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暗号資産後進国、日本:重要なのは頭脳、インナーサークルと気概(橋本欣典氏との対談)(1)【実業之日本フォーラム】


【ゲスト】
橋本欣典(チューリンガム株式会社 COO)
東京大学大学院経済学研究科金融システム専攻。日本取引所グループでは日本証券クリアリング機構にてクオンツとしてIRS、CDS、上場デリバティブ、現物株の証拠金アルゴリズムの高度化に従事。その後bitFlyerの経営戦略部にて、デリバティブ商品設計、仮想通貨AML 体制構築などに関わったのち、BUIDLにてリサーチャーとして交換業向けコンサルティング、アドレストラッキングツールのアルゴリズムを開発。また、Scaling Bitcoin 2019 にて論文を発表。

【聞き手】
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

■資本と頭脳の流出
白井:2021年8月のブルームバーグでの中島金融庁長官のインタビューでは、2018年のコインチェックなどのハッキングを受けて日本における暗号資産業界への規制が強化され、現状では多数の投資機会があるアメリカに比べ、日本は大きな制限があると説明されています。暗号資産の送金に対する潜在的なメリットには理解を示されていますが、暗号資産投資に対しては慎重な姿勢を崩していません。このようなことから、多くの日本の暗号資産交換業者の経営状態は、かなり厳しいという認識を示しております。

私は、顧客保護やマネーロンダリング対策は非常に重要であると考えていますが、同時に海外と同様の投資機会を日本でもつくるべきだと思っています。

1960年代、1970年代あたりまでは、国際的な金融資本移動は規制されていました。規制という塀を立てて、お金という水が流れていくことを制限していたのです。しかし、現在では国際的な金融資本移動は解禁されており、さらに資本移動が非常に簡単なトークンの世界に今後なっていくとすれば、国内の資本は海外にある有利で興味深い投資へ流れていくのではないでしょうか。

橋本:このままだと日本の資本は逃げるだけだと思います。多くの暗号資産投資家が言う通り、日本の暗号資産交換業者に顧客保護のための規制を幾ら強いたとしても、その結果として、交換業の規制対応コストが増え、1回当たりの取引で相当な手数料を取らないと交換業を経営していけないビジネス環境になっています。あるいは、投資家保護と銘打って変なトークンを買わせないように上場審査のプロセスを厳しくし、国内の暗号資産交換所でトークンの多様性を実現できなくしてしまうと、結果的に海外の暗号資産交換所に国内の資本は逃げていってしまいます。過保護な親から子供が逃げるのと同じです。守るべき対象はどんどん海外に出て行ってしまうのです。

昔だったら塀を建てることもできたでしょうが、このご時勢ではそれも難しいでしょう。特に暗号資産の世界では塀を作りようがありません。取引所から買ったビットコインを外に出させない、自分のウォレットにも出すことができないようにしてしまえば塀はできますが、そうすると一体何を取引しているのかわかりません。暗号資産のサービスを全面的に禁止しているのと同じです。そこまでやらない限り、海外に国内の資本は出て行ってしまうでしょう。

国内の暗号資産交換所にとどまっている顧客が守られるとしても、海外に出て行く人が増えてしまうのであれば、結果は逆効果です。今の規制はその点を考慮しているとは思うのですが、「海外に出て行く人は対象ではない(から関係がない)」というポリシーでいるから、こういった事態になっているのではないのでしょうか。

白井:香港でもシンガポールでも海外からの資本と頭脳を集めて国を盛り上げています。輸出立国で製造業中心というのが高度経済成長時の日本のあり方でしたが、バブル崩壊後の失われた数十年を経て、日本は次世代の産業を育てられずにいます。成熟債権国から溜め込んだ外貨を吐き出していくという債権取崩国への転落の可能性を想定するのであれば、世界からお金を集めていくことを考える必要があると思います。しかし現状の日本では、自ら資本流出を後押ししているように思えてなりません。

昨今の香港を踏まえ、日本が金融立国を目指す取り組みも議論されています。しかし、様々なしがらみがある既存の金融よりも、デジタルでの金融立国を目指した方が早いかもしれません。海外から頭脳とデジタルマネーの投資を呼び込むためにはどうすればよいでしょうか。

橋本:金融庁は顧客保護を目的として、国内にとどまる人を守るという使命感から、さまざまな規制を敷いています。マクロ的な視点がすごく弱い、というか、白井さんが指摘された資本の移動という視点を持ち込まない形で方針を考えているのでしょう。マクロ的な発想を持たないタイプの人、マインドセットのない方々が多いのかもしれません。これでは幾ら優秀な人材を規制当局に配置しても変わらないのではないでしょうか。すごく悲観的です。

もし、マクロ的視座を持ったうえで、下手をうっているのだとしたら、考えて直して、再度実行するという学習ループが働く土俵はあるということであり、白井さんがおっしゃるようなことが実現できるかもしれません。

こうした事業環境を受けてか、日本のブロックチェーン領域に立脚する企業は、その数が限られています。私が率いている会社(チューリンガム株式会社)、日本円のステーブルコインを発行している会社、LayerXのようにブロックチェーンで何らかのビジネスを展開する会社などを入れても5社とか6社。もっと広げてもせいぜい10社ぐらいでしょう。

一方、自分で立ち上げるケースではなく、どこかに属すのであれば、地理的な要因が影響します。福岡にブロックチェーンのすぐれた会社がありますが、そこで働くには福岡に行く必要があります。東京の人は行かないとなると、それだけで候補が3分の2になってしまいます。

その他の要因としては、主要な人物のキャラクターなど、まさにインフルエンサー的な要素でしょうか。カリスマ性かはわかりませんが、そういうところを基準に選ぶ。それなりに各社、毛色が違います。どこも合わないのであれば、自分で会社を作ることになるのでしょう。また、大学を中退して起業するパターンも多くなってきていますし、それが普通になってきているようにも思います。学業に時間を使うくらいなら、好きな人と好きな仕事をしたほうが楽しいからです。同じ方向を見ていそうな人が集まったところから、何となくプロジェクトが始まっていくのが、ブロックチェーン業界でのよくあるパターンではないでしょうか。

しかし、日本の暗号資産に対する税制は非常に問題があります。暗号資産の期末の時価評価やICOで集めた暗号資産の売上計上は、ベンチャー企業にとっての大きな資金負担となり、暗号資産の利益が雑所得として課税は、個人投資家の投資意欲を減退させます。

このため、日本の多くのブロックチェーン技術者が海外に移住していますし、実は私達もシンガポールに会社を移転させました。シンガポールでは多くのブロックチェーン企業や技術者がおり、横の継がりがビジネスの助けになります。日本ではビジネスにならないという感覚になっています。しかし、すべてのハイテクベンチャーや頭脳が流出しているわけではありません。たとえば、AI分野では日本での環境は悪くないと思います。パークシャテクノロジーやプリファードネットワークスなどは、世界で通用する会社です。セクターごとにみる必要がありますし、制度設計する人はそれぞれの分野に土地勘持っていたほうがいいと思います。それによって、多少は頭脳流出を防げますし、もしかしたら海外からの流入も期待できますが、成熟した資本市場やファンドなどのエコシステムが脆弱なのは弱点ですね。

「暗号資産後進国、日本:重要なのは頭脳、インナーサークルと気概(橋本欣典氏との対談)(2)」に続く

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・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える

(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする


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