で祝日取引が始まりました。基本的に1日程度の祝日であれば大きな問題はありませんが、ゴールデンウイーク(GW)のような国内の大型連休の最中に海外で重要イベントが開催されることもあります。そうした際に、連休明けまで待つことなく、祝日の間でもイベントに対応した取引が可能になることで、空白リスクを解消することができます。
※原稿作成:フィスコアナリスト仲村幸浩
-マザーズ先物の活用方法2023夏~上半期相場の回顧と下半期の見通し~ vol.4に続く-
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