イグニス Research Memo(4):2018年9月期業績は積極投資と一時的要因により営業損失を計上
1. 2018年9月期決算の概要
イグニス<3689>の2018年9月期の業績は、売上高が前期比12.6%減の4,874百万円、営業損失が2,532百万円(前期は83百万円の利益)、経常損失が2,571百万円(同71百万円の利益)、親会社株主に帰属する当期純利益が2,651百万円(同35百万円の損失)と減収となり、積極投資と一時的なコスト要因が重なったことから大幅な営業損失を計上した。ただ、売上高は計画を上回る着地であり、足元の収益性も一時的なコスト要因を除けば改善に向かっている。
減収となったのは、主にリリースから4年目を迎えた「ぼくとドラゴン」(ネイティブゲーム)によるものである。もっとも、ライフサイクルの成熟期に入ってきたことから、利益重視の運営によりプロモーション費用を抑えていることも影響しており、利益面での貢献は依然として大きい。今後も安定運営を継続する方針である。一方、社会的認知の高まりとともに市場が拡大しているオンライン恋愛・婚活サービス「with」(コミュニティ)は大きく伸長した。特に、2018年7月末よりSMS認証によるマルチログイン機能を実装したことが会員数の拡大に拍車をかけており、売上高の上振れ要因となっている。「その他」については、過去の小規模アプリの減少や「TLUNCH」(モビリティサービス・プラットフォーム)の非連結化※などにより減収となった。
※「TLUNCH」を運営するmellowが第4四半期より連結子会社から持分法適用関連会社に移行したことに伴うもの。
損益面では、減収による収益の押し下げに加えて、「with」を中心とした広告宣伝費のほか、増員に伴う人件費、前期における新作ゲーム「メガスマッシュ」やVR事業の開発・立ち上げに向けた研究開発費など、先行費用の拡大はおおむね想定内とみられるが、そこに一時的なコスト要因(新規事業に関する貸倒引当金の計上)※が重なったことで大幅な営業損失に陥った。ただ、前述のとおり、一時的なコスト要因を除けば、2018年2月に単月黒字化した「with」の伸びに伴って、足元の収益性は大きく改善に向かっている。
※新規事業領域(オンライン診療対応医療機関向けSaaSの開発・提供)にかかる債権(主に営業貸付金)に対して約15億円の貸倒引当金繰入額を計上(販管費に含まれる)。前述のとおり、投資回収期間に不確実性があることが理由であるが、システム自体は順調に稼働中であり2020年9月期の収益貢献を目指している。
財政状態は、事業規模拡大に伴う本社オフィスの増床や投資有価証券の増加等により固定資産が拡大したものの、「現金及び預金」の減少や貸倒引当金の計上に伴う「営業貸付金」の減少等により流動資産が大きく縮小したことから、総資産全体では前期末比24.3%減の4,763百万円に減少した。一方、自己資本も親会社株主に帰属する当期純損失の計上により前期末比44.2%減の2,255百万円と大きく減少したことから、自己資本比率は47.4%(前期末は64.3%)に低下した。
2. 事業別の業績及び活動実績
(1) コミュニティ
「コミュニティ」の売上高は、前期比104.2%増の1,732百万円と2倍を超える規模に成長した。第4四半期(四半期ベース)だけで見ても前四半期比26.8%増の562百万円と成長が加速している。注力するオンライン恋愛・婚活サービス「with」が、外部要因(社会的認知の高まり等に伴う市場の拡大)や内部要因(心理学を生かした最適なマッチング機能による差別化やプロモーションの強化等)により好調に推移。特に、テレビ番組での紹介や映画とのコラボイベント実施などが奏功した上、2018年7月末から開始したSMS認証によるマルチログイン機能が会員数の拡大に拍車をかけたと言える。会員数は120万人、マッチング数も累計1,000万組を突破し、売上ランキングでも上位を維持している。
損益面でも、積極的な広告宣伝費を投入しながらも、売上高の拡大により単月黒字化(2018年2月)を達成すると、積み上げ型収益モデルであるゆえに、黒字幅は売上高に連動して大きく拡大してきたようだ。さらに最近では、広告やプロモーションによる流入だけでなく、口コミなどによる流入も増えており、会員獲得コストを下げる方向に働いていると考えられる。
(2) ネイティブゲーム
「ネイティブゲーム」の売上高は、前期比33.7%減の2,817百万円と減収となった。リリースから4年目を迎え、成熟期に入ってきた「ぼくとドラゴン」への広告宣伝費を抑え、利益重視の運営を行ったことも影響している。ただ、それでも累計ダウンロード数は370万DLを突破し、プロダクト利益は高い水準を維持しており、利益面での貢献は依然として大きい。また、第4四半期(四半期ベース)だけで見ると前四半期比2.0%減の629百万円と僅かな減収にとどまっており、安定運営が継続していると評価することができる。今後も効果的なプロモーション(各種キャンペーン等)により中長期での安定運営を目指す方針である。一方、2018年3月にリリースした新作ゲーム「メガスマッシュ」については、計画を下回る結果となったことから早期終了を決断した。それまでの研究開発費は回収できなかったものの、次の新作ゲーム「でみめん」等に経営資源(人材や予算等)をシフトする格好となった。
(3) その他
「その他」の売上高は、前期比32.7%減の324百万円と減収となった。第4四半期(四半期ベース)だけで見ても前四半期比43.6%減の45百万円と縮小している。過去における小規模アプリの減少やメディア事業の伸び悩みに加え、順調に伸びてきた「TLUNCH」(モビリティサービス・プラットフォーム)を第4四半期から非連結化したことが影響した。また、VR事業においては、「INSPIX」の開発加速とIP創出のプロジェクトに取り組み、VRアイドルグループの初ライブを生配信するなど、今後に向けて具体的な成果を残したものの、収益貢献には至っていない(先行投資段階)。その他のVR事業(順天堂大学との「慢性痛み刺激緩和」の研究)や新規事業(AI技術を活用した工場の検査工程自動化、オンライン診療対応医療機関向けSaaSの開発・提供)についても同様である。なお、前述のとおり、事業の選択と集中からメディア事業の一部「U-NOTE」については、2018年9月30日付で事業譲渡している。
3. 新規事業の進捗
(1) VR 事業
子会社パルスが展開するVR事業については、前述のとおり、Virtual Live Platform「INSPIX」の開発加速とIP創出のプロジェクトに取り組んでいる。その第1弾として業務提携先である岩本町芸能社に所属するVRアイドルユニット「えのぐ」が2018年5月5日にオリジナル曲を初披露(YouTubeで生配信)し、その後、2018年8月10日には「えのぐ」初となる本格ライブを「INSPIX」を活用した「岩本町劇場」(バーチャル劇場)にて開催した。このライブでは、1)岩本町劇場特設会場でのVRライブ体験、2)「秋葉原UDXシアター」でのライブビューイング体験、3)YouTubeでの視聴と、様々なシーンでの生配信を行った。特に、特設会場ではヘッドマウンテッドディスプレイを用いたVRライブが体験でき、今期イグニスが目標として掲げている「自宅から参加できるVRライブ体験の実現」に関して先を見据えた試みと言える。有料チケット(4,000円前後)を販売するとともに、グッズの販売も好調であったようだ。また、技術面ではまだ発展途上にあるものの、生配信にもかかわらず、メンバー5名を同時に動かせるモーショントラッキングシステムに対して、参加者からは高い評価を獲得できたようだ。したがって、具体的なマネタイズの形が見えてきたことを始め、本格的な展開に向けても確かな手応えをつかんだと評価することができるだろう。また、KPIとして設定したファン数(SNS等累計フォロワー数※1も13万人を突破し、2018年11月28日には、ユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たした。ほかにもVRアイドルに限らない複数のプロジェクトが進行中※2であり、IPによる多様なマネタイズ(チケット、グッズ、ファンクラブ、音楽、ゲームなど)の早期実現を目指す。また、「INSPIX」についてもフェーズ3(自宅から参加できるVRライブ体験の実現)に向けて開発を進めている。
※1 Twitter、Instagram、YouTube、ファンクラブ、その他のフォロワー数+登録数(2018年10月末時点)。
※2 「えのぐ」に続く第2弾として、秋元康氏と日本テレビ放送網が共同で行う声優グループをプロデュースする「ボイスタープロジェクト」への参画、第3弾として、パルスとタレントプロモーション等を手掛ける(株)ジャストプロが設立した合弁会社の(株)ミラクルプロから女性キャラクターを起用したプロジェクトを進めている。これら以外でもAIアイドルプロジェクト「VAI」等、複数のプロジェクトを準備中。
(2) その他
a) IoT 関連
持分法適用関連会社ロビットが展開するスマートフォン連動型カーテン自動開閉機「めざましカーテンmornin’」は着実に販売実績を上げており、累計販売個数は40,000個を突破。「2018年度グッドデザイン賞」(公益財団法人日本デザイン振興会主催)を2年連続で受賞した。現状、収益貢献には至っていないものの、技術や販売ノウハウの蓄積を含め、今後の事業展開に向けて様々な可能性を探っている段階と言える。
b) フード関連
また、持分法適用関連会社Mellowが展開する「TLUNCH」についても、利便性の高さや需要の大きさ等を背景として足元で急激に拡大しており、出店スペースは80(前期末比149%増)を超え、流通総額でも8億円を突破(前期比230%増)した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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