オンコリス Research Memo(5):新型コロナウイルス感染症治療薬は優先順位を下げて開発を継続する方針
2. 新型コロナウイルス感染症治療薬「OBP-2011」
オンコリスバイオファーマ<4588>は鹿児島大学との共同研究の中で、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対して強い増殖抑制効果を有する低分子化合物を複数特定し、2020年6月に同研究成果に基づいて鹿児島大学が出願中の抗SARS-CoV-2薬の特許譲受に関する契約を締結し、開発に着手した。
2021年3月に複数の候補化合物の中からヌクレオカプシド※阻害剤「OBP-2011」を開発品とすることを決定し、経口剤として無症状から軽症患者を対象とした治療薬の開発を進めてきた。動物実験(ハムスターモデル)の結果によると、「OBP-2011」がウイルス量を減少させる効果を持つことが確認されたものの、投与量が600mg/kg/dayと多量に必要であることが判明し、薬剤を効率的に体内に吸収させるための投与手段の見直し(経鼻投与等)などが課題として浮上した。
※ヌクレオカプシドとは、ウイルスのゲノム(DNAあるいはRNA)とゲノムを包むタンパク質(カプシド)の総称。
また、作用機序の詳細な解明も今後、製薬会社と共同開発を進めていくうえで必要とされており、現在国立感染症研究所の協力を得て解明を進めている。作用機序が解明された場合は、より薬効の高い新たな化合物の探索も可能になると見ている。一方で、新型コロナウイルス治療薬については他社開発品の緊急承認が見送られるなど、承認に向けたハードルが以前よりも高くなると同時に緊急性も薄れてきたと同社では考えており、財務状況なども考えて一旦、優先順位を引き下げて開発を継続していく方針を決定した。当面は鹿児島大学及び国立感染症研究所で研究を進め、作用機序の解明と標的タンパクの特定を目標とし、その後に製薬会社との共同開発を検討していくことになる。
「OBP-601」は将来的にアルツハイマー病治療薬候補に進展する可能性
3. センサブジン「OBP-601」
核酸系逆転写酵素阻害剤「OBP-601」は2020年6月に、トランスポゾン社との間で主に神経変性疾患の治療薬開発に関して、全世界における再許諾権付き独占的ライセンス契約を締結したことを発表した。ライセンス契約の総額は3億米ドル以上(販売ロイヤリティ収入除く)となり、開発・製造・販売のコストはすべてトランスポゾン社が負担する契約となっている。
「OBP-601」は、米ブラウン大学が実施した動物実験の結果により、神経変性疾患に有効であるとのデータが得られたことにより、トランスポゾン社との契約につながっている。具体的には、「OBP-601」がレトロトランスポゾン※の逆転写と複製を抑制する効果があることと、脳内への高い移行性を示すことが確認された。レトロトランスポゾンが複製されると、遺伝子の突然変異が起こりやすくなり、様々な反応により神経細胞を傷つけることで神経変性疾患が発症し、症状が悪化すると考えられている。「OBP-601」がこうした逆転写や複製を抑制することで、症状の悪化スピードを遅らせる効果が期待されている。「OBP-601」はHIV治療薬として開発を進めてきた経緯があるが、HIV患者がアルツハイマー病等の神経変性疾患の発症リスクが低い(=神経変性疾患に有効)という疫学調査があることから、トランスポゾン社では最終的に患者数の多いアルツハイマー病治療薬としての開発も視野に入れていると考えられる。
※ヒトのゲノムの約半分は「動く遺伝子」と呼ばれるトランスポゾンで構成されており、その大部分が「逆転写酵素」によってゲノムのほかの箇所へと転移するレトロトランスポゾンとなり、ヒトゲノムの約8%を占めている。
トランスポゾン社では、神経変性疾患のなかでも未だ治療法が確立されていない希少疾患を対象に開発をスタートしている。具体的には、「進行性核上性麻痺(以下、PSP)※1」を対象とした前期第2相臨床試験を2021年11月より開始したほか、「筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)※2及び前頭側頭型認知症(以下、FTD)※3」を対象とした前期第2相臨床試験を2022年1月より欧米で開始している。予定症例数は40例で安全性と忍容性を確認し、副次評価項目として四肢機能等の測定によるスコア評価を行うなどして有効性を確認する。プラセボを比較対象とした二重盲検試験で中間解析は行わず、最終結果を見て次のステップに進むかどうか判断することになる。PSPの臨床試験については2022年8月17日付で42例の組み入れが行われ患者登録が完了したことを発表している。ALS及びFTDの臨床試験についてはまだ5割以下の進捗だが、年内には登録が完了すると見られる。経過観察期間も含めて治験終了見込みは2023年末となっており、2024年にトップラインデータが判明する見通しとなっている。
※1 進行性核上性麻痺(PSP: Progressive Supranuclear Palsy)は、脳の神経細胞が減少することにより、転びやすくなったり、しゃべりにくくなったりするなどの症状が見られる疾患。発症は40歳以降で、高齢者に多く発症する。
※2 筋萎縮性側索硬化症(ALS: Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、脳の運動を司る神経が何らかの理由で障害を受け、徐々に機能しなくなることで、四肢や呼吸に必要な筋肉が痩せて力がなくなっていく進行性の疾患。
※3 前頭側頭型認知症(FTD:Frontotemporal Degeneration)は、主として初老期に発症し、大脳の前頭葉や側頭葉を中心とする神経細胞の変性・脱落により、人格変化や行動障害、失語症、認知機能障害、運動障害などが緩徐に進行する神経変性疾患。
患者数はPSP、ALSともに日本では1万人前後、世界で約3万~5万人となっており、いずれもオーファンドラッグ指定の対象となる。これら領域の開発に成功すれば次のステップとして世界の患者数が5千万人以上と格段に大きいアルツハイマー病がターゲットになると見られ、今後の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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