サンワテクノス Research Memo(5):付加価値創造と収益性拡大に向けてエンジニアリング事業への取り組みが続く
3. エンジニアリング事業の進捗状況
(1) 事業の概要
サンワテクノス<8137>においてエンジニアリング事業というのは、“電機・電子・機械の3部門の商品をそれぞれ単品販売するのではなく、システムとしてソリューションを提案する”ということで、言わば営業手法である。同社を食品スーパーに見立てると、これまでの同社は肉、魚、野菜を取りそろえて素材のまま顧客に販売してきた。エンジニアリング事業では、それぞれの食材を惣菜やお弁当に加工して販売するというイメージだ。エンジニアリング事業としての売上高が立つのではなく、電機・電子・機械の3部門に振り分けられることになる。
エンジニアリング事業の典型的なケースとして、同社が得意とするロボット(産業用ロボット)の導入を挙げることができる。ロボットは自動車業界において開発・導入がスタートし、その後、産業界全般に拡散してきたという歴史的経緯がある。自動車業界以外ではロボットの導入はこれから本格化するステージにあるが、それら新興ユーザー企業がロボットを導入しても使いこなせないことが多い。同社は、社内の技術者がシステムの全体構想を作成し、そこに外部のSI事業者を起用してシステムを構築するなどして、顧客企業がロボット導入及びメリットの享受をスムーズに実現できることをセールスポイントに、ビジネスの拡大を図るというのがエンジニアリング事業だ。
エンジニアリング事業の拡大によって期待されることの1つに、収益性の改善がある。前述の例になぞらえれば、お弁当やお惣菜に加工する分が付加価値となり収益性拡大につながる。また、保守・メンテナンスの需要を引き出すことも可能になる。さらには、リピートオーダーを生みだす可能性もある。こうした、関連需要や波及効果につながる点もエンジニアリング事業の大きなメリットと言える。
(2) 進捗状況
エンジニアリング事業の加速を狙って、同社は必要な投資を行ってきている。前述の例になぞらえれば、惣菜や弁当の調理担当者を、外部からの採用を含めて拡充を図ってきた。組織体制では、2015年4月には「FAシステム営業統括部」(現・FAシステム営業部)、「産業ソリューション統括部」(現・産業ソリューション部)、「エンジニアリング部」などを設置し、3つの商材に横串を通す形での提案・営業が加速するよう、体制を整えた。
2018年3月期においてもさらに体制の拡充を図った。2017年4月には、メカトロニクス営業部と機械システム営業部をFAシステム営業部に統合した。狙いは、電機と機械を統合することで総合力を高めることにある。また、2017年10月にはエンジニアリング部の組織を変更し、ロボット推進課、IoT推進課、監視制御推進課、自動認識推進課、電機技術課、技術サービス課へと再編した。
エンジニアリング事業の進捗を数字で把握するための方法論は難しい。定義の仕方がいろいろあり、その定義次第で数字が大きく変わるためだ。かつては「SI(システムインテグレーション)仕入実績」などで表現していたが、今般定義を変更し、「2つ以上の商材を組み合わせて販売した際の取引額」に変更した。従来のSI仕入実績をお弁当の加工賃とするならば、新しい定義はお弁当代ということになるだろうか。2018年3月期はそれが7,217百万円となり、前期比減少した。この要因は、前期に大型案件が含まれていたことの反動減とみられる。
2019年3月期のエンジニアリング事業の売上高見通しについては公表されていない。前述のように、同社の場合、エンジニアリング事業というのは言わば販売手法であって、エンジニアリング事業に該当するかどうかは結果論的な側面もあり、予想が難しいことが背景にあると思われる。そうした点を踏まえた上で、弊社では2019年3月期のエンジニアリング事業の売上高は大きく伸長する可能性があるとみている。理由は、2019年3月期の同社の機械部門の売上高見通しが、前期比81.3%増の16,600百万円に急伸する計画であるためだ(詳細は後述)。機械部門の製品は製造業の生産設備が主体で、受注生産が基本であり(それだけ確度が高い商談と言える)、また、生産設備はモノを右から左に移して終わりということはなく、ソフトも含めたシステムインテグレーションの構築という色彩が強いビジネスだ。これは同社のエンジニアリング事業にまさに該当するビジネスと言える。
エンジニアリング事業の利益面について、詳細は公表されていない。しかしながら、エンジニアリング事業の取引拡大は各商材の単品販売に比較して利益率が高いと弊社では推測している。単品販売は肉や野菜を素材としてそのまま販売することに等しい。エンジニアリング事業としての販売は肉と野菜でカレーを作って販売するイメージだ。このカレーへの加工賃分(もしくはカレールウの部分)だけ利益が上乗せされるため利益額及び利益率が高くなるというイメージだ。これが同社がエンジニアリング事業に注力する理由であり、弊社が投資判断の上での重要な視点の1つと考える理由でもある。
顧客のアウトソーシング・ニーズの増大が追い風となり、売上高100億円が射程圏内に
4. グローバルSCMソリューション事業の進捗状況
(1) 事業の概要
グローバルSCMソリューション事業は、前中期経営計画『JUMP 1200』で準備を進めたのち、今中期経営計画から正式にスタートした事業だ。しかしさらに遡れば、そのルーツは同社が古くから行っている調達代行や物流代行、納期管理といったサービスに行き着く。その古くからのサービスを、同社の海外ネットワーク(13の海外現地法人・世界25拠点)を生かして収益事業へと進化させたものがグローバルSCMソリューション事業ということだ。
具体的なあり方としては様々なものが考えられるが、典型的な例としては、ある顧客からの注文に応じて商品を配送する際、注文を受けた商品に加えて、顧客が同時に必要としているものを、同社のカタログ品/非カタログ品を問わず、一緒に配送するというケースだ。同社は各商品についてマージンを得て、あくまで収益事業としてこの事業を運営していく方針だ。
グローバルSCMソリューション事業を推進する動機付けや意義としては、大手メーカーといえども(大手メーカーだからこそ、という見方もある)、グローバル物流や在庫管理、資材調達等に関する人材が不足しているのに対して、同社は長い歴史の中でそのノウハウを蓄積してきたということがある。大手企業は過去の事業構造改革やリストラの過程でこの分野を削減対象としてきたが、その一方で、大手企業ほど効率的な生産体制を追求し、国をまたいだ事業移管などを頻繁に行っている。結果として、同社のグローバルSCMソリューション事業への潜在的ニーズは非常に大きいとみられる。
(2) 進捗状況
グローバルSCMソリューション事業もまた、エンジニアリング事業同様、順調な拡大が続いている。2017年3月期の売上高は約41億円だったが、2018年3月期は約72億円に達した。期初の計画では67億円が予想されていたがそれを上回って着地した。2019年3月期では約97億円が計画されている。グローバルSCMソリューション事業においても売上高100億円を1つの区切りとして当面の目標に据えているが、その達成が視野に入ってきた。
弊社ではグローバルSCMソリューション事業の拡大は同社にとって明らかにプラスだと評価している。長年のノウハウの積み重ねや当該サービスに対する需要の高まりで、きちんと利益を確保できていることが大きな理由だ。ただし、利益率自体は同社の他の事業に比べて低いと推察されるため、この事業の売上規模が急激に拡大すると全社ベースの利益率を押し下げることになる。利益率の改善は同社にとって常に重要な課題であり、事業規模の拡大と利益率の確保のバランス取りは大事な注目ポイントと言える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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