
持ち家と賃貸のどちらが賢い選択なのか――。昔から侃々諤々(かんかんがくがく)の議論がされてきた。住宅事情に詳しい麗沢大の宗健教授は「結論は出ている」と言い切る。どういうことなのか。見解を尋ねた。
持ち家は「自分自身への賃貸事業」
結婚したら家を買った方が良い。独身者も40歳を超えたら、なるべく家を買った方が良い。これが私の結論です。
「持ち家優勢」はデータで裏付けられています。
総務省の住宅・土地統計調査(2023年)によれば、持ち家率は全体の60・9%で、借家は35・0%。過去30年間、この数値はほぼ変わっていません。
私が関わっている別の調査でも、「家を持つべきだ」の問いに対し「はい」が約43%、「いいえ」が約15%という結果が出ています(残りは「どちらでもない」)。つまり、人々の行動結果も意識面も、持ち家派が勝利しているのです。
賃貸派は「家族構成の変化に合わせて引っ越ししやすい」「うまくすれば生涯トータルの出費が抑えられる」と言うかもしれません。
しかし、持ち家とは「自分自身を顧客にしたとても確実性の高い賃貸事業」と考えられます。
賃貸であれば大家が得るはずの家賃収入が自分のものになる。その分だけ賃貸よりも有利です。シンプルに考えれば良いのです。
インフレでますます有利に
昨今のインフレ(物価上昇)で、持ち家はますます有利になっています。賃貸は、不動産価格や物価の上昇に遅れて家賃が上昇する「遅効性」があるものの、結果的には物価上昇率とほぼ同じ率まで家賃が上がっていきます。
住宅ローンの金利も上昇していますが、現在の物価上昇が今後も続きそうなことを考えれば、35年固定2%前後の金利で借りられる現状は悪くありません。物価上昇率が2%以上の状況であれば、金利は実質的にマイナスとなり、返済負担が減少していくからです。
ただし、注意点もあります。共働きの増加に伴い、夫妻それぞれが住宅ローンを借りる「ペアローン」が盛んになりつつありますが、ペアローンを組まないと買えない家は「無理しすぎている」と感じます。
夫妻のどちらかが働けなくなったり、収入の減少、さらには離婚に至ったりするリスクを考えると、あまりお勧めはできません。
「思い入れ」も大事な要素
家には資産、機能、情緒の三つの価値があると考えます。持ち家・賃貸論争では、「どっちがトクか?」という資産面に議論が偏っている印象を受けます。
設備の選択や収納スペース、省エネ対策などの機能面では、自分たちの思うようにできる持ち家に分があるでしょうし、情緒面、つまり「思い入れ」といった観点でも持ち家に軍配が上がるでしょう。総合的に考えれば、やはり「買った方が良い」のです。
私は、既婚者は子どもが小学生になるまでに家を買うことをお勧めします。小学生になり転校を伴う引っ越しとなると、子どもに多大なストレスがかかるからです。住宅ローンの返済期間ももちろん考慮してのことです。
独身者は無理して家を買う必要はありません。しかし、40歳を過ぎたら結婚する可能性も減りますし、老後を考えれば経済力がある人は買った方が良い。大家は高齢者に家を貸したがらないという現実があり、住まい探しに苦労することが目に見えているからです。
買い時はいつなのか?
住宅は「人生の3大出費」とも言われます。もし選択を誤ったと思ったらどうするか――。
賃貸派はよく「持ち家は引っ越せない」と言います。確かに、賃貸より手間もコストもかかりますが、引っ越すことはできます。
その場合、空き物件を賃貸に出せば良いのです。金融機関からお金を借りることができ、都市部の物件であれば元手を回収するのもそこまで難しくないでしょう。
最後に「人生のいつが家の買い時か?」という疑問に答えたいと思います。
現在はインフレ局面で、不動産価格がどこまで上がるか、いつ下がり始めるのかは分かりません。いつかは下がるという保証があるわけでもありません。
ですのでこう答えます。「持ち家が必要と感じているなら、それがあなたの買い時です」【聞き手・後藤豪】
そう・たけし
1965年北九州市生まれ。九州工業大卒業後、リクルート入社。リクルート住まい研究所(現SUUMOリサーチセンター)所長、大東建託賃貸未来研究所長、麗沢大客員教授などを経て、2023年4月より現職。専門は都市計画。