Eストアー Research Memo(5):顧客数拡大と大口顧客獲得が成長戦略。実現に向けて人的資源の拡充を急ぐ
3. マーケティングサービス事業の成長戦略
マーケティングサービス事業は顧客に対して販売促進(マーケティング)のためのコンサルティングや業務運営代行といった役務を提供し、それに対する対価(フィー)を得るのが事業モデルだ。実際の事業は、販売支援と販促支援の2つの領域にまたがっている。
Eストアー<4304>はマーケティングサービス事業について、ショップサーブの既存顧客を対象に販売するところから開始して、その後、外部の新規顧客との契約獲得にも進出し、事業を拡大してきた。
マーケティングサービス事業の売上高の推移を見ると、毎年高い伸びが続いており、2018年3月期は前期比43.6%増の1,131百万円に達した。しかしながら、業績動向の項で述べたように、2019年3月期第1四半期は、増収率が12.0%に減速した。
この点について同社は、前期は、大口顧客の契約があり高い伸びとなったが、その後大口顧客の契約が出来ていないことが原因としている。今後の見通し・対応としては、第1四半期の影響が第2四半期も一部で残る見通しであるものの、別の大口顧客との契約が下期から開始予定であり、顧客数獲得に向けて営業を強化するため、下期には再び高い成長を回復できるとしている。
弊社では何よりも人材確保が急務だと考えている。ここでの人材強化が同社がかねてより注力する“成長投資”の本丸であり、この点は同社自身が最も痛感していることと思われる。それでもあえて指摘したのは、人的キャパシティ拡大による事業収益拡大という戦略は良いとして、人材を実際に獲得するための戦術において、もうひと工夫が必要ではないかと考えたためだ。予想よりも経費が少なくて利益が上振れする状況は、(同社自身が指摘するように)短期的にはプラスに評価されたとしても、同社の中長期的成長戦略の観点からは決して手放しでは喜べない。人的キャパシティの拡大は引き続き最大の注目点と言える。
『コンペア』は高い実績と評価を獲得。これをテコに顧客数の急拡大を狙う
4. マーケティングシステム事業の成長戦略
マーケティングシステム事業とは、販売促進支援システム、すなわちソフトウェアの開発と販売だ。目的は顧客の売上高拡大ということでマーケティングサービス事業とも重なるが、収益モデルは固定の月額基本利用料とサービスの利用度数に応じた従量制課金から成り立っている。
同社は2017年秋までに『Eストアー Compare(コンペア)』、『Eストアー Query(クエリー)』の2つのサービスをローンチした。これら2つはともに、MA(マーケティングオートメーション)ツールで、コンペアはECサイトについて、AB比較テストを行ってコンヴァージョン率(転換率、CVR)や成約数、LTV(生涯価値)の高い方をリアルタイムで突き止め、EC売上高の拡大につなげるツールだ。一方クエリーは、既存客を一定数有する事業者向けの、メールマーケティングツールで、顧客の属性を細分化し、パーソナライズしたメールを配信できる点に特長がある。
マーケティングシステム事業の売上高は売上高内訳では販促システム売上高として開示されている。2018年3月期の売上高は2百万円(年度後半の4~5ヶ月分)だった。2019年3月期第1四半期の売上高も2百万円となっている。
同社はマーケティングシステムの2つの商品について、2019年3月期から本格的拡販に乗り出した。第1四半期の2百万円という実績には決して満足していないと思われる。この売上実績と平均単価4万円/月から逆算すると、現在の顧客数は15社前後ということになる。同社は今後、ショップサーブの既存顧客を対象に、先発利用者における実績などを踏まえて拡販を図る計画だ。
同社によれば、これまでの実績としては、特にコンペアへの評価が高く、売上高が導入前後で3倍増となった事例もあるようだ。こうした実績が積み重なれば、説得力も高まりマーケティングシステムの契約社数増大につながると期待される。またショップサーブの既存客に販売することは、マーケティングシステムの売上高拡大と、フロウ売上高拡大の両方につながるため、極めて合理的であると言える。今後の推移を見守りたい。
若手の抜擢で組織に勢いと行動力。経験の積み重ねで一段の実力アップを目指す
5. 大規模組織改編の進捗状況
同社は2017年8月に、過去最大規模のリストラクチャリングを行った。ここで言うリストラは“首切り”という意味ではなく、文字どおりの事業構造の転換を意味するもので、その中心の施策はキーマン(幹部)ポジションにおける人材の大幅な若返りだ。端的に言えば、40代~50代の社員が占めていたポジションに、30代社員を全社的に抜擢したというものだ(この詳細については2018年3月19日付の前回レポートを参照)。
それからほぼ1年後の現在、大規模組織改編の効果や進捗について同社は、組織としての勢いや行動力という点では明確に、狙いどおりの効果が出ているとしている。一方で、例えば最後のエクセキューション(執行力、決定力)といった面で経験不足が顔を出すと言ったこともあるようだ。そうしたネガティブな面を考慮してもなお、大規模組織改編は成功であったというのが同社の自己評価だ。
弊社でも今回の大胆な組織改編は意義があると評価している。過去数年から今後1〜2年は同社にとっては成長投資の時期に当たる。その期間は業績的には一時的な停滞を甘受する覚悟で臨んでいる。ベテランから若手への切り替えに際して一定の機会損失などが発生するのは十分想定できることだ。そうした一時的な機会ロスや費用の増加を先送りせず、成長投資ともに一気に行うという判断は、その後の収穫・回収のタイミングにおいて業績の垂直立ち上げを実現するためには不可欠だと弊社では考えている。その点で同社の大胆な組織改編はタイミングとして正しい判断だったというのが弊社の評価だ。
EC市場に混乱をもたらすリスクを極小化すべく、電子認証事業を買収
6. 電子認証事業への参入
同社は2018年8月6日付で電子認証事業を開始した。同社は新規に(株)クロストラストを設立し、同子会社において、電子認証サービスで実績を有するクロストラスト(株)から事業譲渡を受け、今後は同社がクロストラストにおいて電子認証サービス事業を行っていく。具体的には、通信の暗号化や、企業の実在を証明するSSL/TLSサーバー証明書の発行を行うのが電子認証サービスの内容だ。
SSL(Secure Sockets Layer)/TSL(Transport Layer Security)はいずれも、インターネット上で通信を暗号化し、第三者による通信内容の盗み見や改ざんを防ぐ技術だ。SSLとTLSは同じ枠組みであり、SSLがバージョンアップを重ねてその後TLSに移行したという関係にある。
SSL/TLSサーバー証明書とは、Webサイトを運営する会社の身元を確認できる機能を備えた電子証明書だ。この証明書を導入(取得)しているサイトとそうでないサイトとでは、極めて近い将来に大きな差が出ることが予想されている。具体的には、証明書を取得していないサイトを閲覧しようとすると、ブラウザから警告を受けることになる。これはサイトへの訪問を妨げ、EC事業者の収益に大きな影響を及ぼす可能性がある。
同社及びクロストラストの最初の事業として、同社の既存顧客(ショップサーブ契約企業)に対して無料でSSL/TLSサーバー証明書を早期に発効する計画だ。無料というのは奇異に聞こえるかもしれないが、フロウ売上高における損失回避効果で十分正当化できる見込みだ。(SSL/TLSサーバー証明書は通常は有料であり、業界の平均的な料金は年間30,000円とされている)。
電子認証事業では、言うまでもなく外部の一般顧客にもSSL/TLSサーバー証明書の発行を行い、独立した収益事業として成長を図る方針だ。電子認証サービスは1年契約で更新していくモデルであるためストック型の収益モデルであり、一定の規模に達すれば収益の安定性増大に寄与すると期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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