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中国的特徴に満ちた危機の一年(2)【中国問題グローバル研究所】


【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、「中国的特徴に満ちた危機の一年(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。


「行く手には困難な年月が待ち受けるのみ」
2年前のコラムで、来たる2020年代に中国がどれほどのことを実現できるか考察した。 そして、経済的なストレスと、地政学的情勢の悪化の両方に直面しているため、中国の行く手には困難な年月が待ち受けるだけだと書いた。そのコラムから数ヵ月もしないうちに、中国と世界は、中国で最初に確認されたウイルス、COVID-19の流行に巻き込まれた。だが中国は、非常に厳しい規制措置をとり、数ヵ月のうちにほぼ正常な状態に戻りつつあった。

欧州、また特にアメリカと比べると、中国の統治モデルが勝利を収めたように見えたが、それもすべて過去のことだ。感染者数と関連死を成功の唯一の尺度とするのであれば、中国は依然として他国よりも優位な状況にあると言えるが、ただしパンデミックとは、複雑かつ動的なシステムである。 以前中国が直面していたウイルスはもはや流行しておらず、国民が接種したワクチンの効果も比較的弱くて持続期間も短い。中国型モデルは、世界中でこの感染症がエンデミックとなった状況での生活について、他国の参考にはならないのである。2020年の中国の成功は、パンデミック後の世界において中国を優位な立場にすることはなかった。そして、国境を超えた移動が事実上存在しないため、中国は、世界から厳重に封鎖された状態を続けている。

新型コロナウイルスだけではなく、中国の経済モデルがほぼ行き詰ってしまったことで、困難な年月が続くことが予想された。増大する若い労働力を携え、WTO加盟の恩恵を受けながら容易に成長を遂げていた時期は、すでに過ぎ去った。過去10年以上にわたり、中国は、経済に投入する信用とレバレッジを増やしてきたことで、成長率を次第に低下させてきた。 華融と恒大の失敗は、その明らかな証拠である。リーマンショック後の信用拡大について警告が発せられていたにも関わらず、中国指導部の最上層部は、2016年になるまで、メッセージを真の意味で理解していなかった。それ以来、一連の信用拡大抑制が試みられてきたが、その結果は玉石混淆となっている。

中国恒大集団の凋落は、政府の「三道紅線」政策によって、多額の負債を抱えた不動産会社の資金調達力が大幅に制限されたことに端を発したと考えて間違いない。そうである以上、政策を変更し、信用拡大を図ればいいはずだ。 だが、指導部はあえてそうしないことを選んでいる。鶴崗のような都市はすでに債務に苦しんでおり、北京中心部、長江デルタ、広東省といった地域の外側においては、さまざまな州が、限られた歳入ではカバーしきれない負債を抱えているのだ。

これほど多くの経済的打撃を受けていながら、中国経済は全般的に順調に見える。それはなぜだろうか? 逸話的なストーリーに目を向ければ、企業に対する締め付けが広く支持されているように思われるだろう。 その一因となっているのが、政府による巧妙なメッセージの発信だ。

習近平氏は、党の覇権の下で中国を再生させるという壮大なビジョンを持っており、民間部門への締め付けを説明し正当化する「共同富裕」というスローガンを打ち出してきた。 国内の大手テック企業による独占または複占に対する取り締まりは、確かに国民の人気を集めた。ギグエコノミーの配達員の賃金と労働条件向上の必要性が認められたことも、同じく好評であった。実際に先進国においても、そうした施策は、多くの人から歓迎されるはずだ。 テック企業や億万長者が多額の慈善的な寄付を迫られていることも、人気のある施策だが、中国において適切に機能する公平な税制度は導入できておらず、それらを補うものとはならない。

また、オンライン教育の取り締まりについても、教育サービスのプレッシャーとコストを嘆いていた親たちから歓迎されているが、根源的なプレッシャーがまったく変わっていないことについてはそれほど詳しく報道されていない。名門大学への入学試験や公務員試験の受験競争がなくなったわけではなく、一人っ子を成功させなくてはならないという親のプレッシャーも消えてはいない。 習近平氏は、問題そのものに取り組むのではなく、根本的な問題が示す症状を解消することに重点を置いてきたのだ。

そして中国共産党は、一人っ子政策を放棄した現在、低下が続く出生率を増加させるべく、各家庭が2、3人の子を持つことを望んでいる。「共同富裕」は、家庭の金銭的負担を減らすことを目的としているが、その中身は希薄である。不動産市場の締め付けについても、多額の支出なしに1部屋か2部屋ベッドルームを追加しようとする家庭にとって合理的な水準まで不動産価格を押し下げることはほとんどない。アジアには、出生率の低下を覆すことに成功した国はいまだになく、習主席のギミックやスローガンでは、この点において中国に影響を及ぼすことは何も起こらないと思われる。

締め付けがもたらす遺産
現在のところメッセージが機能しているとはいえ、習近平氏による民間セクターの締め付けの影響は、長期的にはあまりポジティブなものにならないだろう。テック業界は、国内で最も優秀な人材を集めており、深センは、中国全土でおそらく最高の都市となっている。

だが習主席は、インターネットプラットフォームタイプのテクノロジーを評価していないと思われる。世界最先端のチップの設計であれば大いに気に入るであろう彼にとって、オンラインゲームやサービスは、それが適切だと思えば規制できる便利な存在だ。規制の変更は、現在も相次いでおり、いずれは、このセクターの魅力や国内の若者からの人気を押し下げることになるだろう。外資の反応に関して言えば、今もなお、2021年に被った様々な痛手に動揺している状況だ。外資は、2つの面で打撃を受けてきた。まずは、どのセクターが投資可能かであり、該当セクターの企業をどこで上場できるかという投資規制関連の問題だ。だがそれに続いて、ビジネス規制と言うべき第2の打撃が発生した。すなわち、党が成果を左右したい領域において、企業自体が希望どおりに成長することを、政府がはたして許すだろうかという問題である。

2021年は、中国のリスクプレミアムを有意義な形で是正すべき年であった。 国内企業にとっても、海外投資家にとっても、ゲームの規則が完全に変わってしまった現状では、過去はまったく未来への指針とはならない。 皮肉なことに、中国の株式や債券には、2021年も資金が集まり続けた。 中国の人民元は依然として厳しい資本統制と規制を受けているが、国内証券にアクセスする正式なチャンネルは十分にあるため、多くの投資家が中国への投資を拡大している。 だが、この資金は、入ってきたときと同様に簡単に出ていく可能性があり、中国の指導部には、短期の投資資金の流入が優れたビジネス環境の代わりになると勘違いしないことが望まれる。

そして2022年の焦点は間違いなく、習近平氏が党総書記として3期目を迎えると予想される、第20回党大会にある。 そのためには、あらゆる犠牲を払っても安定が必要であり、中国における安定は、統制によってもたらされる。習主席が、規制による締め付け、企業への締め付けを緩めるとは絶対に予想すべきではない 彼は、国家の支配に力を注ぐ人物だ。そして、当面のところは、何が起きようとも彼を止めることはできないと思われる。

「中国的特徴に満ちた危機の一年(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: AP/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/



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