メディシノバ Research Memo(4):イブジラストは進行性多発硬化症でライセンス契約交渉中(2)
(3) 化学療法誘発性末梢神経障害
新たに、大腸がんや胃がんなどの消化器系がんの化学療法として使用される抗がん剤オキサリプラチンを投与される患者で多く見られる副作用の1つである、末梢神経障害を適応対象としたP2治験(被験者数20名)がオーストラリアのシドニー大学コンコルド癌センターにて2018年3月より開始されている。同治験は医師共同研究で、コンコルド癌センターから治験研究費がサポートされている。既に14名が登録しており、早ければ2019年内に終了する可能性もある。治療期間は3ヶ月で、評価項目は末梢神経障害の予防効果があるかどうか、抗がん剤と一緒に使った場合の薬剤の相互作用、末梢神経障害の症状がイブジラストの服用によって緩和されるかどうか、の3点となる。
化学療法誘発性末梢神経障害の発症については、グリア細胞の活性化が関与していると考えられており、有病率は化学療法後の最初の1ヶ月で68%、3ヶ月で60%、6ヶ月以上で30%とされている。その痛みから患者は投薬量を減らしたり、中断したりするケースもあると言う。未だ有効な治療法が確立されておらず、活性グリア細胞抑制効果を持つイブジラストによる治療効果が期待されている。
(4) グリオブラストーマ(神経膠芽腫)
グリオブラストーマは脳腫瘍の中でも最も悪性度の高い腫瘍と言われている。脳内に腫瘍が浸潤的かつ急速に増殖するため、手術による完全摘出が困難なためである。現在、標準治療法は手術で可能な限り腫瘍を摘出した後に、放射線治療や抗がん剤(テモゾロミド)による化学療法を行うというものだが、診断後3年以上生存率は5%、平均余命は診断から14.6ヶ月と極めて短い。米国では毎年、約1.3万人が新たに発症すると見られている。
同社では、イブジラストがグリオブラストーマの症状進行を抑制する可能性があると見て、2019年1月よりハーバード大学にあるダナ・ファーバー癌センターにて再発性グリオブラストーマの患者を対象にP1/2治験を開始している。P1では投与量を徐々に上げながら、テモゾロミドと同時に使った際の安全性・耐容性を見ると同時に、薬物の相互作用なども確認し、最適な投薬容量を決定する(被験者15〜18名)。P2ではデモゾロミドとの併用療法における腫瘍の無増悪期間(腫瘍が悪化しない状態)や生命予後にどのような効果があるかを見ていく(被験者32名)。
動物実験ではテモゾロミド単独投与と比較して、イブジラストを併用投与したマウスの生存期間が顕著に延長したことが確認されている。患者数は少ないものの、症状の進行が早く診断後の平均余命は極めて短いことから、延命効果のある治療薬の開発が強く望まれており、今後の開発動向が注目される。なお、2018年10月にFDAよりオーファンドラッグ指定を受けている。
(5) 薬物・アルコール依存症
薬物・アルコール依存症の治験は現在、3つ進められている。1つ目は、覚せい剤依存症の患者を対象としたP2のバイオマーカー治験となり、2019年2月からオレゴン保健科学大学とポートランド在郷軍人病院で開始されている。リハビリ施設に入院中で、現在は覚せい剤から離脱している患者を対象にしている。米国の退役軍人省から助成金が拠出されていることもあり、PTSDで薬物依存症になった退役軍人が主な患者になっている。評価項目は、PETスキャン及びfMRI装置(機能的磁気共鳴イメージング装置)を用いてグリア細胞の活性度合いと神経炎症の状態を、イブラジスト投与前と投与後で比較する。治療期間は6週間で被験者数は65名としている。
薬物依存症患者は体内の薬物が減少すると「離脱症状」が生じ、再度薬物を使用する循環に入ることが知られている。「離脱症状」が生じる原因として、脳内のグリア細胞の1つであるアストロサイトの異常活性が関与していることが判明しており、グリア細胞の働きを抑制する効果があるイブジラストを服用すれば「離脱症状」が抑制され、薬物の再使用率を低減させる効果があると同社では考えている。覚せい剤依存症向け治療薬で承認されている医薬品はまだなく、イブジラストは同疾患でもファストトラック指定を受けている。米国でのメタンフェタミン使用者数は約44万人に上り、経済損失は年間で約234億ドルに達すると言われているだけに、今後の動向が注目される。
また、アルコール依存症の患者を対象としたP2治験がUCLAで2つ進んでいる。いずれも国立アルコール濫用・依存症研究所(NIAAA)から助成金が拠出されている。1つ目は、治療を受けていない中等度から重度のアルコール摂取障害の患者(外来治療)を対象としたもので、治療期間14日間、被験者数は50名の小規模治験となる。評価項目は、禁酒による禁断症状の基礎レベルの変化、禁断症状を鈍化させる効果、アルコール離脱症状として不安症状を持つ患者に対する効果などを評価していく治験となる。
2つ目の治験は、治療を受けていない中等度から重度のアルコール摂取障害の患者(外来治療)を対象としたもので、治療期間が12週間、被験者数も132名と規模の大きい治験となる。評価項目はアルコール摂取量の変化、不安症状や神経炎症発現の有無などを評価していく治験となる。
米国の2015年調査(薬物乱用・精神衛生管理庁)によれば、アルコール摂取障害患者数は約1,570万人に上り、経済損失は2010年の1年間で2,490億ドル(米国疾病対策予防センター調査)とされているだけに、社会的課題として今後も研究開発は継続していくものと見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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