コスモスイニシア Research Memo(4):事業再生計画→前中期経営計画→中期経営計画2018
1. 事業再生計画と前中期経営計画
沿革でも触れたが、コスモスイニシア<8844>はリーマンショックによる債務超過から事業再生計画でまさに再生した。その後、大和ハウスグループの一員となり前中期経営計画で成長戦略を再志向、現「中期経営計画2018」において経営基盤の強化と成長戦略の更なる実践を目指している。また、「中期経営計画2018」の先を見据えた「中長期事業戦略」を打ち出し、目指すべき事業規模のイメージも示している。
事業再生計画成立までの過程における大和ハウスへのマンション管理会社(株)コスモスライフ(現(株)大和ライフネクスト)の売却をはじめとする資産処分に加え、金融機関からの債務免除370億円、デット・エクイティ・スワップ305億円および債務の返済条件緩和1,008億円などの金融支援のもとで、広範で徹底したリストラを実行した。2013年3月期に事業再生計画債務を予定通りに完済し事業再生計画は計画期日に終了したが、結果は当初目標に対して、財務数値が大きく改善したものの、信用がまだ回復途上であり資金調達が十分ではなかったと想像できること、将来の海外事業撤退に関する損失見込みなどの特別損失が発生したことなどから、収益性数値は目標に到達しなかった。資金調達力の回復による再成長を実現するため2013年6月に資本業務提携により大和ハウスグループ入りした。その後に策定された2016年3月期までの前中期経営計画においては、計画累計期間において売上高はやや未達に終わったものの営業利益・経常利益・当期純利益は計画を上回った。資金調達力が大幅に改善し借入金は2016年3月時点で約522億円と当初目標の220億円から大きく増加し、将来の事業成長の糧である棚卸資産は671億円と当初目標の340億円から大きく増加した。現在走っている「中期経営計画2018」と「中長期事業戦略」は、こうした経緯と現在の事業環境を反映したものになっている。
「中期経営計画2018」における事業環境認識と基本方針
2. 事業環境認識と基本方針
同社は、1)人口年齢構成と世帯人数構成の更なる変化、2)「空き家」「建替」「大規模修繕」に対する解決ニーズ増大、3)「中古住宅・ビルストック」の再生・流通市場の拡大、4)資産運用・相続対策に関するニーズの高まり、5)「環境・防災」ニーズの高まり、省エネ・耐震の促進、6)安心・安全への意識の更なる高まり(震災影響・施工不安)、7)東京オリンピックの2020年開催とインバウンド旅行・観光需要の拡大——と、現在同社が置かれている事業環境を認識している。こうした事業環境認識に沿って、経営基盤の強化と成長戦略の更なる実践という基本方針を打ち出した。
セグメント別の基本方針は次のとおりである。レジデンシャル事業では、1)新築分譲の深耕、中古ストックの再生強化拡大、リノベーション工事の促進、入居後サービスの拡張など豊富なメニューによる住宅に関するワンストップサービスの提供、2)アクティブシニア向け住宅供給と入居後サービスの進化・拡張、3)大和ハウスグループと連携した建替・再開発事業への取り組み——を推進する方針である。ソリューション事業では、1)プロフェッショナルなコンサルタント集団として事業用不動産に関するあらゆるワンストップソリューションの提供、2)投資用不動産開発に加え中古ストック再生の強化拡大——を進める。その他では、1)工事事業で既存事業の拡張に加え大規模修繕工事の強化、2)海外事業は大和ハウスグループと連携したオーストラリアでの住宅開発の継続、3)訪日外国人の宿泊需要に対応した新規ビジネスの展開——を目指す方針である
このような事業環境認識と基本方針を受け、2016年に「中期経営計画2018」を策定し、2019年3月期売上高1,050億円、営業利益50億円、期末ネットD/Eレシオ1.5倍(ネット有利子負債430億円、純資産290億円)を目指すことになった。その後発表された「中長期事業戦略」においては、「中期経営計画2018」の事業環境認識と基本方針をベースに、さらに3~5年先の事業規模イメージを示している。
中期経営計画2018を包含する中長期事業戦略
3. 中長期事業戦略と事業規模イメージ
同社の「中長期事業戦略」は、企業理念「Next Value For The Customer~お客さまに求められる次の価値をつくる~」と、企業理念をより具体的な行動に移していくためのCSV※ビジョン「Next GOOD『よい暮らし』『よい社会』の次のこたえを。」を反映している。また、「中長期事業戦略」自体が、同社が商品・サービスの提供を通じて社会課題を解決するため、より多くの「Next GOOD」を顧客や社会とともに創出していくためのガイドになっていると思われる。そして、事業ドメインである都市生活環境と前述した7つの事業環境認識が、中期事業戦略のターゲットとなり、各事業をフローとストックとサービスに分けた戦略展開が成される。これに従い、近い将来の事業規模を、レジデンシャル事業で700億円、ソリューション事業で700億円、工事事業と海外事業を合わせて150億円、合計売上高1,550億円と同社ではイメージしている。
※CSV(Creating Shared Value):企業の強みを生かして社会問題を解決することで、持続的な成長を図る差別化戦略。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の発展形と言われる。
(1) レジデンシャル事業
レジデンシャル事業では、新築分譲(フロー)とリノベーション(ストック活用)、そしてサービスに分け、顧客に豊富なメニューとサービスを提供する。一方、サブセグメントを一気通貫したワンストップサービスの提供により、収益性の向上を目指す。減少傾向にある新築分譲では、マンションと一戸建はともに利便性の高い立地の開発に注力する一方、空間品質にこだわった広い間取りや機能性の高い商品で差別化する高付加価値戦略により、一定のマーケットシェアの確保を目指す。新規事業のアクティブシニア向けマンションでは、アクティブシニア層の多様なニーズに対応するとともに、管理・運営を含めたサービスも提供する方針である。これにより、近い将来、新築分譲で500億円の売上高の確保を目指す。
リノベーションマンションにおいては、中古マンションの買取再販を行い、新築マンションの空間設計をリノベーションに取り入れる。また、独自の住宅診断を実施したリノベーションマンションの情報サイト「RENONAVI」の運営によって取扱量の拡大を図るとともに、リテール仲介とリノベーション工事をセットアップしたサービスを展開する方針である。こうしたストックを活用したビジネスで、同社は200億円の売上高を目指している。さらに、提案型サポートサービス「すごしかたコンシェルジュ」などにより、入居後のサービスを拡充する考えである。
高齢化により今後、元気なシニアが急増することが予想されている。しかし、一般的なシニアビジネスと言うと介護などと短絡しがちで、元気なシニア向けのビジネスの切り口が少ない。そこで、元気なシニア向けの需要を掘り起こそうというのが、アクティブシニア向けマンションである。「グランコスモ」シリーズは、元気なアクティブシニアを想定して企画された分譲マンションで、家事や身体的な負担を軽減するためシニアに配慮した設計になっているが、「サービス付高齢者住宅」や「介護付き有料老人ホーム」などと異なり、自由に暮らせる上資産としての価値が残る。そして、通常の分譲マンションと異なる点は、子会社コスモスライフサポートなどによる、病気・震災への対応や健康・安心につながる生活支援など、シニア向けに様々なサービスやサポートが用意されていることである。今後、政令指定都市や人口40~50万人以上の都市の、買い物や趣味、旅行、医療などの生活利便性の高い立地の開発をメインに、大和ハウスやグループの(株)フジタと連携した再開発・建替案件などで取り組みを積極化する意向である。
(2) ソリューション事業
ソリューション事業では、購入から運営、売却までのあらゆるソリューションをワンストップで提供、一方、サブセグメント間でシナジーの強化やオペレーションの効率化を進める。フロービジネスである投資用不動産では、商品の多様化を目指した開発に加え、中古ストックの再生とブランド化を強化しているほか、宿泊需要が拡大している訪日外国人向けに、アパートメントホテルを新たに業態開発した。同事業では、近い将来400億円の売上高を目指す。
ストックビジネスとなる不動産サブリースでは、住宅からビルなどへと賃貸の領域を拡張、管理戸数や管理面積の拡大とオペレーションの効率化を推進する。サービス面では、不動産コンサルティングにおいて、同社の幅広いネットワークを使ったソリューションビジネスや、不動産健康診断サービス会員の拡大などを進める。これにより、売上高300億円を目指す。
同社は新たに、アパートメントホテルの開発と運営に乗り出した。分譲マンションのノウハウを生かし、暮らすように滞在できるアパートメントホテル「MIMARU」を業態開発し、管理運営サービスを付けて売却する。フロー(開発)とストック(運営)の要素を併せ持つ事業である。主な特徴は、1)東京や京都、大阪エリアのターミナル駅周辺など交通利便性の高い立地、2)客室数40室程度、1室40平米程度の比較的小規模な物件で「和」を意識したデザイン、3)寝室とリビング・ダイニングを全室に確保、ミニキッチンに食器や調理器具を常備し4名以上でも快適に過ごせる空間の提供、4)日本に珍しい1室当たりの料金設定(3万円程度)——などである。
3~5人の集団で宿泊できる広さを持ち、1人当たりの宿泊料金の安い施設が日本に非常に少ないため、競合もあまりないと思われる。また、アジア系中心に家族旅行の訪日外国人旅行者の利用が見込めるため、ニーズは大きいと思われる。民泊が一応のライバルと言えようが、客層や利用動機が違う上、安心・安全・便利という点で寄せつけない強みを持つと考えられる。拡大するターゲットに対し使いやすいスタイルの宿泊を新たに提案している点で、アパートメントホテルの先行者メリットも大きそうである。収益源は開発後の売却益とその後の運営収益だが、人気のため比較的高く売却できるようだ。2020年までに1,500室の開発と運営を目指している。
(3)工事事業/海外事業
工事事業では、住宅やオフィスにおけるサービスの拡充や、建築受注の確保と投資不動産の改修工事の拡張を目指す。海外事業では、シドニーでのマンション開発などオーストラリアとニュージーランドにおける大和グループの海外戦略に積極的に関わり、サービスアパートメントの運営事業への参画も目指す。海外事業、工事事業で近い将来150億円を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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