メンタルヘルスとは、「心の健康」のことを指しています。
社員が職場での疲労やストレスが原因でメンタルヘルス不調になると、働きやすさの低下や、離職につながることも。
そこで、今回は書籍『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』(上村紀夫著)から、組織がメンタルヘルス対策に取り組む上で知っておきたい効果的な対応手順について紹介します1
メンタルヘルス対策の3ステップ
これまで長年、産業医として多くの会社でメンタルヘルス対策のサポートをしてきました。その中で、対策を考えている担当者に必ずするお話があります。それは、『メンタルヘルス対策は必ず順番通りに取り組む』ということです。ステップは3つあります。
ステップ①メンタルヘルス不調者への対応体制を整える
休職・職場復帰をサポートできる会社体制の整備
最初に行うのが、実際に不調者が発生した際の対応がしっかりとできるように会社体制を強化することです。
具体的に言うと、不調者発生(疑いも含める)が現場から報告された際に、
- 誰がどのような方法で当該社員の状態を把握するのか、
- クリニック受診が必要と考えられる際にどのように本人にアプローチするか、
- 休職が必要となった場合に必要な書類はそろっているか、
- 休職中はどのように定期的な連絡を取るか、
- 復職判定をどのように行い、復職後のフォローをどのくらいの期間行うのか、
などが挙げられます。
メンタルケアは産業医のサポートの下で行う
主に人事労務担当者が関係する領域となりますが、産業医などの外部のプロのサポートが必要です。私自身が産業医であるだけでなく、多くの産業医を育ててもいますが、その中の実感として、産業医の能力差は想像以上に大きく、対応結果にも明確に表れています。
最低限の面談対応のみの産業医も存在する一方で、労務トラブルへの助言や、現場でのコミュニケーションエラーの解決法の提示などを行う産業医も存在します。できる産業医と関わり合うことは、会社にとって数千万円レベルの価値に繋がることもあります。
ステップ②メンタル不調者を早期に発見する
現場管理職へのメンタルヘルス教育
次に取り組むのが、現場での不調者早期発見および早期対応を促進することです。
必要なことは大きく分けて2つ。1つは不調者を現場で見つけるための面談ツールや報告ルールを作り管理職に周知すること、もう1つはメンタル不調者の状態を現場で把握するための教育を管理職に行うことです。
ラインケア研修を適切に実施する
ラインケア研修などがそれに該当しますが、「実施すること」自体を目的とし、効果をしっかりと想定して実施されていない研修も多いのが実情です。ラインケア研修はとても重要な教育であり、管理職の時間的コストも多く投資されることから、価格などの表面的な部分だけで選ぶのは、お金の無駄遣いにしかなりません。
ステップ③【予防策】ストレス・不安の蓄積を減らす
最後に取り組むのが、メンタル不調者発生を予防することです。
「マイナス感情の蓄積」が働きがい、働きやすさなどに起こり、それが心身コンディションに影響して起こるのが、抑うつや適応障害などの言葉で表現される『メンタルダウン』であり、多くの会社が減らそうとしているタイプのメンタル不調となります。
メンタルダウンを減らすには、働きやすさや働きがいへのマイナス感情の蓄積を予防し、心身コンディションへの影響を減らすこと。つまり、メンタル不調の発生予防と離職対策は、マイナス感情の蓄積を減らすという共通のアプローチとなり、同時に進めることが可能です。
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なぜ「発見」と「予防」からメンタルヘルスケアをしてはいけないのか
「予防」や「早期発見」から目が行きがちなメンタルヘルス対策ですが、なぜ「不調者対応」のための会社体制強化を最優先に行う必要があるのでしょうか。それは、その順番が最も安全かつ効率的であるからです。
理由①相談・カウンセリングなどの対応体制がパンクする
例えば、早期発見を一番に取り組んでしまった場合、不調疑いの社員についての相談や報告が担当者に多く寄せられることが想定されます。不調者対応の体制が整っていれば、決められた流れに沿って対応できますが、整っていない場合には、担当者が個別の案件ごとに対応を決めていかなければならなくなります。
担当者の業務がパンクし、早期発見できた不調疑いの社員の状態を悪化させてしまうリスクもあります。
理由②効果的な予防策を実施できない
一方、「予防ができてしまえば、対応や早期発見の必要もなくなるだろう」という意見もありますが、残念ながらそう簡単には進みません。
メンタル不調者の発生原因はさまざまです。発生傾向を把握できてはじめて予防が可能となります。すでに発生しているメンタル不調者、および潜在的な不調疑いの社員の状態・原因がしっかり調査されていない中で予防に取り組もうとしても、的外れの予防策になってしまう可能性がとても高いです。
以上のことから、早期発見よりも対応体制の整備を優先する必要があり、予防はそれら2つのステップが有効となったあとにようやく取り組めるステップとなります。
書籍紹介:『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』
【目次(一部抜粋)】
序章 なぜ組織は「病んでいく」のか?
離職・モチベーション低下・メンタル不調など、「人」にまつわる問題が増えてきた――
その原因は、不安、疲労、怒りなどの「マイナス感情」を感じる社員が増えていること。
これは、業績はもちろん、組織の存続をも脅かしかねない重大な問題です。
組織は、対処法を早急に見つける必要があります。
第1章 マイナス感情の感染メカニズム
社員のことを大切にしているはずなのに、不平不満が止まらない……と悩んでいませんか。
「何にマイナス感情を抱くか?」は、人それぞれの価値観に大きく左右されます。
この問題を意識せず、やみくもに人事施策を打っているために、かえって逆効果になっている組織が多くみられます。
第2章 マイナス感情の発症メカニズム
業務負荷増加、働き方改革の強制、希望にそぐわない配属や昇格、長期間の教育担当……
社員が「病む」プロセスには一定のパターンがあります。
本書では、マイナス感情の発生対象を「個人活性3要素」=「心身コンディション・働きやすさ・働きがい」の3つに分けて解説します。
第3章 マイナス感情の伝染メカニズム
メンタル不調者続出の『砂の城』系組織、疲弊感に蝕まれる『やりがい搾取』系組織、ぶら下がりが経営課題『ぬるま湯』系組織……
組織が「病む」プロセスにも一定のパターンが。
組織の活性度を考える上では、「個人のマイナス感情が周囲に影響し、連鎖反応が起こる」=「伝染」の影響をよく検討する必要があります。
第4章 組織活性化のための「ターゲティング戦略」
全員を救おうとする施策は、むしろ誰も救わない結果に陥りがち。
組織戦略を実施する際には、「どの層のマイナス感情を解消すると、効率よく組織課題を解決できるか」を検討することが必要です。
組織の人材をセグメント分けし、優先順位をつける方法を具体的に解説します。
終章 「社員を幸せに」する前にやるべきこと
社員の幸福度が上がれば、問題は解決するのでしょうか。
これまでの振り返りと、「社員の幸福を上げる施策とターゲティング戦略の関係性」について考えていきます。
さらに巻末特別収録として、自分の組織の活性度がわかる組織の分類法を掲載。