2. 止血材の開発動向
(1) 止血材「PuraStat®」
「PuraStat®」については、日本で消化器内視鏡領域における漏出性出血を適用対象とした臨床試験を2017年8月より開始している。開始当初は医療施設及び医師間での手技統一のため、治験調整医師や各施設の治験責任医師を招集して検討会を実施しながら進めたこともあり開始から半年間は慎重に進めていたが、2018年春以降は症例登録もスピードアップしている。手技の統一とは、どのような出血状態の場合に「PuraStat®」を使用するかという点の確認となる。出血状態の認識については医師の主観的な要素が強いため、事前に周知徹底を行った。臨床試験の終了予定は2018年秋頃になる見通しで、その後データを収集・解析して当第4四半期までに製造販売承認申請を目指していくことになる。消化器内視鏡領域では既に欧州で多くの実績を積み重ねていることから、承認取得の可能性は高いと弊社では考えている。
製造販売承認申請後の審査期間は平均で約15ヶ月とされており、順調に進めば2021年4月期の早い段階で承認される可能性がある。承認取得時には販売ライセンス契約先である扶桑薬品工業からマイルストーン収益800百万円を得られることになっているが、今回は契約の適用範囲である3領域(ほかは心臓血管外科、臓器出血領域)のうち1領域に限定されるため、受領額については今後の交渉で決めていくものと思われる。また、ほかの2領域のうち心臓血管外科領域についてはPMDAと治験プロトコルに関しての協議を既に開始している。今後、消化器内視鏡領域の進捗を見て、心臓血管外科領域での臨床試験も進めていく予定だ。その後は、腹腔鏡下手術を含む外科領域等にも適用対象を広げていくことになる。
なお、2018年4月にハンガリーで開催された消化器内視鏡学会において、イタリアの医師から「内視鏡手術下における噴出性出血においても止血効果があった」との研究報告がなされたほか、トルコで開催された心臓外科学会において、イギリスの医師から「心臓血管外科領域における漏出性出血50症例において、止血効果が確認された」ことが報告されている。
(2) 後出血予防材
欧州では「PuraStat®」の適用拡大として、後出血予防材としてのCEマーキング取得を目指している。認証機関から比較試験の追加データを求められたことから臨床試験を追加で実施し、2017年12月初旬に再申請を行っている。過去の臨床データ(ヒストリカルコントロール群:202例)との比較において、「PuraStat®」群の後出血率は50%以上低く、また、76症例すべてにおいてESD(内視鏡的粘膜下層はく離術)実施部位への適用が容易であったこと、「PuraStat®」に起因する有害事象が認められなかったことから、認証される可能性は高い。現在は認証機関においてデータの精査を行っている段階で、順調に進めば2018年秋にも承認される見通しだ。なお、追加試験については予定症例数の90症例が完了しており、2018年秋に開催される欧州最大の内視鏡学会で臨床試験実施者であるポーツマス病院の医師から発表される予定となっている。
後出血予防材として認証されれば、消化器内視鏡領域において「PuraStat®」の利用価値がさらに高まることになり、売上高の拡大につながるものと期待される。欧州で認証されれば、止血材と同様、アジア・オセアニア、中南米・カナダなどのCEマーキング適用国で認証取得、製品登録申請を進めていく予定となっている。
また、欧州では既に複数の医師が自主的に後出血予防材としての臨床研究を進めている。2018年4月にハンガリーで開催された消化器内視鏡学会において、イタリアの医師から「後出血リスクの高い患者を対象に「PuraStat®」を使用したところ、後出血予防効果が確認された」ことが報告されたほか、2018年6月にフランスで開催された血管外科学会では、フランスの医師から「糖尿病患者へのシャント形成術において、後出血を予防するために「PuraStat®」を使用したところ、後出血の発生件数が従来よりも大幅に減少した」ことが報告されている。フランスでは年間50万件のシャント形成術が行われているが、後出血リスクがあるため1週間は入院して経過観察するのが一般的となっている。「PuraStat®」を使うことで入院日数を短縮できれば、医療費の削減に寄与することになる。このように、欧州では「PuraStat®」の優れた機能に注目した医師が自主的な臨床研究に取り組んでいるのが現状であり、止血材としてだけでなく後出血予防材としての成長ポテンシャルの高さがうかがえる。
(3) 癒着防止材
米国では「PuraStat®」をオーストラリアで既に販売実績がある耳鼻咽喉科領域における癒着防止材(約100症例で癒着率は5%以下の実績)として開発を進めている。既にFDAと協議して策定したプロトコルでの前臨床試験は終了しており、現在はデータの収集・解析に移っている。前臨床試験は比較対象品としてMedtronic
同社では2020年4月期からの販売開始を見込んでいるが、当初は各地域で販売代理店を通じて販売を行っていく予定にしており、販売実績が一定水準に積み上がった段階で独占販売ライセンス契約を締結する方針としており、ライセンス契約の時期としては2021年4月期を目標としている。同社では耳鼻咽喉科領域における癒着防止材の潜在市場として、米国だけで約100億円の規模になると推計している。
(4) 次世代止血材「TDM-623」
欧州では次世代止血材の開発も進めている。臨床試験用製品は既に完成しており、現在は製品の品質評価と臨床試験に向けたプロトコルの策定作業を進めている段階にある。同社では2019年4月期の第3四半期以降に臨床試験を開始する予定にしているが、今後の資金調達状況次第となっている。また、適用領域についても「PuraStat®」と同じく消化器内視鏡術、心臓血管外科手術における漏出性出血からスタートするのか、あるいは対象領域を脳外科や脊椎外科など中枢神経系まで広げていくのか、あるいはそれぞれの特性を生かしていくため対象領域を分けて開発を進めていくのかなど様々なケースで検討を進めているが、いずれにしても資金調達状況を見ながら判断していくことになる。
なお、現在進めている止血材の独占販売ライセンス契約交渉への影響についてだが、同社では次世代止血材も含めた形での契約交渉も進めており、契約交渉において支障は生じないと考えている。ただ、止血効果の高い次世代止血材が2~3年後に上市するのであれば、「PuraStat®」の売上成長スピードが当初の想定より鈍化する可能性はある。次世代止血材は「PuraStat®」よりも止血効果が高く、取扱いが簡便なこと(常温保存が可能)、製造コストも低いため、現在、市場開拓が遅れている心臓血管外科領域や一般外科領域での市場開拓が進む可能性があるほか、中枢神経系領域に適用範囲が拡大することも期待される。一方、「PuraStat®」については後出血予防材としての機能も含めて内視鏡領域において普及拡大していくことが見込まれる。このため、将来的には両製品がそれぞれの特徴を生かせる領域において成長していくものと弊社では予想している。
(5) 中国での開発動向
中国では、2017年4月にCPCと中国市場における止血材の開発・製造・販売に関するライセンス契約を締結しており、CPCが臨床試験に向けた準備を進めている。現在は、定期的にCPCとミーティングを行い、技術移転を進めている状況にある。今後の開発スケジュールに関しては、CPCの戦略次第となるため流動的ではあるが、中国市場で止血材が上市されることになれば、製品販売額の一定割合のロイヤルティ収入を複数年(5年以上)にわたり受領する契約となっているため、収益にプラスに寄与することになる。
中国の医療機器市場の年平均成長率は約22.5%、外科手術件数は約11%で拡大を続けている。現時点での止血材市場は年間で約200億円超と推定されているが、今後、医療技術の向上や手術件数の拡大に伴って止血材市場も年率2ケタ台の高成長が続くと予想される。なお、CPCは同社のペプチド原材料の主要仕入先の1社であり、ペプチドの研究開発分野では世界的なリーダー企業の1社として知られている。親会社であるGuizhou Xinbang Pharmaceutical Co.Ltd.(ヘルスケア分野のコングロマリット)の傘下には複数の医療施設や医薬品メーカーがあり、製品が上市されれば販売はスムーズに進むと弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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