
気付かないうちに保険料が急上昇するかもしれない。火災保険の「2025年問題」を前に、損保大手が対応を急いでいる。15年に行われた制度改正の影響で、今年10月は契約の満期を迎える契約者が大幅に増える見通し。契約者も保険代理店も手が回らないうちに、意に沿わない契約の自動更新が頻発する可能性がある。
住宅を対象とした個人向けの火災保険は、火災のほか、水害やひょう、盗難などさまざまな損害を補償する。住宅を購入する際に利用した不動産会社▽住宅ローンを契約した金融機関▽保険会社の営業職員▽保険ショップ――といった代理店を通じ契約することが多い。
満期を迎えるまでの期間(保険期間)は契約時に任意で設定する。最短は1年間だが、長期にするほど保険料が割安になる。かつては最長で36年に設定することができた。
しかし、自然災害の頻発化や住宅の老朽化の進展、修理費の高騰を受け、損保会社が支払う保険金の総額は増加。近年は相次いで保険期間が短縮されている。
2025年問題も、こうした流れが影響している。
火災保険料は、損保各社でつくる「損害保険料率算出機構」が災害の発生確率などから目安の数値を算定し、これを参考にして各社が決める。
機構は14年、10年超の火災保険について「将来の災害発生確率や収支の予測が難しい」として算出を見送った。これを受けて損保各社も10年超の契約受け付けを停止。22年10月からは更に短縮され、最長期間は5年になった。
この結果、最初の10年満期を迎える25年10月と、5年満期を迎える27年10月に、契約満期を迎える人が大幅に増えることになった。
保険料急上昇のタイミング
満期までの期間が短くなり更新が頻繁になるため、年を追うごとに損保各社や保険代理店の業務は大幅な増加が見込まれる。
大手損保4社によると、満期を迎える火災保険の契約数は、24年度が計約189万件だったが、28年度には約300万件に増える見通しだ。
契約者にとって注意が必要なのは、タイミングを同じくして契約者が支払う1年当たりの保険料が大きく値上がりする可能性があることだ。
三井住友海上火災保険の試算によると、地震保険を含むマンションの火災保険料は、15年10月からの10年間がモデルケースで1年当たり2万5000円だったのに対し、25年10月以降は4万3000円に上がる。
各社は制度改正のあった15年の時点で、10年後に満期が訪れた際に自動で契約が更新される特約も用意した。それから10年。この特約を結んだことを忘れ、損保から送られてくる自動更新の案内などに気付かずに、保険料が急に上がって驚くケースも予想される。
契約更新を契機に保険内容を見直そうとする契約者ニーズも高まりそうだ。しかし、代理店の人手不足なども重なり、事務作業がパンクしかねない。
損保の担当者は「これまで年に数十件程度しか満期が来なかった代理店でも、10月からは数百件、数千件単位の満期を迎える状況もあり得る」と身構える。
代理店の業務がパンクすれば契約者が更新する保険を十分に検討できない事態にもつながりかねない。
損保大手、ウェブ手続きを拡充
損保大手は新たなシステム導入で対処する方針だ。
三井住友海上と同じグループのあいおいニッセイ同和損害保険は、契約継続手続きを契約者のスマートフォンで完結できるシステムを共同で開発した。8月からサービスを始める。
満期前に届く書類から契約者用のサイトにアクセスし、現在の契約内容を確認。代理店を介さずに、建物や家財にかける保険金額▽免責金額▽保険料の支払い方法――を設定・変更できる。
電話で手続きする場合は説明を聞くだけで30分かかっていたが、ウェブ完結なら10分程度で終えられるという。
東京海上日動火災保険はウェブで契約内容を比較・検討できるサービスを実施している。満期前に届く郵便物に掲載されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、3種類の保険プランが表示される。
損害保険ジャパンも、10月以降に初めて満期を迎える契約から、契約者自身がウェブで更新手続きができるようにする。
「期間短縮知らない」が5割超
課題は、2025年問題の認知度がまだ低く、保険見直しへの関心も高まっていないことだ。
三井住友海上が24年9月、火災保険加入者を対象に行った調査では、15年10月~22年9月に加入した人のうち、最長保険期間が10年に短縮されたことを知らない人が55・5%に上った。
同社の担当者は「近年は環境の変化に応じた新しい特約なども登場している。この機会に今の自分にどんな補償が必要か確認してほしい」と話す。【井口彩】