英国の議会下院で11月下旬、終末期患者の「安楽死」を認め、制度化する法案が審議される。2015年に同様の法案は否決されたが、近年は国民感情が変化しているとの指摘もある。ただ、与党・労働党内でも意見は割れ、可決されるかは見通せない。
「多くの人が苦痛の中で死を迎えている。(患者は)より良い死を選ぶ権利を持つべきだ」。10月に法案を提出した労働党のレッドビーター下院議員は英メディアにそう語り、意義を強調した。スターマー首相も法案を支持しているとされるが、レイナー副首相やラミー外相は反対の立場という。下院で可決された場合、上院でも審議される。
11月29日に審議されるこの法案の詳細は公表されていないが、報道によると、対象者は「余命6~12カ月」の患者に限定されるという。あくまで「本人の意思」が条件で、医師や裁判官の同意も必要となる。命を絶つ方法は、薬物の投与が想定されている。対象地域は、英国の人口約6700万人のうち8割以上を占めるイングランドと、西部ウェールズという。
ロンドン大キングスカレッジが10月に公表した両地域での世論調査によると、5年以内の安楽死合法化を「支持する」と回答した人は63%に上った。レッドビーター氏は「国民感情は変化した」と説明する。
一方で反対派は、安楽死が合法化された場合に、高齢者や障害者が「死を選ぶよう圧力を感じてしまう」(自由民主党のデイビー党首)ことを懸念している。「介護する家族らに負担をかけたくない」との思いから、早めに命を絶とうとする患者が多くなるとの見方もある。
欧州では既にオランダやベルギーで、医師の薬物投与などによる安楽死が合法化されている。キリスト教徒の中で特に自殺をタブー視するカトリック信者が多いスペインでも、21年に安楽死が合法となった。一方、英国や日本では自殺ほう助罪や嘱託殺人罪などに問われる可能性があり、刑事罰の対象となる。
安楽死は、医師が患者に薬物を直接投与する「積極的安楽死」▽医師に処方された薬物を患者が自ら飲む「自殺ほう助」▽延命治療を中止する「尊厳死(消極的安楽死)」――などに分類される。【ロンドン篠田航一】