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令和3(2021)年の回顧と令和4(2022)年の展望(元統合幕僚長の岩崎氏)(1) 【実業之日本フォーラム】


昨年2021年も残念ながらコロナで始まり、結果的にコロナで終わった。今回のコロナ・ウイルスは、令和元年(2019年)11月から12月にかけて、中国武漢市近辺で確認されたことから、当初「武漢ウイルス」と呼ばれていたが、中国の強い抵抗にWHO(世界保健機関)が屈し、Covid-19なる名称となった。2019年に発見されたCoronaVirusとの事がその理由であるらしい。

私は、この命名に若干の違和感を感じたが、最近のこの種の味わいのない命名は、時代の流れかなと思いつつ、「スペイン風邪」や「日本脳炎」、「エボラ出血熱」も修正が必要かもしれないと思っているのは私くらいだろうか。

我が国では、このCovid-19が武漢市周辺で発見されて間もない翌年(令和2年)の1月下旬、ダイヤモンド・プリンセス号(香港経由で横浜港入港)で最初の感染者が確認された。これ以降、我が国では、これまで拡散・収束の波を繰り返し、昨年までに5波を経験している。

昨年の9月末で東京都をはじめとする一部地域で出されていた緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置に係る各種制限が解除された以降、ワクチン効果と相まって新規感染者数及び重症者数も激減し、好ましい方向で推移していたものの、昨年末からの世界各地でのオミクロン株の出現・拡散により、我が国でも厳戒態勢で臨んだものの、徐々に各地で市中感染と思われるオミクロン株による感染者が続出し、再度の蔓延防止等重点措置宣言を発出する地域が増えている。

今回のオミクロン株は、前回のデルタ株と異なり、かなり進化した変異株であり、拡散速度がこれまでよりも数倍早く、残念ながら我が国では、感染第6波に突入した。

さて、この様な状況であるものの、今回は、令和3(2021)年を振り返り、今年(令和4年/2022年)を展望してみたい。

1.令和三年(2021年)の回顧
私は、昨年の初めに、令和3(2021)年の懸念事項として5項目を指摘した。
(1)「長引くコロナ被害」
(2)「不安定な米国」
(3)「益々増長する中国」
(4)「サイバー・宇宙競争が更に加速」
(5)「我が国の政情不安」

自己評価としては、満足できるレベルではないものの、世界も、我が国も、残念ながらほぼ予測どおりに推移したのではと考えている。

Covid-19に関しては冒頭で述べたとおりであり、それ以上加筆すべきことはない。早くどんな変異株にも有効な特効薬が開発され、収束を願うのみである。また、サイバー・宇宙に関してもほぼ予測どおりに推移し、サイバーによる被害は年々拡大する傾向にあり、宇宙も、その利用に関して年々競争が激化してきている。ここでは、「米国」と「中国」及び「我が国の政情」に関する項目についてコメントしたい。


(1) 不安定な米国(バイデン政権)
私は、昨年の年初に不安定化する米国への心配を指摘した。一般的には、どこの国や地域でも、国家元首や政権交代時期には、一時的に各種政策・行政が滞り、不安定な期間になることがあり得る。私は、2019~2020年の米国の大統領選挙キャンペーンを見て、バイデン政権に対し、これまで以上に不安を抱えたスタートになるのではとの感覚を覚えた。理由はいろいろあるものの、大きくは2つである。

1つは、米国内の分断であり、もう1つは、対中国政策への不安である。この他にも、米国内の経済の疲弊やワクチンの問題、外交・安全保障に関する北朝鮮の核開発や弾道弾対応問題、ロシアのインド太平洋諸国への進出とウクライナ周辺での不穏な活動対応、そして、対イラン対応、トルコ問題等々、問題が山積み状態である。これまでの大統領が受けた試練以上に大きな問題を抱えてのスタートであった。



米国内の分断問題も鎮静化するどころか、より先鋭化してしまっている。また、バイデン大統領は長年政治に携わってきているものの、昨年は、各種手続きや案件で議会との連携や調整がうまく機能していなかったのではと思われることが屡々であった。人事に於いては、政府の然るべきポスト以上への配置には議会承認が必要であるものの、議会承認が遅く、未だに配置されていない職も多くあり、体制固めが出来ていない部分も多くある。

日本は「最も重要な同盟国」と言いながら、米国大使が約2年間も不在である。昨年12月に漸く議会承認され、もうじき米国大使が東京へ赴任することになるが、異常な事態である。この様な状況で危機管理や事態対処がうまく機能したのか疑問を持たざるを得ない。危機管理は「結果が全て」である。いくら努力しても、期待された結果が出せなければ意味がない。これでは、とても狡猾な中国やロシア、北朝鮮に対し有効な対応がとれていたとは思えない。

バイデン大統領は、選挙期間中から「同盟国への回帰」を宣言していた。果して、トランプ大統領時代よりも同盟国とのコミュニケーションがとれていたのであろうか。アフガン撤退問題やAUKUS協定締結、米露及び米中首脳会談等々、成果を挙げることが出来たのだろうか。

昨年末、バイデン大統領は、史上初となる「民主主義サミット」を開催した。これは、バイデン大統領が選挙期間中から提唱していたものであり、最近の権威主義的な国の急速な増加に危機感を抱いた事からの提案であった。バイデン大統領は、結果的に109の国・地域を招待した。東南アジアでは、フィリピン、マレーシア、インドネシアの三ヶ国のみの招待であった。シンガポールは招待されていない。また、トルコ・ハンガリーはNATO加盟国であるが除外されていた。米国は、フィリピン、ナイジェリア、パキスタンに対し「重大な人権問題がある」と非難していたにも拘らず、これらの国々を招待した。米国の判断基準が理解できない。

私は、この企画は、基本的には素晴らしい考えであると思う反面、危険性も秘めているのではと考えていた。もし実行する場合には、G7やG20等の既存の会議体を使うか、新規の場合には、参集範囲の基準を明確にすべきであった。招待されなかった国々の中には、米国へ反発したり、嫌悪感を持つようになるのではとの懸念があった。私は、偶然にもサミットの直後に、米国から招待を受けなかった数ケ国の在京大使館職員と懇談する機会があった。彼らは、彼ら自身も納得していない口ぶりであったし、彼らが勤務している大使館員(大使も含む)の中には不満を持つ者もいるとの事を漏らしていた。大変残念なことである。より実りある成果を期待するのであれば、米政府内で、より深い検討と綿密な計画及び実行に当たって宣伝が必要であったのではと思えてならない。

また、「同盟国への回帰」であれば、各同盟国の考え方を聞いても良かったのではないだろうか。各同盟国は、地域周辺の事情をつぶさに認識しているだろうし、第三者的な中立的な意見を持っているからである。アフガンからの撤退作戦でも同じである。果して、どこまで同盟国と情報共有していたのだろうか疑問である。これでは、トランプ時代とあまり変わっていないのではと思わざるを得ない。この様な事では、世界をリード出来る筈がない。残念な結果である。


但し、我が国との関係では、大きな成果を残した事象もある。その1つが、菅総理とバイデン大統領とが対面での懇談を行い、「台湾」の名称を日米の合意文の中に出すことが出来たことであり、また、もう1つが我が国では、あまり大きく報道されていない「CoRe協定(競争と強靭性に関する日米協定)」に調印し、日米で最新技術や先端技術の共同開発をしていく事を約束したことである(出資;日本$20億、米国$25で合意)。

これは大変大きな成果で、今後、このCoRe協定を基礎に世界の先端技術を日米でリードしていくべきであり、それが出来る体制が確立されたと言える。そして、昨年の日米間の共同訓練もこれまで以上に進化してきている。また、日米を中心に豪、印、英、仏、独等との協同訓練も拡大しつつあり、対中国・露抑止の観点から、大きく前進した年になったことはプラス成果であった。


「令和3(2021)年の回顧と令和4(2022)年の展望(元統合幕僚長の岩崎氏)(2) 【実業之日本フォーラム】」に続く




岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:ロイター/アフロ

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