今後はドライブシュミレータを使用して実験
現在、心拍データから温度変化による心拍数や自律神経(交感神経と副交感神経)の動きを解析することで、人が今、温度をどう感じているのかについて計測の可能性を調べる研究を行っています。今後も共同研究を継続し、より計測精度を向上させる実験を行い、ハンドルやシートへの心拍計の組み込み検討とともに、トータルシステムの構築を目指します。
■目指すポイント
(1) 心拍から快適か不快かが自動で計測され、その人に応じた最適な温度環境の自動化を実現
(2) 今まで過冷房、過暖房で無駄にしていたエネルギーロスを改善(冬の電気自動車では、エネルギーの50%が暖房で消費されることも)
(3) 運転手が装置を身につけなくても、ハンドルやシート内に心拍計を組み込むだけで済む製品の開発
■背景
近年、自動車の燃費性能やデザイン性と共に、振動、騒音、温熱環境といった快適性も重要視されてきています。走行時以外でエンジンの動力を一番使うのは車内空調システムであり、現在のシステムは人の体感温度に関係なく設定温度を保つよう稼働するため、無駄が生じていました。
加えて、自動車の冷暖房はエンジンの廃熱を利用しますが、エンジン性能が上がるにつれ廃熱が少なくなり、暖房エネルギー供給のために燃料を消費するといった課題が生まれました。まして、エンジン廃熱を利用しない電気自動車では冷暖房によるエネルギー消費問題はガソリン車より顕著で、実走行距離を伸ばす上で大きな障害でした。
■研究の概要
今回の研究では「温度変化によるストレスで、心拍数の違いや、自律神経の乱れが生じるのではないか」という仮説を立て、実験を開始しました。
安静にした被験者の環境温度を20分おきに変えた場合(※1)、心拍がどう変わるか(※2)を解析しました。具体的には、心拍間隔(RRI)を基に、体の働きを活性化させる交感神経(HF)と、逆にリラックスさせる副交感神経(LF)を計算し、(1) RRI(RRI Interval)の値(※3)、(2) RRIの分散、(3) LF/HF成分を計測。
その後、パターン識別手法の一つであるサポートベクターマシン(SVM)と呼ばれる2パターン識別器を用い、快適と不快の分類が可能かを解析しました。その結果、明確な差がデータとして取得できたため、快適かどうかの判断を心拍より行える傾向があることが分かりました。
※1 PMV(Predicted Mean Vote)と呼ばれる快適性の指標を使用
※2 ノイズの含まれていない安定した3分間ずつのデータを使用
※3 RRIの値は日内リズムがあるため、RRIの基準化を実施
<今後はドライブシュミレータを使用して実験>
https://www.atpress.ne.jp/releases/106987/img_106987_1.jpg
・発表論文名
「温度変化による心拍と温熱感との関連に関する研究」
公益社団法人自動車技術会 2016年春季大会
■今後の展開
運転中にリアルタイムで心拍を計測し、心拍データより不快と判断されれば快適になるまでエアコンを制御するなど、製品として形にできる精度を出すため、課題解決に向けた以下の追加実験を行っていきます。
(1) 3分間隔であったデータ処理時間をより短くし、リアルタイム性を向上させる
(2) 基礎代謝量(体格)の違いを考慮した検証や、運動負荷(実際に運転)を与えた検証を行い、結果を比較
(3) 急な危険事象(※)などに遭遇した際、急激に心拍数が上昇するが、それをエラー値だと判断できる閾値の導入
※ 今回は心理的要因による心拍数の変化を避けるため、着座安静状態で実験をしました