2022年4月から不妊治療への公的保険の適用が始まり、経済的負担は軽減した。だが、不妊に悩む人を支援するNPO法人「Fine(ファイン)」の野曽原誉枝(やすえ)理事長は「体外受精や顕微授精などを含む高度不妊治療を一通りすると、自己負担は治療内容によって異なるが15万円程度にはなる。若い世代は特にまだ負担が大きい」と指摘する。
一般不妊治療からステップアップした高度不妊治療の保険適用には、年齢と回数に制限があり、治療開始時の女性の年齢が40歳未満なら6回まで、40歳以上43歳未満だと3回までだ。「一連の治療が終わる度に、『あと何回』とカウントダウンされ、精神的負担が大きいという声が多い。撤廃や緩和が必要だ」と野曽原さんは訴える。
治療では卵巣の状態を見ながら採卵日を決めるなどするため、通院回数が多くなる。野曽原さんは「時間的な負担があり、通院と仕事の両立で悩んでいるケースは多い。企業が既存の休暇制度を不妊治療で使えるように広げるなど少し改善すれば環境は大きく変わるのではないか」と語る。
「標準家庭」を内面化
1人目を出産した後、2人目をどうするのか、悩むケースもある。
近年は一人親家庭や子どもが一人っ子の家庭、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)など家族の形は多様化しているが、「家族を両親と子ども2人で描くイラストをよく目にするなど、『標準家庭』を意識する場面は今でも多い。それを内面化する人も少なくないのではないか」と野曽原さん。2人目に向けて不妊治療に取り組む場合、「治療の負担を知らない人からは『1人はかわいそう』と言われ、1人目を授からず悩んでいる人からは『1人いるからいいじゃない』と言われ、どこにも居場所がないように感じてしまう」と特有のつらさがあると指摘する。
Fineでは、同じ境遇の人だけで話ができる機会を設けているといい、野曽原さんは「普段は心に留めていることを話せたり、自分だけではないと思えたりすることで気持ちが軽くなることもある」と当事者同士で気持ちを吐き出せる場の重要性を強調する。【小林杏花】