鴻池運輸 Research Memo(4):主要事業は顧客先での構内物流を中心とした「複合ソリューション事業」(2)
3. 特色、強み
(1) 「バンドリング」の提供:ワンストップで複合ソリューションを提供できる
鴻池運輸<9025>のサービスの特色は、「生産工程」に関連した物流サービスを総合的に提供している点である。単に製品や原材料を輸送するだけでなく、「製造・生産」に関連した業務(製造工程設計、生産管理、生産工程など)も請負う「複合ソリューション」を提供している点が、同業他社と比較した場合の特徴である。
さらに同社の最大の強みは、このような各種の請負業務を顧客の製造工場や構内などにおいて複合的に提供できる点だろう。顧客側から見ても、それぞれの業務をアウトソーシングする場合、別々の企業に委託するよりは、ワンストップで提供してくれる企業があれば、そちらのほうが効率は良いはずだ。
このような同社の特色(強み)を要約すると、半製品や原材料の搬入・保管・輸配送から完成した製品の保管・輸配送・搬出までの「物流」という横軸の工程に加え、縦軸であるモノづくり工程の中の製造工程設計、生産管理、生産工程なども請負うことができるということである。さらに近年では、物流における「自動倉庫」などの保守・メンテナンスを含めた「エンジニアリング」も請負っており、ここまでのサービスを一貫して提供できる同業他社は少ない。言い換えれば、物流、モノづくり工程、エンジニアリングまでを「バンドリング」した複合サービスを提供できるのが同社の最大の特色であり、強みと言える。
(2) 顧客との長い取引(信頼に基づいたパートナーシップ関係)
既述のように主要顧客である旧住友金属工業や大手飲料メーカーとは既に50年以上の取引が続いている。このように長い取引が続いたのは、同社が提供する業務(サービス内容)に顧客が十分に満足した結果であり、それだけ顧客からは信頼されているという証でもある。顧客側から見れば、周辺業務を同社へアウトソーシングすることで、顧客自身はコアコンピタンス事業に集中することができるのである。
一方で長い取引を続ける中から新たなサービス要求が出され、これに同社が応えてきたことから同社の業務内容が現在のような規模に膨らんだのも事実である。同社にとっては、顧客の要求に応えながら業務内容を拡大したことで、これらの経験やノウハウが蓄積され新たな顧客に対しての横展開や縦展開が可能になっている。このような主要顧客との長い取引関係や厚い信頼関係は、一朝一夕で築けるものではなく、同社にとっては大きな財産であり強みである。
(3) 「安全」と「品質」へのこだわり
安全と品質はどの企業にとっても重要なテーマだが、特に同社は経営の最重要テーマの1つと位置付けて以下のような施策を実施している。
安全・品質の研修をグループ全体が参加しやすいように「安全品質研修センター」を開設し、事故災害事例からの学習、危険予知訓練、フォークリフトに関する座学や実技研修などの研修を各地で開催している。
また、生産工程における請負業務において顧客からの信頼を得るために「鴻池テクノ研修センター」を設置・運営している。ここでは実技実習を基本として、各種資格取得に向けた実技指導や生産ラインの工程管理技術習得に向けた実践的な研修を行っている。さらに「鴻池技術研究所」においては、次世代のテクノロジーに対する調査研究を行うと同時に、新たな物流技術、労働負荷軽減技術、冷凍関連技術など、物流の枠を越えたテーマについての研究開発、サービス開発なども行っている。
このように同社では、すぐには収益に結びつかない「安全」や「品質」に関する調査、研究、開発などを積極的に行っているが、これが上記のような顧客との長い信頼関係につながっているとも言え、目に見えない同社の特色、強みだろう。
(4) 変化に対応する企業体質
過去の長い歴史の中で同社の主要業務は大きく変化してきたが、それは社会環境や経済状況、顧客の業界環境、顧客の要望等が変わってきたことに対して同社が機敏かつ柔軟に対応した結果である。
経済環境や顧客企業の業界環境の変化に対して柔軟に対応できる、変化していける企業体質も同社の特色であり、強みのひとつと言えるだろう。下記に述べるように、新しい中期経営計画でも「変わる」ということを主たるテーマとして前面に出している。
(5) その他各分野での強み、特色
定温関連分野では、全国の主要な消費地に近い14ヶ所に拠点(冷凍・冷蔵倉庫)を有しているが、これらの倉庫は単なる「保管型」ではなく、「流通型」の倉庫である。これによって、全国規模で冷凍・冷蔵食品を輸送する大手顧客の要望に応えることが可能であり、中小業者にはできないことでもある。
海外関連分野の特色は陸・海・空の国際複合一貫輸送サービスを提供できる点である。例えば、国内のバイヤーが様々な商品を海外から仕入れる場合、通常であれば生産工場が各地に点在しているため、国際物流は複数のルートをたどることになる。しかし同社グループを利用した場合には、各工場からの製品を同社倉庫で集約し、そこで国内の各仕向け地別にコンテナ化してから、海運・陸運によって効率的に国内倉庫へ輸送することができる。
また同社では、海上貨物・航空貨物の両方でフォワーディングに関わる通関や各種免税措置などに精通したスタッフを有しており、高品質かつスピーディな対応を行っている。
さらに、これらのサービスを一段と強化するために、同社では1984年のシンガポールを皮切りにアジア地域での拠点展開を積極的に行ってきた。北米・中国・ベトナム・タイなどで展開する定温物流事業の強化に努めている他、昨年はインドにおいて鉄道コンテナ輸送を開始した。このように、同社は国内で培ったノウハウを最大限に駆使し海外においても国内事業を展開し高収益化を図っている。今後の国際物流の展開は重要な戦略の1つであり、拠点を足掛かりとした各地域での展開が注目される。
4. 競合
「複合ソリューション事業」において同社が担う、原材料の受入れ・検査、構内輸送、製造工程、製品の保管・出荷などの分野ではそれぞれにサービスを提供している企業は多い。例えば、日立物流<9086>、山九<9065>、センコーグループホールディングス<9069>などとバッティングする場合がある。しかし、これら多くの業務を単独で一貫して、かつこれだけの規模で提供できる企業は見当らない。この点では、競合企業はないと言えるが、得意先自身の外注方針の変更等による「内製化」が競合する、といった見方ができる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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