3Dマトリック Research Memo(8):国内で止血材と粘膜隆起材の製造販売承認申請を2020年4月期に行う
2. 主要パイプラインの開発動向
(1) 止血材「PuraStat®」
「PuraStat®」については、日本で消化器内視鏡領域における漏出性出血を適用対象とした臨床試験を2017年8月より開始、2019年4月期までに臨床試験の最終組入れが完了する見込みであったが、被験対象者(漏出性出血を伴う症例)が出なかったことで、スケジュールがややずれ込む格好となった。現時点では2020年4月期第1四半期末(2019年7月末)までに最終組入れを完了し、第2四半期中に製造販売承認申請することを目標としている。ただし、被験対象者が出なかった場合には、スケジュールが再度ズレ込む可能性もある。新医療機器の標準的な審査期間(承認申請~承認取得)は中央値で7.6ヶ月(最短5.6ヶ月~最長11.9ヶ月)となっており、順調に進めば2021年4月期の中頃には承認を取得し、販売提携先である扶桑薬品工業からのマイルストーン収入、及び初回製品売上を計上できる見通しとなっている。また、ほかの2領域のうち心臓血管外科領域については、PMDAと治験プロトコルに関しての協議を既に開始しており、消化器内視鏡領域の進捗を見て臨床試験を開始する予定となっている。
一方、米国では癒着防止材の販売拡大を最優先に取り組むことから、止血材の臨床試験開始時期については従来よりも1年先送りし、2021年4月期中の開始を目標としている。
(2) 粘膜隆起材
粘膜隆起材は2014年12月より国内で臨床試験を開始したものの、有効性をより明確にできる試験方法や製剤の検討を行うために、2015年2月に自主的に臨床試験を一時中断した経緯がある。今回、こうした課題を解消する製剤の改良※に目途が立ったほか、PMDAとの協議により性能と安全性が既承認品(ヒアルロン酸医療機器)と同等であることを非臨床試験で検証することができれば、「改良医療機器(臨床試験なし)」での申請が妥当であるとの見解を得たことから、改良医療機器として承認申請を行う方針を明らかにした。
※前回の臨床試験では粘膜隆起材を注入して隆起部を切除した際に、切除部が白濁して見えにくくなるケースがあったが、自己組織化ペプチドを改良することで透明度を大幅に向上させることに成功した。
具体的な開発スケジュールとしては、2019年7月よりGMP※準拠製品の製造を開始し、非臨床試験により性能と安全性に関するデータを収集、2020年4月期末頃の承認申請を目標としている。改良医療機器の審査期間は平均で5.8ヶ月(最短4.9ヶ月~最長7.3ヶ月)となっているため、順調に進めば2021年4月期の中頃に承認を取得し、販売提携先である扶桑薬品工業からマイルストーン収入、及び初回製品売上を計上できる見通しとなっている。
※GMP(Good Manufacturing Practice)とは、製造販売を行うために必要となる製造管理及び品質管理基準のことで、医薬品や医療機器等を販売するための要件となる。
同社の粘膜隆起材は既承認品と比較して、注入後の隆起能(高さや保持期間)が優れているほか、止血効果があることが長所となる。価格面でも同等程度での販売を予定していることから、上市されればシェアを拡大していく可能性が高いと弊社では見ている。また、消化器内視鏡手術領域において止血材、後出血予防材、粘膜隆起材と3つの製品がそろうことによるクロスセル効果も将来的に期待される。欧州では資金面から粘膜隆起材に関する開発の優先順位が下がっていたものの、今回、FUJIFILMと止血材の独占販売契約を締結したことで、状況次第では共同開発で上市を目指す可能性も出てきたと弊社では考えている。
(3) 次世代止血材
欧州で進めている次世代止血材の開発については、臨床試験用製品を用いて動物による最終の有効性実験が終了し、現在はデータの取りまとめを行っている段階にある。臨床試験の開始時期に関しては、その他パイプラインの開発状況や財務状況なども考慮しながら検討していく方針だが、順番としては国内の粘膜隆起材、米国での止血材の次となる可能性が高いと弊社では見ている。なお、FUJIFILMとの独占販売権契約の中に、次世代止血材は含まれていない。
(4) 創傷治癒材「PuraDerm」
米国で2015年2月に510(k)による販売承認を取得している創傷治癒材「PuraDerm」に関しては、美容整形外科分野のKOLとなる医師による臨床研究が開始されている。「PuraDerm」は低侵襲な止血が可能なほか、適度な湿潤環境の保持、炎症による組織損傷の抑制、後出血予防、治癒促進(皮膚再生)といった長所を持つ。臨床研究の評価が良ければ米国での販売開始も視野に入ってくるが、当面は癒着防止材の販売拡大を最優先に取り組むことから、状況を見ながら販売戦略を検討していくことになりそうだ。
(5) 歯槽骨再建材
歯槽骨再建材の開発状況については、前回レポートから特段の変化はない。米ハーバード大学附属病院において実施している2nd Pilot Studyにおいて、2017年4月までに全12症例に対して投与を完了し、全症例で歯槽骨が再建され、インプラントを埋植後の長期観察期間においてもインプラントが安定であることが確認されている。また、対象部位における新生骨の割合も、脱灰凍結乾燥骨を充填した場合と比較して約2倍の水準に達するなど、機能面でも優れたデータが確認されている。現在はハーバード大学附属病院にて最終レポートをまとめている段階で、今後の開発方針については他の開発パイプラインや財務状況なども勘案して決めていくことになる。
(6) DDS材料
同社の「A6K」をDDS材料とした核酸医薬の研究開発プロジェクトが複数進んでいる。このうち、国立がん研究センター中央病院においてトリプルネガティブ乳がんを対象に実施されたsiRNA核酸医薬の医師主導による臨床第1相試験はプロジェクト期間内に目標症例数に達しなかったものの、臨床でのPOC※を取得したことを明らかにしており、現在は実施施設を拡大した臨床第1相試験の継続に向けて、複数の医療施設と協議を進めている段階にある。
※Proof of Conceptの略で、研究開発中の新薬候補物質の有用性・効果が、動物もしくはヒトに投与することによって認められること。
また、アカデミアとの共同プロジェクトとして、広島大学医歯薬保険学研究科と悪性胸膜中皮腫※を対象とした新規マイクロRNA核酸医薬の非臨床試験が進んでいる。同プロジェクトは日本医療研究開発機構(AMED)による「橋渡し研究戦略的推進プログラム」(2017-2019年度)に採択されたもので、動物でのPOC取得を目指しており、目標が達成されればヒトでの臨床試験が計画されている。
※肺を覆う胸膜の表面に発生する腫瘍で、アスベスト(石綿)が発症原因の多くを占めている。現在の治療法は手術と抗がん剤の併用だが再発も多く、診断5年後の死亡率は90%を超える難治性がんと位置付けられている。年間発症者数は840名程度、年間死亡者数は2015年で1,500名超、今後2035年をピークに2〜3倍の発症が予測されている。
そのほかにもDDSとしての応用開発として、2018年11月に岡山大学中性子医療研究センターとがん治療法の1つであるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)※における効果的なホウ素薬剤「OKD-001(BSH+A6K)」の開発を目的とした共同研究契約を締結している。
※ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy)…中性子とホウ素原子(10B)が衝突することで大きなエネルギーを生み出す「アルファ崩壊反応」を活用したがん治療法。あらかじめホウ素薬剤を用いてがん細胞にホウ素原子を取り込ませた後、中性子を照射することで、がん細胞のみにアルファ崩壊反応を起こして破壊する。中性子自体のエネルギーは小さく、正常な細胞へのダメージが少ないため、副作用の少ない「切らずに治す」がん治療法として注目されている。主な適応がん種は頭頸部がん、メラノーマ、悪性脳腫瘍等となる。
BNCTは1960年代から臨床試験が行われてきた治療法だが、現在までに臨床で使用されたホウ素薬剤は全世界で2種類(BSHとBPA)にとどまり、そのうち、現在最も治験で使われているBPAについては、がん細胞を殺す粒子放射線効率が低く、1施術当たり大量の点滴投与が必要で、腎障害を引き起すリスクが指摘されていた。一方、BSHについては、がん細胞への取り込みが難しいという課題があったが、今回、同社のDDS材料である「A6K」とBSHを組み合わせて開発した「OKD-001」でこうした課題がクリアされ、がん細胞内にホウ素薬剤を効率よく集積させることを可能とした。また、同製剤は粒子放射線効率が高いため、1施術当たりの点滴投与量が少なくて済み、腎障害発生のリスクも低くなることから、将来的にBNCT用ホウ素薬剤の世界標準となる可能性もあり、今後の開発動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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