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アドバネクス Research Memo(4):EVシフトによる事業機会の拡大


■事業戦略

(4) 技術を軸とする拡大・深耕
「金属加工総合メーカーへの挑戦」を掲げ加工技術を積み上げてきたアドバネクス<5998>は、2015年3月にプラスチック事業を行うグループ会社を手放したが、金属プレスと樹脂射出成形を組み合わせて製造するインサートモールドは残した。一方、船橋電子を買収して製造技術を獲得した細物深絞り加工製品は、欧州での需要が多い。現在、同社は線ばね、板ばね、インサートモールド、深絞りなどの加工技術を有している。エリア別市場別供給する製品に必要な加工技術を、日本から順次移転する。同社は、グローバル4本社制を取っており、欧州地域はイギリスが技術センターとなる。米国子会社がメキシコ工場を人材面で支援したように、イギリス子会社がチェコ工場の立ち上げ及び技術支援をすることになる。

(5) 自動車用部品おける同社の領域
同社は、「エリア」「顧客」「領域」「加工技術、製品」の4つの軸をそれぞれ伸ばし、事業の“面積”を拡大する事業戦略を取っている。自動車市場では、同社の強みが発揮でき、また難易度と品質厳格度の高い分野に参入領域を拡大してきた。

同社の自動車向けの領域は、2000年の参入当初、オプション系のカーナビなどのカーエレクトロ二クスやアンテナに領域が限定されていた。エリアは、日本とタイであった。2005年以降に計器とインテリア、2010年からはパワートレイン、そして2015年以後は安全・制御系(先進運転支援システム=ADAS:advanced driver assistance system)、HV・EV、自動運転へと広げている。

自動車の駆動方式で見た同社製品の潜在需要は、従来の内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)車よりもHV、さらにEVの方が1台当たり大きくなる。ICE車向けの同社製品搭載量を100とすると、HVで120、EVでは125に拡大すると推定している。ICE車が必要とするエンジン、ラジエーター、クランク、シャフト、フレーム、サスペンション、シート、ボディなどは、同社の事業領域に入らない。一方、安全・制御系のADASなどはICE車、HV、EVに共通するため、同社にとっていずれの駆動方式でも需要がある。ICE車向けは線ばねなどシンプルな製品が多いが、EV向けの製品はフォーミングとインサートモールドなど複数の加工技術を用いるため付加価値が高くなる。

HVやEVが搭載する大電流を流すデバイス向け部品の引き合いが増加している。同部品には金属と樹脂を一体成形するインサートモールド技術が使われている。他社製品は金属材に板材を用いているが、同社は独自のフォーミング技術による線材加工を得意とするため、大電流に向き、配線の簡略化やコストでも有利になる。EVは、畜電池を駆動用だけでなく多用するため、同社にとって需要は拡大する。二次電池向けの部品は、深絞り加工を施すケース、プレスによる端子、内部構造、インサートモールドの端子がある。また、充電設備等も同社の領域に入る。二次電池メーカーとは以前から取引があるため、新規顧客開拓をする必要はない。

船橋電子を事業統合することで得た深絞り技術を応用したセンサー向け部品は、引き合いが急増している。具体的には、位置センサーや速度センサーが挙げられる。自動車業界では、自動ブレーキなどADAS搭載車種の増加や高度化により、ますます車載用センサーの需要が増加するとみられている。同社は、自動車の電子制御の入口部分にあたるセンサーだけでなく、出力部分となるバルブ、ポンプ、インジェクタなどのメカ部品に関わる部品も供給する。深絞り加工品が業績に本格寄与するのは、新製品の量産が本格的に開始する2021年3月期頃となりそうだ。

(6) 国を挙げてのEVシフト
日本政府は、次世代自動車の普及拡大を自動車産業政策の重要課題と位置付け、「日本再興戦略改訂2015」において、「2030年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を5から7割とすることを目指す」としている。特に、EV・PHVは、CO2削減効果が高く、災害時に非常電源として使えるため普及に力を入れる。経済産業省の「自動車産業戦略2014」によると、従来(ICE)車の新車販売に占める割合が2016年の65.2%から2030年では30~50%へ低下し、ハイブリッド車は約30%から30~40%へ、EV・PHVの割合が1%未満から20~30%に拡大する目標となっている。

3. 戦略製品と重点分野
(1) 「インサートカラー」
「インサートカラー」は、プラスチック部品締結部の補強部品である。自動車は、世界的に燃費規制が強化されるなか、車体軽量化のためプラスチック部品の使用が増加する傾向にある。プラスチック部品をボルトで固定する際に用いる金属製補強金具であるインサートカラーは、車1台当たり数百個が使用される。インサートカラーは、自動車部品専用の埼玉工場の主力戦略製品となる。

(2) 医療機器用部品
同社の2018年3月期の医療市場向け売上高は1,539百万円、売上高構成比は7.6%であった。医療機器向けは、グローバルニッチトップ企業を目指す同社に適した市場になる。世界人口の増加、全世界の医療費支出の増加を背景に、安定的な市場拡大が期待される。市場のトレンドとして、セルフケアの進展によりディスポーザブル器具の需要増加が見込める。モデルチェンジが少なく、長いライフサイクルと高収益が商品特性になる。一方、ネガティブ要素としては、開発・試作コスト、長い試験期間、企画中止のリスクが挙げられる。それらが高い参入障壁となっており、クリアできれば、安定的かつ高収益を享受できることになる。

(3) 導通検査冶具用部品
導通検査冶具であるプローブ(導通テスター)は、多数のコンタクトプローブを使用する。同社は、コンタクトプローブの部品となるバレルを深絞り加工で製造することに成功した。パイプを切断してバレルを製造するメーカーは数十社存在すると推定されるが、製造コストが安くて済む深絞り加工メーカーは米国1社にとどまり、同社が2社目となった。同社が外径0.3ミリから1.5ミリまでの製品ラインアップを整えたことから、プローブメーカーがそれまで市場を独占していた米国メーカーから同社へ発注を切り替える動きが加速している。大手プローブメーカーは5社程度あるが、同社はQCD(品質、コスト、納期)で優位に立つため、将来は高シェアを狙う。

(4) 規格品
幅広い用途と大きな需要が見込める規格品の販売にも注力している。規格品の主力製品は、アルミなど軟らかい母材のねじ穴補強部品「タングレス・インサート」、ボルト・ナット脱落防止部品「ロックワン」である。同社の技術的優位性を生かして開発されており、従来製品に対しコストパフォーマンスや作業効率に優れ、他社にまねされにくい。

a) 母材のねじ穴補強部品「タングレス・インサート」
「タングレス・インサート」は、アルミなどの軟らかい母材のねじ締結部分を補強する部品である。航空機では、アルミニウムやCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの軽量母材がねじ穴の補強を必要とし、1機当たり数万から数十万個が使用される。航空機市場では、タングレス・インサートが従来品の市場を奪うことでシェアが拮抗するまでに浸透してきた。タングレス・インサートは多くの特長を有することから、従来品より高い値付けがされている。しかし、材料の投入量や製造工程数が従来品と比べて多いわけでないため、収益性の高い製品となっている。今後も、タングレス・インサートのシェア拡大が見込まれる。

b) ボルト・ナット脱落防止部品「ロックワン」
住設/インフラ分野で期待されているのは、ボルト・ナットの脱落防止スプリング「ロックワン」である。ターゲットとする市場は、鉄道、マンションなどの建築物、高速道路、電力などである。いずれも認証手続きを踏まえなければならず、導入されるまでに時間を要する。地下鉄での導入が既に始まっている。販路に関しては、各市場の専門商社を活用することになる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)



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