窪田製薬HD Research Memo(6):NASA向けは新たなプロジェクトの交渉を進める
5. 宇宙飛行士向け超小型眼科診断装置「SS-OCT」
宇宙飛行で発症する眼疾患に関する研究を行うための超小型眼科診断装置「Swept Source-OCT(以下、SS-OCT)」の開発プロジェクトを、NASAと開発受託契約を締結して2019年より開始している。同プロジェクトは、長期的な宇宙飛行を経験した宇宙飛行士の約69%が、視力障害や失明の恐れがある神経眼症候群を患っているという研究報告※をもとに、宇宙飛行が眼領域に与える影響を研究することが目的となっている。現在、国際宇宙ステーション(International Space Station、以下、ISS)で使用されている市販のOCTは据え置き型で操作が複雑であり、数ヶ月間の宇宙ステーション滞在中に宇宙飛行士は3回しか検査できていなかった。今回、開発する超小型SS-OCTは携帯可能で、1人でも手軽に測定することができるため、毎日測定して保存することも可能で、宇宙飛行が眼疾患に与える影響をより詳細に分析するデバイスとして期待されている。
※かすみ目や視神経乳頭浮腫、眼球後部平坦症、綿花状白斑等の眼疾患症状が報告されている。
開発フェーズは全体で3ステップに分かれており、第1フェーズのミッションは、耐久性と安価な光源であるレーザーを使用した概念実証(POC)の確認で、複数のレーザーを用いて視神経乳頭の形状を高解像度で測定する装置を開発することであった。2020年1月にNASAでデモンストレーションを行ったが、NASAのプロジェクト担当者からも高い評価を受けている※。2020年2月に第1フェーズの開発を終了し、同年4月に開発報告書をNASA及びTRISHに提出、開発受託収入37百万円を2020年12月期に事業収益として計上した。
※NASA担当者から、次のようなコメントが寄せられている。「小型でありながら操作が簡単で、データ処理が早い。宇宙飛行中の眼球への影響を研究するために、ISSで大いに役立つと信じている」「フェーズ1の使用条件を満たしているだけでなく、期待以上の完成度であった。外見も洗練され、軽くて持ちやすい。フェーズ2での仕上がりが楽しみである」
第2フェーズは、同装置を用いてどのような画像解析手法で宇宙飛行に起因する眼疾患の検証を行うか、運用上で必要となる要件定義を固める工程となる。最終の第3フェーズでは、実際に宇宙飛行環境において使用可能な装置の開発を行うことになる。宇宙放射線被ばくに対する耐久性を持ち、無重力環境下で宇宙飛行士自身が操作できるハードウェアの開発を提携企業と共同で進めていくことになる。ただ、その後に米国の政権が交代したことやコロナ禍への対策費用に国家予算が振り向けられていることから、第2フェーズの開始時期については未定となっており、同社も予算が付き次第プロジェクトを再開する予定にしている。
一方で、新たなプロジェクトの交渉も進めているもようだ。長期宇宙滞在に起因する眼疾患の一つとして遠視があり、「クボタメガネ」の技術を応用することで遠視の原因分析や改善等の研究を進めていくことを想定している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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