運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上-認知症の予防につながる介入方法が明らかに-
- 2024年09月05日 14:00:00
- マネー
- Dream News
この研究成果は、9月4日 午後8時(日本時間)に世界アルツハイマー協会の国際学術誌『Alzheimer’s &Dementia』に掲載されます。
【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000304165&id=bodyimage1】
図1:多因子介入による認知機能の改善効果
待機していたグループの認知機能(青線)に比べてプログラムを受けたグループの認知機能(赤線)は有意に改善していた(図の上方に行けば行くほど改善を示す)。
■ポイント
・多因子プログラムの実践(運動、脳トレ、栄養管理、生活習慣病の管理)は、高齢者の認知機能(頭の働き)を向上させる効果があることが実証された。
・本研究では、認知機能だけでなく、身体機能向上の効果も認められた。
・本成果をさらに発展させることで、日本各地により効果的な認知症予防実践方法が広まることが期待される。
■研究の背景
人口の高齢化に伴い、認知症者数は年々増加し、医療費・介護費などの社会保障費の増大にも繋がるため、認知症への対策は喫緊の課題となっています。
認知症対策の一つとして「共生」と共に「予防」が掲げられています。有識者らで組織されたランセット委員会※1は、運動不足・糖尿病・高血圧症・社会的孤立などの14項目を「認知症発症のリスク因子」としながらも、これらは「改善可能」であることも強調しています。いわゆる生活習慣の改善によって血管の健康を保ったり、他者との交流などで刺激のある生活を送ったりすることは、認知症予防のために重要です。このことは、2015年に報告されたフィンランドのFINGER研究※2でも実証されました。FINGER研究は、運動や食事といった複数領域の生活スタイルの改善に働きかけることによって、認知機能の改善効果を得られることを示した世界で初めての研究です。現在、このFINGER研究の方法論の有効性を世界各地で検証すべく、World Wide FINGERSというネットワークが稼働しています。日本でも、ネットワークの一員として国立長寿医療研究センターが「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究(Japan-multimodal intervention trial for prevention of dementia: J-MINT研究)」を2019年に開始しました。そして、J-MINT研究の一環として、神戸大学を中心とする研究チームによってJ-MINT PRIME Tamba研究が開始されました。
■研究の内容
兵庫県丹波市の全面的な支援のもと、「動脈硬化のリスクがある(血圧が高い、あるいは血糖値が高いなど)」かつ「わずかではあるがもの忘れ等を自覚している」という項目に該当する市民に呼びかけを行い、203名の方から研究への参加同意を得ました。研究参加者は、週に1回90分の多因子介入プログラム(運動、認知機能トレーニング、栄養管理、生活習慣病の管理)(図2)を18か月間にわたって受けていただくグループ(介入群101名)と、健康に関するパンフレット等を受け取るものの18か月後まではプログラム実施を待機いただくグループ(待機群102名)の2グループにランダムに振り分けられました。両群の参加者とも、2020年9月から10月にかけて第1回目の評価(認知機能検査、身体機能検査、血液検査、その他の質問紙検査など)を、その後は6か月ごとに18か月後まで同様の検査を受けていただきました。
認知機能検査は7種類を実施し、全般的認知機能・記憶機能・実行機能・処理速度・注意機能など、様々な面から評価をしました。個々の検査結果は標準化という方法で一つにまとめられ、認知機能コンポジットスコア(数値が大きいほど良好な認知機能)を算出し、このスコアの第1回目からの変化量を介入プログラムの効果判定に用いました。
その結果、18か月後の認知機能コンポジットスコアは両群ともに増加、すなわち認知機能が向上していましたが、その上がり幅は介入群の方が待機群より大きく、両群の差は統計学的に意味のあるものでした。また、その両群の差はFINGER研究をはじめとしたこれまでの研究に比べても明らかに大きいものでした。さらには認知機能だけでなく、5回立ち座りテストの所要時間短縮(足の筋力向上)や、呼気筋力増強(息を吐く力の向上)などの身体機能の向上も見られました。
われわれはこれらの結果を受けて、様々な領域に働きかける多因子介入プログラムは、やや認知症の発症リスクをもつ高齢者(高血圧や糖尿病といった血管危険因子を有し、わずかにもの忘れ等を自覚している高齢者)の認知機能を維持・改善するために有効であると結論付けました。もちろん加齢によって認知機能は徐々に低下しますが、できる限り早い段階で多領域にわたる生活習慣改善に取り組むことで認知予備能と呼ばれる“脳の貯金”が増え、結果として認知症発症を予防できる(遅らせることができる)のではないかと考えます。
【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000304165&id=bodyimage2】
図2:多因子介入の具体的内容
■今後の展開
様々な領域に働きかける多因子介入プログラムが高齢者の認知機能の改善に効果があることが示されましたが、残された課題もあります。一つ目は、前述したように18か月間の介入によって認知機能の向上は得られましたが、その効果は持続するのか、本当に認知症の発症を遅らせることが出来るのかは不明なままです。このことを明らかにするために、J-MINT PRIME Tamba研究参加者の追跡調査を実施していく予定です。二つ目は、現実的で継続可能な認知症予防介入の実施とその効果検証です。これについては、既に丹波市内各地で活動されている「いきいき百歳体操」の場を活用した追加介入や、特定健診受診者等を新規あるいは既存の運動教室に誘導する取り組みを計画しています。また、これらの活動が、将来的には地域自体が自立して実施を継続できるよう、その核となるような人材を育成していきたいと考えています。最後に、様々な取り組みは行うものの、それによる費用対効果は不明です。これについて、認知症予防のための取り組みが、医療費・介護費などの社会保障費へ与える影響についても調査する予定です。J-MINT PRIME Tamba研究の成果を基盤としつつ、今後も丹波市においてSOMPOケアらを含めたチームで研究を継続することで、認知症予防介入の社会実装を推し進め、その成果を日本全国・世界へと発信することを目標とします。
■用語解説
※1.ランセット委員会
正式名称はランセット認知症予防、介入、ケアに関する国際委員会(Lancet International Commission on Dementia Prevention, Intervention and Care)。認知症の危険因子、治療とケアの知識と理解、認知症を予防し管理するために何をすべきかについての新たな知識によりもたらされた大きな進展を一本化することを目的に設立され24人の国際的専門家から成る委員会。
※2.FINGER研究
2009年から2011年にかけてフィンランドで行われた「高齢者の生活習慣への介入による認知機能障害予防の研究」。1,260 名の高齢者を対象に、食事指導・運動指導・認知トレーニング・生活スタイル指導の4つの介入を同時に行うことで、軽度の認知機能障害の進行を抑制することを世界で初めて証明した。
■SOMPOケア株式会社について
SOMPOケアは、保険事業を中核とするSOMPOグループにおいて介護事業を担う会社です。
SOMPOグループはパーパスである『“安心・安全・健康”であふれる未来へ』の実現に向けて、認知症に関する社会的課題に注目し「認知症に備える・なってもその人らしく生きられる社会」を作っていくことを目指しています。
■謝辞
本研究は、国立長寿医療研究センターの主導のもと、J-MINT研究の一環として実施されました。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の助成(課題番号:JP20de0107002)および日本学術振興会科研費の助成(課題番号:JP20K19241)を受けて行われました。
■論文情報
・タイトル
“An 18-month multimodal intervention trial for preventing dementia: J-MINT PRIME Tamba”
DOI:10.1002/alz.14170
・著者
沖 侑大郎,尾嵜 遠見,熊谷 諒子,村田 峻輔,円丁 春陽,小野 玲,安田 尚史,古和 久朋
・掲載誌
Alzheimer's &Dementia
配信元企業:SOMPOケア株式会社
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