
会社員のほとんどが、仕事中に経験した感情を帰宅後も思い出し、ストレスを感じている――。
企業や公的機関で働く253人を対象とした民間調査で、勤務時間外に仕事のことを思い出す人が88・1%にのぼり、そのほとんどが「気がかり」「不安」といったネガティブな感情であることが明らかになった。
調査担当者は「仕事とプライベートの境界が曖昧になり、終業後も多くが『持ち帰り感情ストレス』にさらされている。離職や士気低下につながる恐れがあり、企業の新たな課題になっている」と指摘する。
職種を問わず「感情労働あり」
ブライダル事業のジュノー株式会社(横浜市)と東京成徳大学の関谷大輝准教授が、20~68歳の民間企業・公的機関で働く253人を対象にインターネット上で調査した。
普段の仕事の中で、顧客や同僚、上司に対して自分の体調や本来の感情にかかわらず、仕事上求められる態度や振る舞いに見えるよう感情をコントロールする「感情労働」があると答えた人は94・5%にのぼった。
また、勤務時間外に仕事を思い出す人に、どんな気持ちを感じるかを聞くと、大半が「気がかり」「心配」「不安」「気が重い」を選んだ。
勤務時間外に思い出すと「不快で嫌な気持ち」になる内容としては、「上司からの理不尽な指導や否定的な言動」「不平不満やネガティブな発言をきいたこと」「お客様からのクレーム」などが挙げられた。
一方、「快適で良い気持ち」になるのは、「雑談・コミュニケーション」「協力や声かけ」「同僚や上司からの感謝や称賛」「お客様からの感謝」だった。
「怒鳴り声が耳から離れない」
職場での出来事がどのようにして、持ち帰り感情ストレスになるのか。その具体例は――。
東京都板橋区に住む20代の男性は、コンビニエンスストアでの勤務中、中年の男性客から「袋に入れるのが、おせえんだよ」と怒鳴られた経験を明かす。
「こっちは間違えないよう丁寧にやっていただけ。その後も何度も思い出してしまった。1年ほど前の話だが家に帰っても、その声が耳から離れない」
言い返すこともできなかった自分に対して「ふがいない」と感じたという。
組織のあり方を見直す必要も
調査を担当した関谷准教授は、この男性の例は典型的な持ち帰り感情ストレスだ、と指摘する。
「就業中のストレス対策に目が向きがちだが、仕事を終えてからの思い出しによるストレスも強い影響を持っていることは調査結果からも見えました」
同じことを繰り返し考えてしまう癖が強い人ほどストレス反応も高まる傾向があるという。
また、調査からは職場でのネガティブなコミュニケーションも思い出しの材料になることが見て取れる。
「組織でのコミュニケーション設計が問われます。不安や心配ごとを勤務時間中に同僚や上司に相談できたり、適切な助言が得られたりする環境があれば、多少は軽減できるかもしれません」
楽しい活動に集中しよう
持ち帰り感情ストレスに悩む人々にはこうアドバイスする。
「終業後に繰り返し思い出してしまう思考から抜け出すには、意識的なセルフケアが有効です」
単に「考えないようにしよう」とするのではなく、スポーツや会食、ライブ鑑賞など、楽しい活動に集中する時間を意識的に増やすことが大切だという。
どうしても思考が止まらない場合には「時間を区切ってあえて考えてみる時間を設けることも、心の整理につながります」と提案する。【隈元悠太】