カンロ Research Memo(3):菓子業界に精通する三須社長
2. 組織と機能
2016年に代表取締役社長に就任した三須和泰(みすかずやす)氏は、三菱商事<8058>時代から食品事業に携わってきた関係で菓子業界に精通している。また、カンロ<2216>の経営の舵取りをするに当たって、本社の各本部、工場、支店などすべての事業所を訪問し、直接現場を見ながら社員とのコミュニケーションを図ってきた。このため、2016年夏には早くも中期経営計画「NewKANRO 2021(後述)」を策定することができたのである。
この中期経営計画に沿って同社を運営していくトップマネジメント陣には、専務に経営企画や情報システムを担う羽田英之(はだひでゆき)氏と管理担当の森本憲治(もりもとけんじ)氏を置く。常務には営業を統括する水田豊重(みずたとよしげ)氏とSCMや品質を担う石川和弘(いしかわかずひろ)氏、執行役員には豊洲研究所長の加来俊治(かくしゅんじ)氏、3工場と生産子会社を管掌する山本寿男(やまもとひさお)氏、企画・マーケティングの田邉信男(たなべのぶお)氏という布陣である。組織的にはさらに新グミライン導入プロジェクトもあるが、これは後述する。
3. 製品の特徴とマーケティング
飴は、主成分の水あめと砂糖に添加物を加えて作る非常にシンプルな製品である。このため、新規参入障壁は低いと考えがちだが、実は主成分や添加物の配合や製法による味と品質の違いが大きく、いまだに小規模メーカーが数多く存在する理由にもなっている。シンプルだからこそ難しいのである。カンロ<2216>にはそうした配合や製法に関する膨大なノウハウが100年を超えて蓄積されている。
同社の製品は、こうしたノウハウをベースに、新たなニーズやウォンツを掘り起こすことで作られてきた。このためロングセラーやヒット製品が多い。例えば、「ボイスケアのど飴」は音楽大学声楽科と共同開発しプロの声楽家などに愛用されてきたが、その後カラオケ愛好者などへと購買層が広がっていった。「健康のど飴」は仕事や趣味の場でのどを酷使する人に提案することでヒットした。また、カロリーを気にする購買層向けに提案した「ノンシュガー飴」は、砂糖不使用ながら飴の味わいを犠牲にしない製法が特徴になっている。2017年3月に発売された、「パティスリー界のピカソ」と言われるフランスのパティシエであるピエール・エルメ氏とのコラボ製品の「ピエール・エルメの新味覚キャンディ イスパハン」は、日本の飴文化とフランスの砂糖菓子文化の組み合わせが、おしゃれで食の意識の高い消費者の注目を集めている。このように長年の独自ノウハウを利用した製法とライフスタイルに基づいた提案が、同社差別化の根源になっていると言える。しかも、ライフスタイルという言葉のない時代からライフスタイルを提案してきたのである。
同社のロングセラーで社名にもなっている「カンロ飴」がある。「カンロ飴」が作られた時代は戦後まもなくである。当時同社は宮本製菓株式会社という社名で、「宮本のドロップス」のヒットなどにより地域では有数なキャンディメーカーになっていた。しかし、戦後の物不足で主原料である砂糖価格が上昇するなか、打開策として画期的な製品を作ろうと、レシピの添加物にしょうゆを持ってきたのである。似たような発想をしたメーカーも多かったらしいが、しょうゆの塩分のせいでべたつきや焦げつきが発生し、製品化できたのは同社のみだったということである。
日本人にとって懐かしい味のする「カンロ飴」は大ヒットし、それにちなんで宮本製菓株式会社からカンロ株式会社へ社名を変えたのは前述したとおりである。マーケットインしたライフスタイル提案ばかりでなく、この「カンロ飴」のようないいモノを作るというメーカーとして根源的な発想によるプロダクトアウトの製品も、技術志向の同社から度々ヒットが生まれる理由となっている。近年では濃厚な味わいで他の追随を許さない「金のミルクキャンディ」が代表例である。
秋冬商戦に向けて現在も、同社は新しく付加価値の高い製品を作り続け、特に小売の棚を取るためのラインナップ増強に力を入れている。のど飴ではロングセラーの「健康のど飴」に「たたかう乳酸菌」など「たたかう」シリーズを新たに投入。たたかうのど飴キャンペーンを9月半ば以降に展開する計画である。素材のおいしさを最大限に生かす製法で作られた無香料で無着色の「ありのままに」シリーズでは流通別製品政策を導入、9月に「卵とミルク」「はちみつ黒糖」「すりおろし林檎」を全国一斉発売する。このうち、「すりおろし林檎」はコンビニ限定で8月に先行販売する予定である。また、「イスパハン」のヒットで同社の技術力を高く評価したピエール・エルメ氏の要請により、コラボ第2弾となる新味覚キャンディ「アンヴィ」を9月後半に投入する計画である。
パッケージリニューアル後、インスタグラムなどのSNSにアップする「フォトジェニック消費」が拡大するピュレグミだが、10月に48種のパッケージを用意してピュレフォトキャンペーンを実施する。同時に9月3日グミ市場の活性化に向けて、日本グミ協会及び春日井製菓(株)、カバヤ食品(株)、UHA味覚糖(株)という国内グミメーカーとタッグを組み、G7・サミットに引っ掛けた「GUMMIT」という共同プロモーションを展開する予定である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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