駐日米国大使「ファーウェイは国有企業」発言を検証する(3)【中国問題グローバル研究所】
◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー
所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)
研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)
研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)
◇以下は、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察「駐日米国大使「ファーウェイは国有企業」発言を検証する(2)【中国問題グローバル研究所】」」の続きとなる。
◆なぜトランプ政権はファーウェイを集中攻撃するのか
トランプ政権は攻撃の相手を間違えているのではないのか。なぜトランプ政権は中国政府そのものであるような国有企業のZTE(中興通訊)やユニグループ(清華紫光集団)をターゲットにせず、中国政府と距離を置いてきたファーウェイを目の仇にするのか。それはファーウェイの技術がアメリカを超えそうだからだろう。
特に5G(第5世代移動通信システム)の開発においてファーウェイは世界のトップに躍り出て、アメリカのハイテク界における王者の地位を脅かしている。5Gに出遅れた国は、スマホだけでなく、IoT(物のインターネット)やスマート・カー(自動運転)などの今後の通信社会インフラ構築において王者の地位を退かねばならなくなる。それは世界の覇者の地位からの転落を意味する。
だというのに、ファーウェイは5Gスマホにおいて最先端を行っているだけでなく、その基地局のベンダーとしても世界一の地位を築きつつある。
2018年末に発表されたモバイルインフラ市場のシェア(IHSマークイット調べ)によれば、2017年度の基地局シェアは「ファーウェイ27.9%、エリクソン26.6%、ノキア23.3%、ZTE13.0%、サムスン3.2%、NEC1.4%、富士通0.9%……」と、中国勢が圧倒的に高いシェアを誇っている。
このデータの中で最も注目しなければならないのは、なんと、大手ベンダー企業の中に「アメリカ企業がない!」という驚くべき事実だ。
アメリカがなぜ基地局事業から撤退したかに関しては話が長くなるので省くが(少なくとも技術的理由ではなく、商業的理由だったが)、結果的には5Gを中心とした次世代の通信社会インフラに関して、中国がアメリカを抜いているという厳然たる現実がある。
基地局は2Gをはじめ3Gや4G時代のものが既に世界各地に設置されており、それをゼロから入れ替えるには多大なコストがかかる。それでもアメリカは何としてもファーウェイを倒したい。だから、どのような理由でもつけてくる。
◆アメリカのロジックに脆弱性を与えるな
しかしもしアメリカが中国共産党による一党支配体制を打倒したいのなら、ZTEやユニグループのようなハイテク産業を主導している国有企業を狙い撃ちしなければならない。彼らは中国政府そのものであり、中国共産党と共にいる。
ファーウェイを攻撃すれば、これまで中国政府と距離を置いていた民間企業のファーウェイも中国政府に近づかざるを得ないところに追い込まれる。中国政府側も、これまではファーウェイを虐めていたくせに、ここまで強大化してしまうと、国有企業にとっては「あまり好ましくない」民間企業でも、それが「中国の企業」であるが故に、支援せざるを得なくなっているのが現状だ。5Gにおいて最先端を行くとなればなおさらだろう。
このロジックを理解しない限り、アメリカの戦略に脆弱性を潜ませる余地を与えることになる。それを憂う。
なお、ハガティ大使が触れている法律(国家情報法)だが、ファーウェイの任正非CEOは、各国からの関連質問に対して「これまで中国政府から何も要求されていないが、もし情報を出せなどと要求されたら、ファーウェイという会社を閉鎖する」と何度も回答している。
また中国政府は「国家情報法」は海外の情報に関して管轄権を持たないと言ってもいる。しかし、憲法に「言論の自由を保証する」と明記しながら、言論弾圧をしている国だ。法律の条項に何が書かれていようと、中国の法治を信じる人はいないだろう。ここには十分な疑問の余地が残っている。
したがって、何としても一党支配体制を維持している中国を倒すという気持ちがアメリカにあるのなら、弁明の余地のない客観的事実を突き付けていかなければならない。それを望む。
追記(6月29日):本論考は6月15日に書いたものだが、6月29日、G20(大阪)における米中首脳会談の後、トランプ大統領は記者会見でファーウェイに対して5月15日に宣言した(米企業はファーウェイに半導体などの部品を売ってはならないなどの)制裁を緩和し、これまで通り販売を継続することを認めると表明した。米議会における公聴会で多くの米企業がファーウェイ制裁にビジネス上の不満を述べたからだという。これが「国民の声」を反映する民主主義国家の力でもあり、「普通選挙」が存在する国家の「(ある意味での)弱さ」でもある。しかしトランプ大統領は、「安全保障上の問題がないものに限る」という条件を付けたり、「エンティティリストから外すか否かは今後検討する」ともしているので、当分の間は慎重に今後の動向に注目していきたい。なお、なぜトランプ大統領がそれまでの意向を変えたかに関しては、別のコラムで詳細に論考しているので、そちらを参照していただきたい。
(この評論は6月15日に執筆)
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