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「排除されかねない」 広がる“日本人ファースト”へのリアルな不安


 参院選で外国人の規制強化を公約に掲げる政党が相次ぐ中、筆頭格である参政党の街頭演説に集う人たちからは「外国人は優遇されている」「外国人に不安を感じる」という声があふれていた。ただ、詳しく話を聞くと、その不安は必ずしも正確な情報に基づいているとは言い難いことがみえてきた。そうした「日本人ファースト」に引き寄せられた不安は、日本で暮らす外国籍の人たちのリアルな不安を生み出している。

「ユーチューブ見な」

 「あんたもユーチューブ見て勉強せなアカンで」。4日、大阪市阿倍野区の繁華街。参政新人、宮出千慧(ちさと)候補の演説を聞いていた70代女性が記者に諭した。自民党政権が気に入らず日本維新の会を支持していたが、「橋下(徹・元代表)が中国にこびていると聞いてアカンと思ったんや」と言う。情報源はユーチューブ。留学生は皆、生活費を年300万円出してもらっている――。これは誤った情報だが、「ユーチューブで元外務省職員が話してるんや」と自信ありげに言う。

 なぜ参政を応援するのか。外国人が優遇されているのではないかと不満を募らせる中、神谷宗幣代表がテレビ番組の党首討論で自民が賛成する政策に毅然(きぜん)と反対する姿を見て、一気に共感するようになったという。

「外国人優遇」言説と不満が結びつき

 7日、同じ場所で再び宮出候補が演説をしていた。選挙運動員の腕章を付けた60代の男性は建設関係の仕事をしており、以前は維新を支持していたという。「維新が大阪で首長となって、仕事の売り上げもよくなった」と感じていたが、最近は魅力を感じていない。

 自身の生活圏内ではインバウンド(訪日外国人客)の増加で公共交通機関の混雑に拍車がかかっているように感じ、不満だという。そんな中、ユーチューブで「日本政府は外国人留学生に返済不要の奨学金を出すのに、日本人は冷遇している」という情報に触れた。これは正確ではない情報だが、男性は「日本人は大事にされていない」との思いを強めるようになったという。今では「新しい政党の力で大阪が良くなれば」と支持政党を変えた。

 日常生活の中で外国人が存在感を増す中で覚えた不安が支持に結びついた人は他にもいる。

 40代の女性は「子どもの習い事の送り迎えに行くと、親は日本語の話せない中国人ばかり。何をしに日本に来ているんだろうと思う」と話す。そんな時、交流サイト(SNS)で参政のことを知った。「日本人ファーストって言っているのはここしかない」

「排除されかねない」不安

 一方で、日本で暮らす外国籍の人たちは外国人への「不安」が声高に語られるようになった現状に不安感を高めている。

 「いつかどこかで僕が排除されかねない社会になりつつある」。大学2年の男性(22)は両親が移民で、永住者の在留資格を持つ。自身は大阪で生まれ育った。日本で社会学者になり、DJになるという夢がある。

 2024年6月に行われた入管法改正で、永住者が税金や社会保険料を滞納した場合などに永住資格を取り消せるよう条件が拡大された。男性は「僕も何かの拍子で在留資格を失うかもしれないという不安を常に抱えている」と言う。

 参政が外国人の受け入れ制限や外国人の生活保護の支給停止などの方針を掲げ、支持を広げる状況を「もともと国が、自民がゼノフォビア(外国人嫌悪)な仕組みをつくってきた。参政はそこに乗っかり、もっと過激になっている」と憂える。

 自民が追随するように「違法外国人ゼロ」をうたうなど、外国人への対応厳格化を打ち出す政党が相次いでいることについて、こう批判する。「『良い』外国人は日本に居ていいというが、良い悪いの判断基準は社会の都合で変わる。人種や国籍で人権が制限されるのはおかしいと思う」

留学生への奨学金「ほんの一握り」

 SNS上では「留学生は日本人よりも奨学金で優遇されている」と不正確な情報が流れ、街頭でもそんな話を口にする人が多かった。だが、中国・新疆ウイグル自治区出身で関西の私立大学大学院に通う留学生の男性(26)は「日本政府から奨学金や経済支援を受けているのはほんの一握りでしょう。私の周りには一人もいない。みんな勉強とアルバイトで忙しいです」と流ちょうな日本語で一蹴した。

 来日3年目。両親からの仕送りと、ラーメン店やコンビニでのアルバイト代で生活してきた。外食はほとんどせず、自炊ばかりだ。昨年、大学から成績優秀者に選ばれ、初めての奨学金(年額15万円)を受け、2カ月分の家賃に充てた。

 男性はこれまで日本でひどい差別を受けた経験はなく、「強い不安は持っていない」という。一方で、留学生が優遇されているという誤った情報の広がりは外国人敵視と地続きだと感じるといい、「今後、中国人として差別を受けることがあるかもしれない。もっと勉強を続け、中国人だとわからないくらいに、完璧な日本語を話せるようになりたい」と話した。

「社会の底が抜けた」

 在日コリアン3世で、NPO法人「コリアNGOセンター」共同代表の郭(カク)辰雄(チヌン)さん(58)は、通勤途中の駅で目立つようになった「日本人ファースト」と書かれたのぼりを見ると、13年ごろ大阪・鶴橋で吹き荒れたヘイトスピーチを思い出す。「在日は犯罪者だから帰れ」などと叫ぶ集団を目の当たりにした。

 郭さんは大阪市生野区を拠点に、在日コリアンのルーツやマイノリティーの人権を守るため講演活動などを続ける。

 「日本人ファーストとは、外国人はセカンド、サードであり、差別されても仕方がないと言っているのと同意だ。(そんなキャッチコピーが支持を得るのは)日本社会の底が抜けた感がある。誤解や偏見を助長するような話が飛び交うのは、すごく息苦しい」

 ヘイトスピーチ解消法が16年に施行されたが、罰則はなく、禁止規定もない。郭さんは「差別には、人権を侵害する加害と被害の関係が明確にある。『差別はだめ』というだけでなく、差別をいかにやめさせ、罰則を与えて再発を防ぐのかが求められている」と話す。

 参院選では政治団体「NHK党」党首の立花孝志氏が「黒人とか、いわゆるイスラム系の人たちが集団で駅前にいると怖い」などと発言した。郭さんは、外国人政策が注目を集める背景について「日本の中で外国人をどのように位置付け、国を運営していくかが、先送りできない課題になっているということでもある」と語る。「参院選の後もこうした状況は続く。外国にルーツのある人たちと、どう生きていくのか。社会で考えなければいけない」と求めた。【矢追健介、林みづき、鵜塚健】

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