エレマテック Research Memo(5):2年後の最高益更新を目指し、中長期戦略『elematec ×』に取り組む
1. 中長期戦略『elematec ×(エレマテック クロス)』の概要
エレマテック<2715>は期間固定式の中期経営計画は策定していないが、中長期戦略に関する取り組みについての基本方針を策定し、それに基づいて経営を進めている。2018年3月期からはスローガンを『elematec ×(エレマテック クロス)』に改めた。これは従来のスローガンである『elematec +(エレマテック プラス)』に比してシナジー追求を一段と加速させることや、“×”が“駆ける”にも通じることでスピード感を強調する意図が込められている。
業績計画については、同社は毎年、期初において当該年度と2年後の業績予想を公表している。いわゆるローリング中期経営計画と似たスタイルだ。2019年3月期の開始に当たっては、2019年3月期業績予想とともに2021年3月期の業績予想を公表した。この中期予想では、2021年3月期において売上高2,500億円、経常利益80億円を達成し、過去最高益の更新を目指すとしている。
加工サービス機能と企画開発機能を強化し、ファブレスメーカーへの変身を目指す
2. 今後の目指す方向性
『elematec ×』は2019年3月期が2年目で、あと1年半の期間が残っている。しかしながら同社は持ち前の機敏さと柔軟性を生かして、2021年3月期から開始予定の新たな中期成長戦略について様々な検討を重ねている状況にある。その詳細は明らかになってはいないが、これまでの取材などを通じて同社が目指す方向性はある程度見えてきた。
今同社が抱く最も強い気持ちは「危機感」だと弊社では理解している。過去、同社が3つの強みを生かして安定成長を遂げてきたが、今後は同じ戦略が通用しなくなる可能性や、IT技術の進歩などによって企業間取引のあり方が変わる可能性(その結果として現状の商社機能の意義や重要性が変わる可能性)などへの危機感だと弊社では推測している。
こうした危機感に対する同社の対応は明確で、自社が提供する付加価値を高めていくことだ。その具体的な方法論として浮かび上がってきているのが、加工サービス機能や企画開発機能の強化だ。会社概要の項で見たように、同社はこれらの機能をこれまでも顧客に対して提供してきているが、商材の販売という伝統的な商社ビジネスの陰に隠れ十分な存在感を発揮できていなかったのも事実だ。しかし今後は、これらの機能をもっと強化し同社の特長・強みとして前面に押し出していく方向にある。そしてその結果として収益拡大、採算性の改善にもつなげようという考えだ。加工サービス機能や企画開発機能の具体的な中身は以下のようになっている。これらはあくまで現時点で同社が具体的イメージとして説明しているものであり、将来的には事業環境や実際の取引状況などに応じてその中身や呼称が変わる可能性がある。
(1) 加工サービス機能
同社は商社であってメーカーではない。しかしながら、顧客(販売先)から加工した形での納品を求められることも多い。そうしたニーズに応えるために同社は、国内1ヶ所と海外(中国)2ヶ所の加工拠点を設けている。
国内では横浜市のエレマテックロジサーブ(株)が電気材料等の加工及び製造や、各種受入検査、環境関連物質測定などのサービスを提供している。また海外では、依摩泰電子(大連)有限公司において電子回路基板への部品実装等を、依摩泰無錫科技有限公司においてプラスチック板へのシルクスクリーン印刷、切削加工、組立て等を、それぞれ行っている。
(2) 企画開発機能
企画開発の業務は顧客のニーズを的確に把握することからスタートする。顧客のエレクトロニクス、メカトロニクス、外装、デザインなど多岐にわたる様々なニーズに対して、同社は国内外約7,300社の仕入先の中から最適な商材を探索し、あるいはニーズに見合う製品を企画(場合によっては製品の試作も)し、顧客に提案していくのがこの業務の基本的な流れだ。
この業務においてはニーズの“把握力”と、ニーズの“実現力”の2つが必要となる。この2つを兼ね添えたライバル企業も決して多くはなく、この機能もまた、他社との差別化要因となっていると考えられる。また、同社の企画・設計に基づく新製品が採用されることは、顧客企業にとって同社がオンリーワンの存在になったことを意味し、顧客との取引関係強化という点で非常に有効だと考えられる。また前述のように、そうした新製品については同社がモジュール化の加工を行って納入することになり、同社としては収益性の高いビジネスとなると期待される。
上記の加工サービスの提供は、調達代行サービス同様、顧客におけるある種の「手間」の肩代わりだ。顧客が自身で加工委託先を見つける手間を同社が引き受けている構図だ。したがって、手間の肩代わりだけにとどまっていては低収益事業、あるいは(タダという意味での)“サービス”となるリスクをはらんでいる。同社が有する新製品開発情報や最新技術動向などの情報をもとに企画設計されたカスタマイズ品を提供する状況になって初めて同社が付加価値を生み出し、収益性も挙げていくことができる。同社はかねてより“モジュール化”の推進を掲げてきているが、それはこのことを指している。つまるところ、加工サービス機能と企画開発機能の2つは、モジュール化の実現にとって必要不可欠な要素技術(機能)ということになる。
以上のように、同社が目指す方向性は、取引形態に着眼すれば“モジュール化取引の拡大”であり、自社の機能強化という点では“加工サービス機能と企画開発機能の強化”となり、収益に関する文脈では“付加価値の創造・増大”と語られることになるが、いずれも同じことと言える。
ところで同社は、前述のように3つの生産・加工拠点を有するものの、今後の展開においては必ずしも自社加工拠点での製造・加工にこだわるものではないというスタンスだ。現状では素材として販売しているものを、ある種の加工を施して中間品や半完成品として納入することがモジュール化取引であるが、同社が付加価値の源泉と位置付けるのは加工自体ではなく、企画開発力やソリューション提案力であるためだ。したがって同社は加工については積極的に外部メーカーを活用するビジネスモデルになると考えられる。こうした体制は“ファブレスメーカー”そのものということができる。
ファブレスメーカーを目指す動き自体は従来から少しずつ進行している。具体例としては、企画・設計・開発に直接携わる技術グループにおける人員強化がある。これにより、顧客ニーズの把握力や試作機能が拡充された。また、AutomotiveやBroad Marketにおけるスペック・イン活動も着実に拡大しつつある。これらの分野ではスペック・イン活動が取引開始への第一歩というケースも多く、スペック・イン活動の拡大は将来の実取引への発展を期待させる。逆の見方をすれば、スペック・イン活動から実取引へとつながる流れが太くなりつつあることが背景にあって、ファブレスメーカーへの脱皮という志向を強めたとも言えるかもしれない。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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