日産東HD Research Memo(5):「100年に一度の大変革期」に先駆する
1. 自動車業界の動向
コロナ禍などによる生産や流通の混乱が世界的に残るなか、景気回復によって情報機器や家電製品、自動車などの需要が増える一方、機能の高度化によって1製品当たりの半導体使用量がオーガニックに伸びており、このため製造業では半導体や各種部材の不足が継続している。自動車業界でも半導体や部材の不足が自動車業界のジャストインタイムという生産方式を不安定化させており、車両供給不足は2022年いっぱい続くとの見方が多いようだ。このように自動車業界は短期的に厳しい環境にあるが、中長期的には先端技術化や移動のサービス化から裾野を広げさらに拡大していくと予測されている。また、環境対応の点からも業界動向が注目されている。こうしたなか、自動車業界の近年のトレンドとして注目されているのが「CASE」である。「CASE」とは、自動車のIoT化(C:Connected)、自動運転(A:Autonomous)、所有から共有へ(S:Shared & Services)、EV(E:Electric)のことで、自動車業界に起きている「100年に一度の大変革期」を言い表している。また「CASE」と並行する動きが「MaaS(Mobility as a Service)」で、個人単位の移動ニーズに対応し、様々な交通手段を最適に組み合わせた予定・予約・決済をワンストップで行う、いわば移動自体をサービスとしてとらえた考え方である。同社はこうした考え方に対し、自動運転はプロパイロットなどで、共有は個人リース「P.O.P」などで、環境面で有利なEVは「リーフ」や「サクラ」などですでに実現しており、こと日本の自動車市場において同社は先駆者という位置づけにある(IoT化は通信インフラのほうが大きな問題)。
大変革に沿って、EVは欧州や中国を中心に急速に普及しているのだが、日本では話題先行で必ずしも普及しているとは言い難い。それは、EVに本格参入しているのが日産自動車くらいで、新車販売台数に占めるEVの比率がまだ非常に小さいからだ。このため、充電器などEVのインフラ構築に貢献できそうな駐車場を持つ小売やGSが、費用や回収の点で投資に踏み込めていないのである。そして、充電器の少なさが消費者にEV購入の二の足を踏ませているともいえる。そのようななかで、EVの旗振り役ともいえる同社だけが、各店舗に急速充電器を設置して他社メーカー製のEVも含めて利用可能にするなど、積極的にインフラ投資を続けている。しかし、これまでハイブリッド車とFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)に注力していると思われていた自動車業界最大手のトヨタ自動車<7203>が、幅広いラインナップでEVに参入してきた。当然競合とはなるが、それ以上にEVの選択肢が広がることで市場が活性化する効果は大きく、充電装置など投資のハードルが下がって、国内のEVのインフラ構築が早まる可能性が高まった。EVで先駆している同社としては歓迎できる動きと言えよう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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