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3Dマトリック Research Memo(6):2018年秋以降、パイプラインの進捗が相次ぐ見通し


■今後の見通し

2.止血材の開発動向
(1)止血材「PuraStat®」
「PuraStat®」については、日本で消化器内視鏡領域における漏出性出血を適用対象とした臨床試験を2017年8月より開始している。開始当初から約半年間は治験調整医師や各施設の治験責任医師を招集して検討会を実施しながら慎重に進めたことから、当初の想定よりも臨床試験の進行にやや時間を要しており、現段階では2018年12月~2019年1月頃の見込みとなっている。スリー・ディー・マトリックス<7777>では、臨床試験終了後にデータを収集・解析し、2019年4月期第4四半期までに製造販売承認申請を目指していく方針に変わりない。消化器内視鏡領域では既に欧州で多くの実績を積み重ねていることから、承認取得の可能性は高いと弊社では考えている。

製造販売承認申請後の審査期間は平均で約15ヶ月とされており、順調に進めば2021年4月期の早い段階で承認される可能性がある。承認取得時には販売ライセンス契約先である扶桑薬品工業からマイルストーン収益800百万円を得られることになっているが、今回は契約の適用範囲である3領域(消化器内視鏡領域、心臓血管外科領域、臓器出血領域)のうちの1領域に限定されるため、受領額については今後の交渉で決めていくものと思われる。また、ほかの2領域のうち心臓血管外科領域についてはPMDAと治験プロトコルに関しての協議を既に開始している。今後、消化器内視鏡領域の進捗を見て、心臓血管外科領域での臨床試験も進めていく考えで、その後は、腹腔鏡下手術を含む外科領域等にも適用対象を広げていくことになる。

なお、2018年4月にハンガリーで開催された消化器内視鏡学会において、イタリアの医師から「内視鏡手術下における噴出性出血においても止血効果があった」との研究報告がなされたほか、トルコで開催された心臓外科学会において、英国の医師から「心臓血管外科領域における漏出性出血50症例において、止血効果が確認された」ことが報告されるなど、「PuraStat®」の海外での評価と認知度は年々高まっているものと思われる。

(2)後出血予防材
欧州では「PuraStat®」の適用拡大として、後出血予防材としてのCEマーキング取得を目指している。2017年12月に比較試験データを加えて再申請を行っており、現在は認証機関においてデータの精査を行っている段階にある。現段階において追加のデータ要請等がないことから順調に進めば、2018年秋にも認証される見通しだ。なお、追加試験の結果については2018年10月中旬に開催される欧州最大の内視鏡学会で臨床試験実施者であるポーツマス病院の医師から発表される予定となっている。

後出血予防材として認証されれば、消化器内視鏡領域において「PuraStat®」の利用価値がさらに高まり、売上高の拡大につながるものと期待される。また、欧州で認証されれば止血材と同様、アジア・オセアニア、中南米・カナダなどのCEマーキング適用国で認証取得、製品登録申請を進めていく予定となっている。

欧州では既に複数の医師が自主的に後出血予防材としての臨床研究を進めている。2018年4月にハンガリーで開催された消化器内視鏡学会では、イタリアの医師から「後出血リスクの高い患者を対象に「PuraStat®」を使用したところ、後出血予防効果が確認された」ことが報告されたほか、2018年6月にフランスで開催された血管外科学会では、フランスの医師から「糖尿病患者へのシャント形成術において、後出血を予防するために「PuraStat®」を使用したところ、後出血の発生件数が従来よりも大幅に減少した」ことが報告されている。フランスでは年間50万件のシャント形成術が行われているが、後出血リスクがあるため1週間は入院して経過観察するのが一般的となっている。「PuraStat®」を使うことで入院日数を短縮できれば、医療費の削減に寄与することになる。仮にフランスのシャント形成術すべてに「PuraStat®」(2万円/回と仮定)が使われたとすると、それだけで売上高は100億円となる計算だ。このように、欧州では「PuraStat®」の優れた機能に注目した医師が自主的な臨床研究に取り組んでおり、止血材としてだけでなく後出血予防材として適用領域が拡大していく可能性が高まっている。

(3)癒着防止材(耳鼻咽喉科領域)
米国では「PuraStat®」をオーストラリアで既に販売実績がある耳鼻咽喉科領域における癒着防止材(約100症例で癒着率は5%以下の実績)として開発を進めている。既にFDAと協議して策定したプロトコルでの前臨床試験は終了しており、現在はデータの収集・解析を行うと同時に、承認が確実に得られるような補強データ(オーストラリアでの臨床データ)の活用に関しての検討を進めている段階にある。前臨床試験では比較対象品としてMedtronicの「MeroGel」を使用した。「MeroGel」はヒアルロン酸をベースとしたジェル状のパッキン材として既に市販されている製品で、実験ではウサギの両鼻の鼻内粘膜に傷を付け、片側に「PuraStat®」、もう一方に「Merogel」を塗布し、術後30日目に組織評価を実施し、癒着の有無などを確認した。2019年4月期の期初段階では第3四半期までに510(k)申請を行い、2019年4月期中の販売承認を目指していたが、現状はFDAに申請するデータ作成について慎重に検討を進めていることから、申請時期のターゲットを2019年4月期中とした。FDAの審査時間は3ヶ月(追加データの要請・確認の時間は除く)となっているため、順調に進めば申請後約半年で販売承認を取得できるものと予想される。510(k)制度では既存品との同等性を確認する審査制度のため、承認の可能性は高いと弊社では見ている。

同社は2020年4月期からの販売開始を見込んでいるが、当初は各地域で販売代理店を通じて販売を行っていく予定にしており、販売実績が一定水準に積み上がった段階で独占販売ライセンス契約を締結する戦略となっている。ライセンス契約締結の時期は2021年4月期を目標としている。同社では耳鼻咽喉科領域における癒着防止材の潜在市場として、米国だけで約100億円の規模になると推計している。

(4)次世代止血材「TDM-623」
欧州では次世代止血材の開発も進めている。臨床試験用製品は既に完成しており、現在は臨床試験に向けたプロトコルの策定作業を進めている段階にある。同社では2019年4月期第3四半期以降に臨床試験を開始する予定にしていたが、現状の資金調達状況がやや遅れ気味となっていることもあり、治験計画の申請時期を含めてやや先送りされる可能性が高い。また、適用領域についても「PuraStat®」と同じく消化器内視鏡術、心臓血管外科手術における漏出性出血からスタートするのか、あるいは対象領域を脳外科や脊椎外科など中枢神経系まで広げて行うのか、あるいはそれぞれの特性を生かしていくため対象領域を分けて開発を進めていくのかなど様々なケースで検討を進めている。いずれにしても、今後の資金調達状況を見ながらの経営判断となる。

なお、現在進めている「PuraStat®」の独占販売ライセンス契約交渉への影響についてだが、同社では次世代止血材も含めた形での契約交渉も進めており、支障は生じないと考えている。ただ、止血効果の高い次世代止血材が2~3年後に上市するのであれば、「PuraStat®」の売上成長スピードが当初の想定より鈍化する可能性はある。次世代止血材は「PuraStat®」よりも止血効果が高く、取り扱いが簡便なこと(常温保存が可能)、製造コストも低いためだ。

次世代止血材の上市によって、現在、市場開拓が遅れている心臓血管外科領域や一般外科領域での市場開拓が進む可能性があるほか、中枢神経系領域に適用範囲が拡大することも期待される。一方、「PuraStat®」については後出血予防材としての機能も含めて内視鏡領域において普及拡大していくことが見込まれる。このため、将来的には両製品がそれぞれの特徴を生かせる領域において成長していくものと弊社では予想している。

(5)中国での開発動向
中国では、2017年4月にCPCと中国市場における止血材の開発・製造・販売に関するライセンス契約を締結しており、CPCが臨床試験に向けた準備を進めている。現在は、定期的にCPCとミーティングを行い、技術移転を進めている状況にある。今後の開発スケジュールに関しては、CPCの戦略次第となるため流動的ではあるが、中国市場で止血材が上市されることになれば、製品販売額の一定割合のロイヤルティ収入を複数年(5年以上)にわたり受領する契約となっているため、収益にプラス寄与することになる。

中国の医療機器市場の年平均成長率は約22.5%、外科手術件数は約11%で拡大を続けている。現時点での止血材市場は年間で約200億円超と推定されているが、今後、医療技術の向上や手術件数の拡大に伴って止血材市場も年率2ケタ台の高成長が続くと予想される。なお、CPCは同社のペプチド原材料の主要仕入先の1社であり、ペプチドの研究開発分野では世界的なリーダー企業の1社として知られている。親会社であるGuizhou Xinbang Pharmaceutical Co.Ltd.(ヘルスケア分野のコングロマリット)の傘下には複数の医療施設や医薬品メーカーがあり、製品が上市されれば販売は比較的スムーズに進むものと同社では見ている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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