富士ソフト Research Memo(6):積極投資と働き方改革は順調に進展、先行投資下でも生産性は着実に向上へ(1)
1. 2020年12月期はコロナ禍のもとでも増収増益+増配を見込む
2020年2月に公表された富士ソフト<9749>による2020年12月期の業績予想は、売上高が前期比3.0%増の238,000百万円、営業利益が同2.5%増の13,600百万円、経常利益が同0.7%増の13,850百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.1%増の8,000百万円である。同社は2015年12月期以降、3%程度の増収見通しと前期実績並みの営業利益率を前提とした期初会社計画を掲げており、2020年12月期も同様のパターンだと考える。
通期計画に対する上期実績の進捗率を見ると、売上高が51.5%、営業利益が62.1%、経常利益が62.6%、親会社株主に帰属する当期純利益が48.4%となり、営業利益と経常利益の順調な進捗振りが目立つ。ちなみに、各指標揃って通期超過達成を実現した過去4期における進捗率の平均値は、売上高が53.4%、営業利益が51.0%、経常利益が51.4%、親会社株主に帰属する当期純利益が51.1%であった。2020年12月期上期は親会社株主に帰属する当期純利益が低進捗となっているが、キャッシュアウトを伴わない投資有価証券評価損や特殊要因とも言える感染症対策費の計上によるものであることを勘案すれば特段ネガティブ視する必要はない。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響は、上期のフロー業績ではさほど表面化していないものの、第2四半期におけるシステム構築区分の受注高急減速が示すとおり、同領域の先行き不透明観は拭いきれない。しかしながら、同社はこれまで積極的に取り組んできたリモートワークを含む働き方改革により現場での大きな混乱は生じておらず、ITインフラ系やEC分野等で顕在化するウィズコロナに対応した需要増を順調に取り込むことに成功している。こうした結果、2020年12月期上期末の受注残高は、システム構築セグメントの低迷(前年同期末比1.5%減)を狭義のプロダクト・サービス区分の大幅増(同50.4%増)が補い、全社ベースでは同11.2%増を確保している。
配当予想は、2019年12月期の年間42円/株(第2四半期末に20円/株、期末に22円/株)から9円/株増配の年間51円/株(第2四半期末に創立50周年記念配当5円/株を含む28円/株、期末に23円/株)としている。実現すれば5年連続の増配となるわけだが、今回の配当方針を細かく見ると、記念配当を除いても2019年12月期まで過去5年において前期末配当の2倍を次期の通期配当予想としていた慣例を超えた増配予想と言えるだろう。「安定的・継続的な配当の実現を利益還元の基本方針とし、戦略的な成長投資や急激な経済環境の変化、不慮の事業リスクへの対応などを総合的に勘案して実施する」を掲げる同社だが、2019年の期中増配発表に続く慣例を超えた増配予想からは、期末偏重型の増配を避けながら配当政策の自由度を高めようとする意思が感じ取れる。また同社は、通期業績の上振れを受けて過去4期連続で期末配当を期初予想から引き上げており、コロナ禍においてどのような対応が成されるかに注目したい。
2. 先行投資と働き方改革に注力することで、生産性は向上方向にある
同社は、新卒の大量採用を軸とする人材投資に注力する一方で、「ゆとりとやりがい」の実現に向けて、多様なライフスタイルに合わせた働き方改革・支援を真剣に実践している。
具体的には、1990年に導入したコアタイムなしのフレックスであるスーパーフレックス制度を一段と進化させた「ウルトラフレックス制度(スーパーフレックス制度+時間帯を固定することなく30分単位で有給休暇や10分単位のリフレッシュタイムが取得可能)」のもとで、遠隔地勤務の環境整備や全社員を対象とした在宅勤務制度の本格運用に取り組んでいる。こうした結果、2018年度(集計期間は4月−3月)には、1)有給休暇取得率:72.9%(民間平均51.1%、政府目標は2020年に70%)、2)在宅勤務利用者:延べ5,930名、3)育児休業取得者:165名、4)月間残業80時間超過者:0名を達成、2019年度についても在宅勤務利用者が延べ9,614名に上るなど、一段と良好な実績を残している。こうした優れた実績が評価され、外部機関からも、次世代育成支援対策推進法に基づく「プラチナくるみん」認定(厚生労働省)、女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定(厚生労働省)の最高位を始めとして、テレワーク先駆者百選(総務省)、健康経営優良法人(経済産業省)、神奈川子ども・子育て支援推進事業者(神奈川県)といった認定を獲得している。
加えて、同社のピンチをチャンスに変えようとする経営姿勢を勘案すると、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて働き方改革を一段と推し進める公算が大きいと考える。労働集約型とされるITサービスでありながら、働き方改革による生産性向上を実現しつつある同社の更なる一手に注目したい。
働き方改革の推進は、既存社員の稼働時間短縮や新卒の大量採用が人的戦力の希薄化や先行コストの増加に直結するため、短期的には1人当たり営業利益(営業利益/期首期末平均従業員数)等の生産性指標にとっては抑制要因となるケースが多い。同社の場合、働き方改革の成果を出しながら新卒の大量採用を開始した2015年12月期以降、直後の2年間は1人当たり営業利益が減少しているものの、2017年12月期から増加に転じ2019年12月期には91万円強(2016年12月期比24.6%増)にまで向上している。
より詳しく見ると、単純計算による新卒含有率(単体+上場子会社新卒採用者数/前期末連結従業員数)は、2014年12月期の1.5%から2018年12月期の7.2%まで年を追って上昇、その後も6%台で高止まりしている。加えて、2019年度(2019年4月−2020年3月)の月平均所定外残業時間は23時間26分と2014年度の30時間49分から大幅に減少、有給休暇取得率も2017年度以降3年連続で70%超の高水準を維持している。こうしたなかで1人当たり人件費(連結人件費/期首期末連結従業員数)の上昇(2014年12月期:598万円→2019年12月期:609万円)を伴った労働生産性の向上(1人当たり営業利益、2014年12月期:78万円弱→2019年12月期:91万円強)を実現していることは、ICT利活用の実践や勤務形態・労働環境の継続見直しを通じて、業務の仕組みと社員の「ゆとりとやりがい」の向上に真剣に取り組んできた結果と見られ、高く評価して良いだろう。
今後は、残業削減や有給休暇取得増加の余地が縮小し、リモートワークの効率アップ、新卒含有率のピークアウトが見込まれるため、時間当たりの生産性向上による業績押し上げ効果が顕在化しやすくなる。長期的には一段の収益性向上を目指すとしている、同社の今後に期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)
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