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日経平均は3日ぶり反発、米ハイテク株高で安心感も実質金利上昇は気がかり


 日経平均は3日ぶり反発。82.73円高の26249.83円(出来高概算6億5575万株)で前場の取引を終えている。

 10日の米株式市場でNYダウは84.96ドル安と4日続落。金利低下などを背景に寄り付き後、一時大幅に上昇。しかし、クリーブランド連銀のメスター総裁が0.75ptの利上げも排除しない考えを示すと金融引き締め懸念が強まり、上げ幅を縮小。4月消費者物価指数(CPI)を前にした警戒感も強く、もみ合いの末に下落した。一方、長期金利が低下したことで、ナスダック総合指数は+0.98%と4日ぶり反発。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は+2.51%と大幅に反発した。ただ、前日に時間外取引のナスダック100先物の上昇を通じて米株高をある程度織り込んでいた日経平均は121.72円安からスタート。それでもSOXの大幅高などを背景に値がさハイテク株に買いが入るなか、好決算銘柄への買いも下支えし、下げ渋ると、前引けにかけてプラスに転じた。

 個別では、SOXの大幅高を追い風にレーザーテック<6920>、東エレク<8035>が大きく上昇。ファーストリテ<9983>、OLC<4661>、ベイカレント<6532>などの値がさグロース株も堅調。郵船<9101>や川崎汽船<9107>など海運株も高い。そのほか主力処では、決算を発表した任天堂<7974>、ソニーG<6758>、日本製鉄<5401>、ダイキン<6367>などが大幅高。任天堂は1対10の株式分割が、日本製鉄はガイダンス非公表も目標値の提示が好感されたもよう。東証プライム値上がり率上位には東邦チタニウム<5727>、レノバ<9519>、デクセリアルズ<4980>、ファイズHD<9325>、丸和運輸<9090>、IHI<7013>などの好決算発表銘柄が並んだ。一方、米長期金利の低下を受けて三菱UFJ<8306>、みずほ<8411>など金融が軟調。住友鉱<5713>、三菱商事<8058>、伊藤忠<8001>、太陽誘電<
6976>などは決算が売りに繋がり、大幅に下落。

 セクターでは海運、鉄鋼、精密機器などが上昇率上位に並んだ一方、保険、パルプ・紙、銀行などが下落率上位に並んだ。東証プライムの値上がり銘柄は全体の35%、対して値下がり銘柄は61%となっている。

 前日の米国市場で主要株価指数はまちまちだったが、ナスダックやSOXが反発したことが売り一巡感を意識させ、目先の安心感に繋がっている様子。一方、今晩に米4月CPIの発表を控えていることもあり、東京市場ではそこまで積極的な動きは窺えない。むしろ、MSOL<7033>やギフティ<4449>、ラクスル<4384>などの中小型グロース株で、本日も下落している銘柄が多いことが気がかり。マザーズ指数も下落しており、グロース市場銘柄ではBASE<4477>、メドレー<4480>などが下落している。

 10日、米10年債利回りは2.99%(前日比-0.04pt)へと低下し、5月4日以来、再び3%を割り込んだ。一方、期待インフレ率の指標とされる米10年ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は2.65%(同-0.10pt)と大きく低下。先週末6日時点では2.86ptであったため、2日間で0.21ptと大幅に低下した格好だ。

 今週に入ってから、アトランタ連銀のボスティック総裁やニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁など、複数の連邦準備制度理事会
(FRB)高官から今後2~3会合での0.5ptの利上げを支持する発言が出たことや、上述したようにメスター総裁が0.75ptの利上げも排除しない姿勢を見せたことが、こうした期待インフレ率の低下の背景にあると考えられる。5月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でパウエル議長は、今後2会合での0.5ptの利上げに前向きな姿勢を見せた一方、0.75ptの利上げには否定的な見解を示していた。これを受けて、市場ではFRBがインフレ対応に後手に回ることで、後々に大幅な利上げを強いられるのではないかという懸念が生じていた。

 ただ、直近のFRB高官らの発言で、改めてFRBのインフレファイターとしての姿勢が確認されたため、期待インフレ率の低下に繋がったのだろう。FOMC後、米元財務長官のサマーズ氏やドイツの金融会社アリアンツの首席経済顧問を務めるモハメド・エラリアン氏など、著名な有識者らがこぞって、パウエル議長が0.75ptの利上げに否定的な見解を示したことについて「無責任」との厳しい評価を下していた。また、早い段階で選択肢を狭めてしまうのはFRBにとっても後々良くないと思われていたため、今回の一連の高官発言でFRBの信頼が回復したと思われることは一先ず安心感に繋がろう。

 一方、米国の名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利は、10年物で10日に0.35%まで上昇し、新型コロナウイルス・パンデミック後における高値を更新してきた。実質金利がプラス幅を広げてきていることは、より長い将来収益に基づいて株価が決まるグロース株にとってはネガティブだ。今日の東京市場で中小型グロース株が全般冴えないのは、こうした背景が重しになっているのかもしれない。

 今晩の米国市場では注目の米4月CPIが発表される。市場予想は総合が前年同月比+8.1%、変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアが+6.0%上昇と、いずれも3月(8.5%上昇、6.5%上昇)に比べて減速する見通し。一部のエコノミストは3月CPIでインフレピークアウトの兆候が表れたと指摘しており、モノに対する過剰な需要が弱まりつつあるなか、コアCPIは年内に一段と鈍化すると予想している。

 4月CPIでこうした見方が裏付けられることになれば、ヘッジファンドのハイテク・グロース株の持ち高比率が歴史的にかなり低いところまで低下し、空売り比率も高まっている米国市場を中心に、マーケットは反転のきっかけを掴むことになるかもしれない。ただ、米実質金利がじわり上昇してきていることは気がかりで、CPI後に短期的にあく抜け感が強まっても、実質金利の動向には常に注意を払っておいた方がよさそうだ。

 後場の日経平均はもみ合いとなりそうだ。時間外取引のナスダック100先物の上昇やアジア市況の上昇は支援要因になるものの、今晩の米CPIを前に様子見姿勢が強まりやすい。また、取引時間中に決算発表を予定しているトヨタ自<7203>の結果を見極めたいとの思惑もある。トヨタ自の決算と株価反応がポジティブなものとなれば、買い気が強まることも想定されるが、やはり本格的な動きは今晩のCPIを終えてからとなるだろう。
(仲村幸浩)
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