
電車内で心肺停止状態になって倒れた女性を助けたのは、救命講習を受けたことがある女子大学生らの瞬時の対応だった。
5月8日午前10時半ごろ、東急東横線武蔵小杉駅(川崎市)を発車した電車内。突然、ドア付近の手すりにもたれかかっていた10代の女性が倒れた。
「誰か助けてください」
大学4年生の塩崎愛涙(あいる)さん(22)は、そう呼ぶ声がかすかに聞こえた。イヤホンを耳から外し、声の方向に目を向けた。女性を囲む人たちは、どう対応していいか困惑している様子だった。
「私が行かないといけない」
塩崎さんはAED(自動体外式除細動器)の操作方法や止血法などを学ぶ3時間の「普通救命講習」を高校生の時に受けた経験があった。急いで駆け寄り、すぐに人工呼吸に取りかかった。
「医療関係者はいますか」
視能訓練士として病院で働く佐伯めぐみさん(51)も席を立った。勤務先で心肺蘇生などの応急措置を学ぶ「BLS講習」を受けたことがあり、心臓マッサージをした。講習で教わった「1分1秒でも早く始めた方がいい」という言葉が頭に浮かんだ。
プライバシー保護のために着ていた服で女性の周りを覆ったり、緊急通報ボタンを押したりして、救助を手助けした人もいた。
電車は数分後に自由が丘駅(世田谷区)に到着。佐伯さんらは救急隊が到着するまで心臓マッサージを続け、女性は搬送先の病院で一命を取り留めた。
東京消防庁は29日、迅速な救命処置を評価し、塩崎さんと佐伯さんに消防総監賞を贈った。救助に当たった医師や学生、駅員ら計9人には目黒消防署長褒賞が贈られた。
塩崎さんは、大学でも救命講習を受けていた。女性の救護者がいた場合、男性が服を脱がせたり、人工呼吸をしたりするのは心理的なハードルも高い。自身が貧血になった際に助けられたこともあった。救護が必要な現場に遭遇した時は、自分が動こうと決めており、とっさに体が動いたという。
表彰式で塩崎さんは「講習で『勇気を持ってやることで、数十%助かる確率が変わる』と言われた。その言葉を思い出して、一歩踏み出すことができた」と話した。
佐伯さんは「1人でできることは限られるが、見て見ぬふりをせずにそれぞれが協力し、できることをやった」と振り返った。
目黒消防署の植松秀喜署長は「定期的な講習の受講や周囲に助けを求めること、119番をするなど勇気を持って行動に移してほしい」と話した。【朝比奈由佳】