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再雇用の先輩「楽しそうじゃない」どうする? 定年後のホワイトカラー


現在、多くのシニアが役職定年や年金に対する不安を背景に、新しい職場での働き方を模索している。65歳以上の就業者は増加し、日本は他国と比べても高齢者の就業率が高い。しかし、専門技術を持たないホワイトカラーの再就職は難しく、大半は再雇用を選ぶ傾向にある。市原大和氏の調査では、転職や独立を選ぶシニアもいるが、給与面や企業文化のギャップに苦しむケースが多い。中小企業の多くはシニアを歓迎しているが、手を動かせる実務能力が求められる。今後も高齢者の就業率は上昇すると見られ、40代から長期的なキャリア形成を考える必要がある。

 役職定年や定年を見据え、新たな職場で働こうとする人は多い。ただ、満足できる仕事を見つけられるケースはわずかである。

 とりわけ専門的な技術のないホワイトカラーは難しいという。高齢になっても、やりがいのある仕事を続けられる道はあるのか。シニア世代のサラリーマンの独立や再就職などを支援する会社を運営し、3000人以上と面談した市原大和氏に聞いた。【聞き手・川上晃弘】

 ――働くシニアが増えています。

 ◆60歳を超えて仕事をするのはもはや当然のこととなりましたが、65歳以上もバリバリ働いています。

 2023年に仕事をしている65歳以上の高齢者は10年前より300万人近く増えて914万人です。25~34歳の1114万人に迫る勢いです。

 データをみると、男性で働いているのは65~69歳は62%、70~74歳は43%となっています。女性では60代後半は43%、70代前半は26%です。

 これは他国と比べても高い水準です。

 22年のデータですが、65歳以上の就業率は日本の25%に対し、米国は19%、英国11%、ドイツ8%、フランス4%でした。

 年金など社会保障制度への不安感が強まるなか、就労する高齢者は今後もますます増えていくでしょう。

 ――市原さんは多くのシニアから転職や独立の相談を受けてきました。どんな人が多いですか。

 ◆シニアの働き先ではスーパーやコンビニの店員や、介護などのエッセンシャルワーカーが上位を占めます。あとはマンション管理人などが人気です。

 ただ、私の会社では、現場で働く仕事より、中小企業の事務職や営業職を主に紹介しています。相談に訪れるのは55歳ぐらいから60代のいわゆるホワイトカラーです。

 彼らは役職定年になって肩書がなくなった後、定年後も同じ会社で再雇用に応じるか決断を迫られます。

 再雇用に応じた先輩の働く姿をみて、「なんか顔色悪いぞ」「楽しそうではない」と感じて相談に来るのです。

 実際のところ、再雇用後の給与は一律で、半分以下になる企業が多くあります。責任ある仕事を任せられるわけでもないです。

 でも、大多数の方が再雇用の道に進みますね。一定の給与はもらえるし、無理して転職しなくてもいいと考えるのでしょう。

 ある大手商社のサラリーマンは「娘の結婚式でうちの会社の名刺を出したいから再雇用で残りたい」と話していました。名の知れた企業の場合はそういった理由もあると思います。

 ――それでも転職や独立をする人はいる。

 ◆はい。結局、消極的に再雇用を選択しただけなので、彼らの多くはどうしても「もやもや感」を抱えて仕事をすることになります。

 企業側もそうした事情を把握していて、シニア社員に「専門課長」や「専門部長」などの肩書を与えたり、給与に少し差をつけたりしてモチベーションを上げようとしていますが、あまりうまくいっていません。

 大手企業に限らず、会社組織というのは基本的に役員など偉いポジションを目指すゲームの一面があります。そこから外れたと考えている社員のモチベーションを上げるのは難しいのです。

 「もやもや感」を持って仕事を続けるより、新しい職場で、もう一度チャレンジしたいと考える人が転職や独立を本気で検討していきます。

 ――ただ、50代後半や60代となると、年齢的なハンディがあるのでは?

 ◆若ければ若いほど独立や転職はしやすいですが、ホワイトカラーのジェネラリストはあまり中小企業から求められていないのが現実です。

 とはいえ、特別な技術や資格がなければ再就職できないかというと、そんなことはありません。

 例えば、経理畑が長ければそれだけでアピールポイントになりますし、結果を出す営業マンとして働けるのであれば、ぜひ採用したいと考える企業は多いです。

 どれだけ偉いポジションにいたかは関係なく、結果を出せるか、手を動かせるかの方が重要です。報告書や提案書をぱっと書ける人は重宝されますが、役員手前や部長までいってしまい、そうしたものをチェックするだけの立場だった、手を動かせない人は求められていません。

 時代状況は追い風です。労働力不足がかなり深刻なレベルになっているからです。若手の獲得が難しくなるなか、有能なシニアを採用したいと考える中小企業は増えています。今後もこうした傾向は続くでしょう。

 言わずもがなですが、基本的に大手企業はシニアを採用しないので、転職先は中小企業がメインとなります。

 大手でずっと働いていた人は気づいていませんが、大手は「楽園」です。本社は駅の近くにあり、オフィスもきれい。優秀な部下に囲まれ、コンプライアンスもしっかりしており、ストレスフリーで働ける環境にある。でも中小はその逆の面があります。

 その変化に対応できず、大手から中小企業に転職ができても、試用期間でやめてしまう人も多くいます。

 逆に言えば、そうした中小企業の文化にフィットさえできれば、どんどん活躍できる余地があるのです。

 年収は300万~500万円ほど。中小で600万円を出せるところは少ないと思います。

 年収は低いですが、中小は大手より、65歳を過ぎても働ける会社は多いです。

 ――働く意識は変わりつつあります。

 ◆多くのシニアと面談をしてきましたが、50代後半や60代の方は自身の年齢を意識して、「そろそろ引退です。どうしたらいいでしょうか」と暗い顔をして相談に来る人が多い。

 でも、私は「何を言っているんですか。これからですよ」っていつも言うんです。だって人生100年時代、あと20~30年は元気ですから。

 60歳で定年、65歳まで雇用延長、それで引退。こういった終身雇用を前提としたストーリーが頭にすりこまれ過ぎです。

 時代が変わり、今は年金だけではとても生活ができません。財務状態のいい、超大手企業であれば、企業年金が非常に充実しているので65歳を過ぎてもやっていけますが、一般的なサラリーマンは違います。

 その一方、最近の60代は昔の60代と異なり、とても元気です。健康に気をつけている人が多いし、頭の回転も早い。働かなければいけない時代になりましたが、仕事をするだけの体力はみんな十分あるんです。

 そういう話をすると、表情がぱっと明るくなりますよ。徹夜はさすがに難しいけど、40代や50代のときと比べて能力が変わらないってことは自分自身が一番よく分かっているはずですよ。

 ――確かに若々しい高齢者は増えています。でも、いつまで働かなければいけないのか。つらい時代になりました。

 ◆今後はもっと高齢者の就業率は上がると思いますよ。それを前提に考えたほうがいいと思います。

 老後も働く時代に突入しているのに、それに気づかず、準備していない人が多すぎます。だから、動き出しが遅い。

 40代のうちから60歳以降をみすえたキャリア形成を考えるべきです。そうしないと60代や70代で損をしかねない。

 60代になっても求人はあります。エッセンシャルワーカーも素晴らしい仕事ですが、ホワイトカラーとして働き、経営企画とか営業企画で会社を大きくすることに自分の力を使うことができれば、日本もより活性化して素晴らしいと思います。

定年と高齢者

 政府は各企業に対し、再雇用や定年延長などによって社員が65歳まで働けるよう求めている。厚生労働省によると、70歳まで働ける企業は2024年時点で31・9%あり、増加傾向が続く。一方、3・9%の企業は定年制そのものを廃止している。

いちはら・やまと

 1983年生まれ。慶応大卒。東京海上日動火災保険に入社後、財務や海外勤務などを経て、37歳で退職。2022年にシニアの独立や再就職を支援する「ビヨンドエイジ」(東京都中央区)を起業した。

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