アエリア Research Memo(6):新たな市場・技術でポジション確立へ
1. 企業理念と経営ステージ
アエリア<3758>は創業以来、「ネットワーク社会における、空気のように必要不可欠な存在に。」という企業理念を掲げ、「成長の早い領域へ積極的な事業展開」を行うことで、世の中で必要不可欠な存在であり続けることを追求してきた。そして、スマートフォンゲームの開発を中心に、ブロックチェーンやAI、VR/ARなど新たな技術によるネットワーク社会の発展と、成長する訪日外国人旅行客向け宿泊需要という新規領域を両にらみしながら、中長期的に事業を展開している。そのための、安定収益を生み出す事業資産の獲得→成長マーケットへの積極投資→成長マーケットにおける基盤強化→新たな市場・技術におけるポジションの確立という同社のビジネスサイクルにおいて、現在、選択と集中による基盤強化のステージから新たな市場・技術におけるポジションの確立というステージへシフトしつつあるように思われる。
グループ内の事業資産を生かす
2. M&Aの戦略と事業再編
同社のM&Aの戦略目的は、経営人材・チームの獲得と彼らのモチベ—ション向上、及びシナジーを創出できる事業資産の獲得の2つである。近年、ITサービス事業で安定収益を考えてファーストペンギン、コンテンツ事業でスマートフォンゲームという成長マーケットに向けてリベル・エンタテインメントなど数社をM&Aしてきた。浮沈が宿命と言われるコンテンツ事業をカバーするため、M&Aによりアセットマネージメント事業も立ち上げた。そうしたなか、生みの苦しみはあったが「A3!」が大ヒット、「イケメンシリーズ」も手中に収めたことで、ゲームとIPなどゲーム周辺ビジネスが当面の成長ドライバーとなる自信を深めたもようだ。これを契機に同社は、IPビジネスを強化し、また、新たな市場や技術を取り込むため、選択と集中により広げた戦線を集約することになり、2018年12月期第2四半期以降、のれん減損、経営統合、事業売却などによって事業の再編を開始した。特にすそ野が広がったコンテンツ事業に関しては、丁寧な作り込みにシフトするとともにシナジーを生かした効率的なビジネスモデル構築を目指し、中間持株会社の(株)アエリアコンテンツ・ホールディングス(ACH)を設立した。さらに、IPやIT技術、不動産などグループ内の事業資産を生かすため、アライアンスやシナジー創出を促進する(株)アエリアワンを設立した。
新しい技術と成長する市場を取り込む
3. コンテンツ事業の方向性
事業再編後、コンテンツ事業がゲームだけでなくゲーム周辺へと大きく広がり始めた同社は、AIやVR/AR、5Gなど新たな市場・技術の取込みを改めて加速している。こうした技術とゲーム周辺ビジネスの相性はよく、既に個別具体的なビジネスとなって展開が始まっているものもある。
(1) コンテンツ事業の広がり
「A3!」のヒット、「イケメンシリーズ」の獲得により、同社のコンテンツ事業のビジネスのあり方が大きく変わった。課金ビジネスとしてのゲームの魅力は大きいが、それ以上にキャラクターによるIPビジネスは魅力的である。ゲームとしての収益に加え、グッズやCDの販売、2.5次元舞台など収益の拡張性が高いからである。さらに、ゲーム以上にキャラクターのライフサイクルは長く、ユーザーのロイヤリティも高い。プラットフォームが変わってもIPはゲームほどに影響を受けないと言われている。スマートフォンの普及でメディアの使われ方が変わってきたこともあって、今やゲーム発のキャラクターへの関心が高まり、従来あまり見られなかったゲームからのアニメ化も増えている。こうしたことを背景に、同社のゲーム開発方針も、従来の課金狙いの大量生産から、IPビジネスを意識した丁寧な作り込みへと変わってきている。
(2) 更なる広がりを見せるコンテンツ事業
同社は2019年4月にセレブレイトメッセージを設立、9月には、世界のセレブ、有名人、アーティスト、アスリート、文化人など多くのファンを有するキャスト(動画メッセージ提供者)に対し、誰でも・自由に・簡単に、誕生日や結婚式といった祝い事などへのパーソナルメッセージをオファーできるサービスを開始した。現在キャストは、サッカー日本代表の長友佑都選手、プロレスの長州力と前田日明、ブレイク中のモデルでタレントのゆきぽよ(木村有希)、アメリカのモデル兼歌手のセリーヌ・ファラッチなど、総フォロワー数が累計7,000万人を超えるキャストが参加している。キャストによる限定企画やシークレットVVIPキャストなどの企画もある。また、デジタル音声アシスタント市場は、アマゾンエコーやグーグルホームといったスマートスピーカーなど現在25億台と言われる利用数が、今後5年で3倍超に拡大するという予測もある。こうした市場において、サイバードがVoiceUI事業を立ち上げた。サイバードは日本のVoiceUI市場のパイオニアとして知られ、既に22本のデジタル音声サービスを様々なプラットフォームへ向けて提供している。今後、「イケメンシリーズ」など自社IPや有力な他社IPを活用し、来るボイスコンピューティング時代を見据え、ボイステック企業として魅力的な音声体験をデザインしていく考えである。
(3) 5Gを見据えた新規領域への展開も加速
特にコンテンツ事業において、今後も新たな市場・技術の取込みを活発化する方針である。海外展開に関しては、既にサイバードが「イケメンシリーズ」で先駆しており、そうしたノウハウをグループ内で横展開する計画である。また、「A3!」は、米国での配信を開始し、中国では2019年11月に配信予定である。ただし、海外では「イケメンシリーズ」のようなシナリオ系ゲームの受けはよいが、「A3!」のような育成系は未知数であり、やや時間がかかるかもしれない。また、サイバードは急成長中のVtuber市場において、「I’m Sora Project」を開始した。人気イラストレーターが手掛けた日本語と英語の男性バイリンガルYouTuberが、女性向けコンテンツの楽しさやオタクニュース、サブカルチャーなど流行の情報を世界へ向けて発信する。バイリンガルの特性を生かして、日本語や英語を教えるコーナーや楽曲配信のコーナーも展開する予定である。こうした取り組みは、大容量・高速となる第5世代移動通信システム(5G)への転換を前提に計画されている。5Gを契機にゲームのみならずIP自体がより高度化・複雑化し、周辺ビジネスが細分化されてさらに拡張していく、という経営の読みが働いていると考えられる。ゲーム開発は丁寧な作り込みのため当面のリリースはそう多くないと思われるが、その分周辺ビジネスの展開に注力していくのだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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