窪田製薬HD Research Memo(3):スターガルト病治療薬、PBOSで次の開発ステージに進む(1)
窪田製薬ホールディングス<4596>の現在の開発パイプラインは、医薬品でエミクススタト(増殖糖尿病網膜症、スターガルド病)、ラノステロール類縁低分子化合物(白内障及び老視)、遺伝子療法(網膜色素変性)、バイオミメティックス(糖尿病黄班浮腫及びウェット型加齢黄斑変性)の4品目、医療デバイスで在宅・遠隔医療モニタリング機器のPBOS1品目となっている。各開発品目の概要と今後の開発スケジュールは以下のとおりとなる。
1. エミクススタト
エミクススタトについては、地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性に対する開発が終了したものの、臨床試験の結果から、視覚サイクルを制御する網膜内の異性化酵素であるRPE65の働きを阻害することが確認されており、RPE65の働きを阻害することによって治療効果が期待される疾患での研究開発を進めている。具体的には、増殖糖尿病網膜症や希少疾病であるスターガルト病での開発を進めている。
(1) 増殖糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は糖尿病の3大合併症の1つで、患者数は2015年に全世界で1億500万人と推計されており、糖尿病患者数の25%以上に相当する※1。日本では中高年の失明原因の2位にもなっている主要疾患である。地域別では、米国で約1,038万人、ユーロ圏で約1,124万人、日本で約286万人が罹患している。また、病態は単純期、前増殖期、増殖期へと進行し、同社が現在開発対象とする増殖糖尿病網膜症の患者数については、世界で1,900万人超が罹患しており、2020年までに約2,200万人に達すると予想されている※2。
※1 国際糖尿病連合「糖尿病アトラス第7版2015」
※2 Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015
糖尿病網膜症とは、慢性的な高血糖により網膜内の血液の流れが悪くなることで、毛細血管瘤を引き起こし、血管新生や眼底出血によって視力が低下していくもので、病態は日常生活に支障を来さない非増殖期から増殖期(新生血管の発現・増殖)と段階を経て進行し、最終的に失明に至る疾患である。また、糖尿病網膜症の合併症で、網膜内の血管から水分が漏れ出ることで黄斑に浮腫を引き起こす糖尿病黄斑浮腫になると視力への影響も大きい。
治療法としては、非増殖期(単純期、前増殖期)は経過観察が一般的となっている。増殖糖尿病網膜症と診断された場合は、レーザーによる網膜光凝固術や硝子体手術のほか、抗VEGF薬(新生血管の増殖・成長抑制剤)の眼内注射投与が、また、糖尿病黄斑浮腫では抗VEGF薬やステロイド剤の眼内注射投与、あるいは硝子体手術などが行われている。ただ、いずれも侵襲的な治療法であり、視力低下を引き起こす副作用のリスク(白内障や感染症、網膜合併症等)を伴う。同社が開発を進めているエミクススタトは経口薬であるため、低侵襲性で患者の身体的負担も少なく、副作用についても暗順応の遅延や軽度の色視症がみられたケースが臨床試験であったものの予後の影響はなく、安全性に関しては確認されている。開発に成功すれば同疾患に対する治療法を大きく変革する可能性がある。
同社では2016年4月より増殖糖尿病網膜症患者(18名)を対象に、安全性と有効性の評価を行う臨床第2相試験を実施し、2018年1月にその結果が発表された。発表によれば、プラセボ投与群との比較において、網膜症の発症や悪化に関連するバイオマーカーであるVEGF(血管内皮増殖因子)濃度の軽度改善が認められた一方で、他のバイオマーカーに関しては大きな変化が認められなかった。同社ではこの結果を受けて、さらに詳細なデータ解析を行い、今後の開発戦略を策定していく方針を示している。
弊社では、仮に臨床第3相試験に進むにしても、大規模治験実施のため多額な研究開発費が必要となるため、共同開発パートナーが現れることが前提となる。また、後述するスターガルト病の開発が順調に進んでいることもあり、増殖糖尿病網膜症に向けた開発については一旦、優先順位を引き下げ、共同開発パートナーが現れれば開発を再開していくものと見ている。
なお、糖尿病網膜症/黄斑浮腫を対象とした治療薬の市場規模は、2017年の約17億米ドルから2020年には約24億米ドルと年率13.3%成長で拡大すると予測されている。
(2) スターガルト病(遺伝性疾患)
スターガルト病は遺伝性の若年性黄斑変性で治療法がまだ未確立な希少疾病の1つである。患者数は日米欧で15万人弱、米国だけで見ると3.2~4万人と推計されている※。小児期から青年期における視力低下が主な症状として挙げられ、大半の患者は視力が0.1以下に低下すると言われている。
※Market Scope,「Retinal Pharma & Biologics Market」「UN World Population Prospects 2015」をもとに、同社が推計。
発症原因は、網膜内にあるABCA4遺伝子の突然変異によるものと考えられている。突然変異により視細胞から網膜色素上皮へのビタミンA輸送機能が損なわれ、リポフスチンの主要構成成分であるA2E(ビタミンA由来の有害副産物)が網膜色素上皮に蓄積する。このA2Eに起因する毒性により視細胞が障害され、視力低下や中心暗点などの症状を引き起こすメカニズムとなっている。現在、治療法はなく、網膜に黄斑等の異常が出ればレーザー光を用いて凝固し、症状の悪化を防ぐだけの処置にとどまっている。エミクススタトは動物モデルを用いた非臨床試験で、A2Eの蓄積を阻害する効果が確認されており、症状の進行を遅らせる効果が期待されている。
2017年1月より臨床第2a相試験を開始し(22症例)、2018年1月に試験結果が発表された。同試験では、エミクススタト投与1ヶ月後に、光退色光への曝露後における杆体(かんたい)b波の振幅がどれくらいの割合で抑制されるかを主要評価項目として実施したが、試験結果では杆体b波の振幅が最大90%を超える抑制効果が見られたこと、及び投与用量における安全性及び忍容性が確認されたことにより、主要評価項目を達成した。同社はこの結果を受けて、臨床第3相試験に向けた準備を進めており、既にFDA(米国食品医薬品局)と基本的な試験デザインについても合意していることから、2018年第4四半期(10月-12月)には臨床試験を開始できる見通しだ。希少疾病のため症例数も小規模で済む見通しであることから、同社単独で開発を進めていく方針となっている。
同社では今後、日本や欧州でも試験デザイン等の条件が合えば開発を進めていく意向を示している。なお、スターガルト病は希少疾病となるため、同社のエミクススタトも2017年1月にFDAよりオーファンドラッグ認定を受けている。競合薬の開発状況としては、サノフィ(フランス)が臨床第1/2相試験を行っている段階にある。
2. ラノステロール類縁低分子化合物(白内障・老視(老眼)治療薬)
同社は現在、ラノステロール類縁低分子化合物の開発を進めている。類縁低分子化合物とは、ラノステロールに類似した化合物を意味する。
白内障は眼の中でレンズ部分に当たる水晶体が変性したタンパク質の凝集によって混濁し、視力が低下する疾患を指す。白内障を発症する要因の大半は加齢に伴うもので、40代後半から発症率が上昇し、80歳までに70%の人が発症すると言われている。世界の失明原因の51%を占める眼科領域の主要疾患で、2015年のデータでは世界で約9億人の罹患者数が、2020年には10億人まで拡大することが予想されている※。
※Market Scope, Global IOL Market 2015
現在の治療法としては薬剤による根治療法はなく、中等度から重度の患者に対して人工の眼内レンズを移植する外科的手術が行われている。眼内レンズの手術件数は年間約2,830万件程度だが、そのうち約4割は欧米、日本などの先進国で占められている。手術に要する費用は日本で約20万円(単焦点眼内レンズで片目の場合)だが、投薬、入院費用、その後の矯正手術なども含めると、白内障手術にかかる総医療費は世界で数兆円規模に達することになる。また、新興国ではこうした手術を受けることすらできず、そのまま失明に至るケースも多い。このため、点眼薬による非侵襲的な根治療法が開発されれば、社会的意義の極めて大きい革新的な治療薬となる可能性がある。
白内障・老視(老眼)治療薬として開発を進めるラノステロール類縁低分子化合物は、現在、IND申請のための白内障モデルのラットを使った非臨床試験を進めている段階にある。開発スケジュールとしては2018年内の臨床第1/2相試験開始及びPOC取得を目標としているが、進捗状況はやや遅れ気味となっており2019年以降にずれ込む可能性もある。
白内障治療薬については、米国のバイオベンチャーであるViewPoint Therapeutics(2014年設立)が、ワシントン大学及びミシガン大学の研究室で開発された技術をもとに化合物の開発を進めているようだ。開発ステージは非臨床段階であり、開発する化合物は生体物質ではないと見られている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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