グリムス Research Memo(6):小売電気事業を原動力に成長を続ける一方、新たな成長戦略にも着手(1)
2. 事業別の戦略
セグメント別には、エネルギーコストソリューション事業では、中小企業規模事業者など低圧需要家や、オフィスビル・大規模工場などの高圧電力需要家向けに運用・設備・調達改善のトータルソリューションを提供する。
すなわち、運用改善では、電気の使用方法や契約内容を見直すことで、電力基本料金の削減を図る。具体的には、センサーにより電力消費量を可視化して遠隔監視する「IoT機器」や、機械設備の安定稼働と電力コストの削減を可能にする「電子ブレーカー」などを販売する。
また、設備改善では、既存の設備をより省エネ効果の高い設備に変更することで、電力使用料金の削減を図る。具体的には、消費電力を抑え、製品寿命が蛍光灯の約4倍の「LED照明」や、前期より取り扱いを開始し、工場の屋根などに太陽光発電システムを設置して作った電気を利用することで電力コストを削減する「事業用自家消費太陽光発電システム」の他、業務用エアコン、トランス、各種省エネ設備などを販売する。
さらに、調達改善では、電力の調達元を見直すことで、電気そのものを安価に調達することを可能にする。すなわち、複数の小売電気事業者から最適な電力を提案し電力を取次ぐ「電力取次」を行う。このように、電力基本料金削減コンサルティングやLED照明等の省エネ設備の販売により新規顧客を開拓し、顧客基盤を拡大することにより、リプレイス販売や電力取次手数料、電子ブレーカーのレンタル収入といったストック収益の拡大、業務用エアコンやトランス、コンプレッサーなどの各種省エネ設備のクロスセルにつなげている。
エネルギーコストソリューション事業については、電力コスト削減に対する底堅い需要があることから、引き続き各種省エネ設備の販売を推進するとともに、事業用自家消費太陽光発電システムの販売を拡大する。2021年3月期第4四半期において、小売電気事業の損失をカバーするため受注から売上計上までのリードタイムを一時的に短縮したが、2022年3月期計画においては通常のリードタイムを前提とした保守的な見通しとしている。すなわち、運用・設備・調達改善の全ての商材で減収減益を予想している。
以上から、2022年3月期の売上高4,565百万円(前期比16.6%減)、売上総利益3,129百万円(同12.8%減)、営業利益1,817百万円(同13.4%減)を予想する。コスト削減商品に対するニーズは景気動向にかかわらず大きく、顧客と個別にアポイントをとり訪問する営業形態ということもあり、同事業におけるコロナ禍の影響は軽微にとどまっている。実際、第2四半期累計では、売上高2,597百万円(前年同期比10.9%増)、売上総利益1,779百万円(同19.5%増)、営業利益1,150百万円(同45.3%増)と、計画を上回るペースで順調に推移している。
小売電気事業は、同社が卸電力取引所や一般電気事業者から調達した電気を割安な価格で顧客に販売し、顧客から受け取る電気料金が収益源となる事業である。同事業では、エネルギーコストソリューション事業で構築した負荷率(最大契約電力に対する平均使用電力の比率)の低い低圧電力需要家の顧客基盤を活用して、割安な電気の販売を推進することで収益(ストック収益)を拡大し、今後のグループ全体の成長の原動力とする計画である。
同社グループでは、電力コスト削減のコンサルティングにより、実際に電力コストの削減を体感している顧客を対象とするため非常に成約率が高い。また、負荷率が低い事業者を対象とすることで、他の小売電気事業者に対し収益性の面で差別化を図っている。さらに、低圧から高圧まですべての電力需要家に対して電力小売を拡大することで、収益機会の拡大を計画している。
小売電気事業では、電子ブレーカーを中心とした2021年3月期の顧客基盤およそ52,000件へのクロスセルを行っており、これが他社との差別化につながっている。工場などでは機械で使う電力と電灯では電圧が異なるため、顧客数の2倍である104,000契約口がターゲットとなる。また、他の電力会社から同社への乗り換え率は78%に達する一方、月平均解約率は0.4%の低水準にとどまっている。また、負荷率が低い需要家が多い(2021年3月期実績は9.5%で、他社の30%~40%に比べて低い)という顧客基盤が、夏場や冬場などの季節要因による電力の市場調達価格高騰時にも採算確保につながり、高い収益性の維持を可能にしている。すなわち、負荷率が低い顧客層では、電力消費量が大きくならず、電力売上のうち基本料金の割合が高いことから、電力市場価格変動の影響は限定的である。
ただ同事業では、2021年3月期第4四半期に、電力市場価格高騰の影響を大きく受けた。すなわち、LNG在庫減少による火力発電の供給減少、寒波の影響による電力需要増を背景に電力需給が逼迫し、2020年12月から2021年1月にかけて、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場において高値買いが誘発され、スポット価格とインバランス価格のスパイラル的な高騰が発生した。スポット市場において売り入札の減少により売り切れの状態が継続的に発生し、約定できないコマが多数発生したことで、インバランス料金(計画と実績の同時同量が達成できずに電力の供給過不足が生じた場合に、調整の対価として支払う料金。買えない発電量が発生した場合に、ペナルティ的な意味で、通常より高額な電気料金を設定)の精算が約20億円発生し、小売電気事業の売上原価が大きく増加したことで、小売電気事業は赤字を計上した。その後、各種情報開示やインバランス料金の上限設定などの対応策がとられるようになったことで、今後は前期のような電力市場価格高騰は避けられると見られる。さらに、同社グループでは固定価格である相対電源(電力取引所を介さない、発電事業者との直接取引)の比率を引き上げ、価格変動リスクを負う割合を2021年3月期の6~7割から3割まで引き下げることで、電力調達価格の変動に対応する方針である。
同事業では、2022年3月期は契約口数53,498口(前期比26.8%増)、売上高10,844百万円(同17.2%増)、売上総利益2,028百万円(前期は196百万円の損失)、営業利益1,485百万円(前期は486百万円の損失)を計画する。ただ、第2四半期末では、契約口数は47,118口と計画を上回るペースで増加しており、第2四半期累計では売上高5,633百万円(前年同期比33.2%増)、売上総利益1,109百万円(同6.2%減)、営業利益860百万円(同13.8%減)と、増収減益ながら売上高・利益ともに計画を上回って推移している。
スマートハウスプロジェクト事業では、住宅用太陽光発電システムと蓄電池のセット販売や蓄電池の単体販売を推進するとともに、各種取引先を通じた業務提携によるエネルギー関連商品の提携販売を推進していく。同社では、催事販売・提携販売の活用を推進し、蓄電池の販売を強化する計画だ。
太陽光発電をめぐる市場環境としては、固定価格(余剰電力)買取制度(FIT制度)等の適用期間の終了に伴い(卒FIT案件)、家庭用蓄電システム導入の動きが加速する見通しだ。すなわち、FITの期間満了により、ユーザーは太陽光発電により発電した電力をこれまでのような高い価格で売電できなくなり、自家消費のメリットが高まることから、蓄電池の需要が増加する見通しだ。そして、ユーザーは自らの電力需要の形態に応じて自家消費と売電の最適な組み合わせを行うことで、最大のメリットを享受できることになる。同社では、蓄電池販売を拡大するとともに、今後はユーザーからの余剰電力の買取という新たなビジネスチャンスに結び付けたい考えだ。
経済産業省によれば、家庭用(新築住宅及び既築住宅)向け蓄電システム導入台数は、2019年実績の年間11万台規模から、2020年には13万台(累計約49万台)、2025年には27万台(累計約158万台)、2030年には35万台(累計約314万台)規模に拡大する見通しである。また、太陽光発電に占める蓄電システム導入量(ともに累計)の割合は、2025年で44%、2030年で77%程度になると見込んでいる。
同社では、2022年3月期には、再生可能エネルギーに対する需要、卒FIT案件の増加に伴い、引き続き蓄電池の販売を推進する計画だ。エネルギーコストソリューション事業と同様に、同事業でも2021年3月期第4四半期には売上計上までのリードタイムを一時的に短縮したが、2022年3月期計画においては通常のリードタイムを前提とした保守的な見通しとしている。
スマートハウスプロジェクト事業の2022年3月期業績予想では、蓄電池と太陽光発電システムが引き続き堅調であり、売上高4,615百万円(前期比0.7%増)、売上総利益1,891百万円(同2.6%減)と概ね横ばいを予想するが、営業利益は550百万円(同26.2%減)と大幅減益を見込んでいる。ただ、第2四半期累計決算では、売上高2,172百万円(前年同期比24.3%増)、売上総利益912百万円(同25.8%増)、営業利益264百万円(同56.7%増)で推移している。第2四半期累計決算では蓄電池が好調で、売上高、売上総利益は概ね計画どおりながら、営業利益については計画を大きく上回って推移している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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