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日ピストン Research Memo(9):市場環境の変化はあるがエンジン生き残りのシナリオも(1)


*14:39JST 日ピストン Research Memo(9):市場環境の変化はあるがエンジン生き残りのシナリオも(1) ■日本ピストンリング<6461>の成長戦略

2. 市場環境
グローバル自動車市場は、新興国を中心に需要拡大が見込まれるものの、地球温暖化やエネルギー問題に対応するため、環境規制の導入やEV化に向けた動きが加速しているほか、ICE(Internal Combustion Engine:内燃機関搭載車)が減少し、パワートレイン構成に変化が生じている。一方で、水素エンジンや再生可能エネルギーを利用して生成したクリーンなe-fuel(e燃料)エンジンの開発も進められており、次世代モビリティの選択肢として新たに普及する可能性も予想されている。EVとHEV(Hybrid Electric Vehicle)のWell to WheelでのCO2排出量を比較すると、現在研究開発が進められている熱効率50%のエンジンを搭載したHEVは、EVに対して競争力があるためEV化が一気に進む可能性は低く、先進国においてエンジン生き残りのシナリオもあると弊社は想定している。

2022年12月にはトヨタ自動車が、タイで開催された耐久レースに水素を燃料とするエンジンを搭載した「GRカローラ」で参戦した。水素エンジン車が海外のレースに出場するのは初めてで、カーボンニュートラル時代に向けた新たなクリーン燃料自動車の選択肢の1つとして水素エンジンをアピールしている。また、2023年3月には、EU(欧州連合)において、ガソリンエンジン車の販売を2035年以降に禁止するという従来の方針を変更し、CO2と水素を原料とする合成燃料を使う場合に限り2035年以降も容認することとした。同社は、iLabo(株)が実施する水素エンジントラック開発プロジェクトに2021年より参画し、水素エンジン固有の事象に適応したピストンリングおよびバルブシートを提供し、水素を燃やす際のエンジン性能の評価に主体的に係わっているほか、バイオ燃料やe-fuel燃料対応の製品開発にも積極的に取り組んでいる。

3. 経営戦略
長期ビジョン及び中期経営計画の目標達成に向けては、自動車業界の動向を踏まえ、既存事業(自動車エンジン事業)の収益力強化、新製品事業(非自動車エンジン事業)の育成・確立、サステナビリティ経営の推進、の3つの重点分野にリソースを注力する。

(1) 既存事業(自動車エンジン事業)の収益力強化
既存事業では、環境規制に対応した高品質の内燃機関部品を提供することで顧客のエンジン開発に貢献し、収益力を強化する。具体的には、他社と差別化した技術でエンジン熱効率50%達成に貢献する新製品開発を進めるほか、e-fuelや水素燃料などカーボンニュートラルに向けた製品の検討に取り組む。また、コア技術を生かして新興国市場への拡販を強化する。インドやアフリカといった新興国市場はEV化が見えておらず、当面はICE搭載車の拡大が続くと見込まれることから、成長余地のあるこれら新興国市場でのシェア拡大を目指す。また、大型商用車のEV化には課題が多く、当面はディーゼルエンジンを搭載していくことが見込まれることから、多くの案件獲得に成功している中国市場での大型商用車領域のシェア拡大を目指す。さらには、新車が徐々にEVに置き換わってもエンジン補修需要は底堅く推移すると見込まれることから、北米・中米・アフリカを中心にアフターマーケットビジネスでのシェア拡大を推進する。

(2) 新製品事業(非自動車エンジン事業)の育成・確立
非自動車エンジン事業では、医療分野や産業機械分野などにおける新製品事業の着実な進展と、M&A・オープンイノベーションを活用した早期事業化を目指す。

a) 医療分野
同社は、主力事業である自動車エンジン部品の製造販売事業で蓄積した金属材料技術や精密加工技術などのノウハウを活用して、2015年3月期より医療分野への事業展開を図っている。現在、国内外の有力医療機器メーカーや大学等の研究機関と連携し、医療従事者や患者の立場に立った「人にやさしい医療機器」の開発に注力している。

医療用新材料チタンタンタル合金「NiFreeT」は、ニッケルフリー・非磁性で生体適合性が高く、体内留置が可能で、医療機器用貴金属(プラチナ)と比較し安価という優位性がある。「NiFreeT」はピストンリング用に自社開発した形状記憶合金だが、加工性に優れているため医療材料に転換した。歯科用スクリュー、ガイドワイヤ、カテーテル補強材など埋入型医療機器への応用などで早期の製品化・事業化を目指している。上智大学の久森紀之(ひさもりのりゆき)教授と共同で技術検討を進めており、2023年5月には整形外科を中心とした医療機器への適用に向けて、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の渡邉航太(わたなべ こおた)准教授・診療科副部長及び八木満(やぎ みつる)特任准教授とアドバイザリー契約を締結した。また、2023年6月には、イギリスのエディンバラ国際会議場で開催されたチタン学会において、Medtronic社のBernard Li博士と共同執筆者である同社の新製品事業開発部が「NiFreeT」の医療機器への適用を目的とした基礎研究結果についてプレゼンを実施した。2022年の世界の埋入型医療機器市場の年間売上高は約40億ドル(約5,000億円)の見込みとなっており、市場開拓余地は大きい。

2022年1月には、救急・災害用医療機器専門商社のノルメカエイシアを子会社化した。ノルメカエイシアは日本でいち早く災害医療の導入を提唱し、日本初の災害医療機器等の専門商社として、災害救急分野での豊富な知識・経験を有する。災害救急医療用資器材や感染症対策商品等を取り扱うほか、災害医療救助訓練の企画立案なども行っている。ノルメカエイシアが持つ幅広い顧客基盤ならびにソリューション提供・開発力と、同社のコア技術やモノづくり力、国内外の拠点活用を通じた組織対応力・販売力を融合することでグループシナジーを創出し、非自動車エンジン事業の売上拡大を目指す。

2022年9月には、MIM工法による外科用インプラントの標準規格ASTM-F2885に準拠した医療用チタン合金新材料(チタン6アルミニウム4バナジウム)の開発に成功した。不純物を減らしたことにより、一般的なMIM工法によって製造されたものと比べて疲労強度が約40%程度向上したほか、従来の加工品と比較しコストが低減した。強度が必要な外科用整形インプラント領域を中心に引き合いがあるようだ。引き続き材料や加工技術の開発を進め、医療製品の発展に貢献する方針だ。

このほか、世界最大手の医療機器メーカーであるMedtronicとの植込型医療機器協同開発プログラムでも新製品開発を進めている。

b) 産業機器分野
産業機器分野では、メタモールド工法の形状自由度や材料自由度の優位性を生かして、CASE関連部品、ロボット、センサーなどへ展開する方針である。また、3D形状圧粉コアを用いたアキシャルギャップ型モータは、インホイールモータに最適で、電動カート、車いす、搬送・農業用ロボット、パワードスーツなどへの用途を想定している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)

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